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14 贈られてばかりは気が引けます


 私がぺこぺこと一通り平謝りしたあと、モルガンさんは朝食のセットを受け取ったところで思い出したかのように口を開いた。


「あー、と。ルリ、お前今日の予定は?」

「え? まずは部屋の掃除をしたいな、と思ってます。その後、時間があったら日用品の買い出しに行けたらと」

「ふん……とりあえず、飯食ったら話がある」

「話、ですか? わかりました」


 自分を待っている必要はないから部屋で掃除してろ、と言われたけど……一体どんな話だろう。またお説教されちゃうかな……?

 心当たりはないけど、ずっとそんな感じだったしまたなにか知らない間にやらかしたのかも。うぅ。


 最後にモルガンさんは、今日の朝食を食べる人はもういないと教えてくれたので、キッチンの後片付けを軽く済ませてから部屋へ戻ることにした。

 食べ終わった食器はみんな自分たちで片付けていたから、使った調理器具だけ洗えばよかったのですぐだった。


 日によって食べる人と食べない人がいるなら、前日には把握しておきたいよねぇ。前に料理を担当していたのがウーゴさん、だっけ。その人がどうしていたのか聞いておきたかったなぁ。


 考えても仕方ないので、その辺については他の人に聞こうかな。うん、そうしよう。


 ついでにさっき、掃除道具の場所も聞いておいたので今日は拭き掃除ができる! へへへ、ピッカピカにしちゃうんだから!


 埃をはらって箒で掃き掃除をし、さぁバケツに水を入れて運ぼう! ……としたところでモルガンさんがやってきた。キリのいいところでよかった!


「今、いいか」

「はい!」


 ドアを開け放していたので声をかけられる前に気づいていたんだけど、モルガンさんは一応ドアをノックしてくれた。紳士だ。


「あー……」

「モルガンさん?」

「いや、その。改まってするような大した用ではないんだけどよ」


 なんとなく言い難そうな雰囲気。大した用ではないと言いつつも、重要な案件だったり……?

 ドキドキしながら言葉の続きを待っていると、モルガンさんはぽつりと呟くように告げた。


「お詫び、を」

「え、お詫び? わ、私、何かしちゃいましたか!?」

「違う! 俺がお前に詫びるんだよっ! なんでそうなる!?」


 あれっ? いや、むしろなんで?

 お詫びされるようなことなんて、こっちだってなにもないのに。


 困惑していると、モルガンさんは少し戸惑いながらも説明を続けてくれた。


「昨日、ちょっと乱暴に運んで泣かしちまったろ。だからその」

「そんなこと気にしてませんよ? むしろ助けてくれたじゃないですか! 泣いてしまって私のほうが謝らなきゃいけないくらいで……」

「いいから! っつぅか、スィからも詫びと歓迎の贈り物もらったろ! だから俺のも黙って受け取っとけ」

「そ、れは、そうですけど」


 まさかあのことをまだ気にしていたとは。ほんと、こっちのほうが罪悪感を抱いてしまうよ。


 ただ、スィさんからお詫びの品をもらった手前、モルガンさんからはいらないとも言えず。こういうのって、貰う側のほうが気をつかったりするよね……!


 そして贈る側の気持ちもわかるんだ。素直に受け取って貰えたほうがありがたいって。


「いいんですか?」


 だから確認する意味も込めて、いただく方向で訊ねると、


「おう。といってもまだ手元にはねぇけどな」


 モルガンさんはニカッと歯を見せて笑った。


 普段は目つきが鋭いから、その無邪気な笑顔に驚いた。モルガンさんってこんな風に笑うんだ。


 っとと。見惚れている場合じゃない。


「手元にない、ですか?」

「ああ。お前このクランでさ、女一人で過ごすことになるだろ。だから……お前専用のバスルームを造ってやる」

「バスルーム!? そんな簡単に言いますけど、大変ではないですか!?」

「いや、別に」


 大変じゃない、ってこと? そんなことある? 

 あ、もしかして気をつかってくれているのかな。


【彼の感覚と技術は一般的ではありません】


 あ、そうなんだ……? ミルメちゃんったら、たまにこうして欲しいときに欲しい情報をくれるから助かる。


 えーっと、本人が大変だと思っていないだけで本当は大変な作業ってこと?

 つまりモルガンさんが凄腕ってことね。やっぱり只者じゃなかった!


「男と同じもん使うのなんて嫌だろ。元々、この建物は貴族の屋敷だから部屋に設置されてはいるが、いかんせん古いからな。湯が出なかったりすんだよ。で、修理するんだったら一から作ったほうがいいかと思ってな」


 修理するだけのほうが楽なのでは……? いや、でもこれはきっとご厚意!!


「もし作っていただけるんだとしたら、助かりますっ!」


 いや本当に。かなり切実に。


「よし。じゃ、早めに部屋を空ける時間を作ってくれ。一日ありゃ完成すっから」

「早め、というと明日とか? でもさすがに早すぎますよね。いろいろと準備とか……」

「明日で問題ねぇ」

「えっ、本当に?」


 今のやり取りだけで何度驚いただろう。それに、言い方や態度はぶっきらぼうだけどすごく考えてくれてるのが伝わる。


 正直、お風呂やトイレは気になっていたから本当に助かります。神様に見えるよ、モルガンさん……!


「任せな。ついでに要望がありゃ聞くぞ」

「さすがにそこまでは……」

「聞けるのは造る前の今だけだ」

「では! 遠慮なく!!」


 ここまできたらもう思いっきり好意に甘えることにします! しばらくの間はモルガンさんの食事にサービスしよう、そうしよう。


「ぶはっ! そうだ、素直になっちまえ。そっちのほうがやりがいがあるってもんだ!」


 わ、笑われちゃった。でもすごく楽しそうに見える。


 そうだよね、やっぱり遠慮も度が過ぎるとよくないって聞くし、任せろというのなら思い切り図々しくなっちゃおう。この人は無理なら無理って言ってくれる気がするし。


 というわけで、私はシャワーだけでなく湯船に浸かりたい旨を伝えることにした。あとはもし可能であればトイレとお風呂は別がいいということも。


 ……贅沢だったかな? とも思ったけど、別にする件については問題ないと言ってくれた。ほっ。


「しかし湯船に、ね。……本当に貴族じゃねぇのか?」

「ド庶民です!!」

「そ、そうか。まぁいい。もう聞かねぇよ」


 そっちかー。この世界の人は湯船に入らないのかな?

 地球にいた頃も、海外の人はシャワーで済ませる人が多いって聞いたことがあるけど、そんな感じ?


 前世では当たり前のことも、この世界では生活水準が高かったりするんだね。むむむ、判断が難しい。

 こういう時にミルメちゃんを頼るべきなんだろうけど、うっかり口を滑らせちゃうからなぁ。


 その後、モルガンさんは排水がどうの、配置がどうのと呟きながら部屋の前から立ち去っていった。去り際に何度もお礼を言ったけど、聞こえていないって感じだったな。

 集中すると周囲の音が聞こえなくなるタイプっぽい。職人さんだぁ。


「よし。それなら今のうちに掃除の続きをすませちゃおう」


 えへへ、お風呂ができるの楽しみだな。まさか異世界でもこんな生活ができるなんて。

 ここでの出会いに感謝しなきゃ。やっぱり神様のお導きとかだったり?


 みなさんと、神様に改めて感謝。ありがとうございます、ここでもがんばります!


 ◇


 翌日、昨日に引き続き朝食を用意していると、いつの間にか目の前で二対二の争いが勃発していた。


「チンピラはお呼びじゃないんだけど~?」

「ガキのほうこそ呼んでねーんだよっ!」


 ウォンさんとテッドさんのお二人と、双子のメディ、サンディの二人が向かい合って睨み合っている……!


 ちなみに喧嘩の理由は。


「かわいいルリとチンピラが町歩きなんて似合わないし! かわいい子にはかわいいボクたちが一緒にいたほうがいいに決まってるでしょ!」

「うるせー! なんだそのわけわかんねー、理屈はよ! 子どもは大人しく家でねんねしてな!」

「はぁ? ムカつくこいつら~。やっちゃう? メディ、やっちゃう?」

「あぁ? やんのか、こらぁ! おいウォン、今日という今日はこのガキにわからせてやろうぜぇ!」


 どちらが今日の私の買い物についてくるか、だ。どうしてこうなったの!?


 ウォンさん、テッドさんに今日の予定を聞かれたので、必要な物の買い出しと答えたらついて来てくれると申し出てくれたところまではよかったんだけど、それを聞いていた双子が「ちょっと待った!」と間に入ってきたのだ。


 自分たちこそが、一緒に買い物に行くんだー、って。う、嬉しいけどそこで争われると私はもうどうしたらいいのか……。


【静観しましょう】


 それでいいの!? ミルメちゃん!


「だいたい、チンピラたちが行ったところでなにもごちそうしてあげられないんじゃないのー?」

「うぐっ」

「万年金欠だもんね~」

「ぐはっ」


 あっ、双子がウォンさんとテッドさんに精神的ダメージを!

 というか金欠だったのに、昨日はごちそうになっちゃったけど……?


「その点、オレたちは女の子にご飯奢ってあげるだけのお金は余裕で稼いでるし~」

「プレゼントだってたっくさん買ってあげちゃうもんねー」


 いやいやそんな! さすがに年下の子になにか奢ってもらうのは気が引けるっ!

 というか、皆さんから何かを贈られてばかりでそろそろ罪悪感でどうにかなりそう!


「よし、勝ったー!」

「というわけで~! ルリ! 今日はオレらと買い物に行こうね!」


 そうこうしている間に、いつの間にか今日の引率は双子に決まっていた。ウォンさんとテッドさんは悔しそうにしているけど、そのまま引き下がったからいいってこと、かな?


「うん、いろいろ教えてもらえると助かるよ」

「もちろん、まっかせてー!」


 せっかくだから、この双子のことも知りたいな。買い物中にいろんなお話してみよう。


 笑顔でお礼を告げると、双子はそれぞれ力こぶを見せながら勇ましいことを言い出した。


「これでもボクたち、そこそこ強いからさ」

「ルリに近づく悪~いヤツも、オレたちがサクッとやっつけてあげる!」

「悪い、ヤツ?」


 町ってそんなに危険な場所だったっけ? たしかに昨日はちょっとしたトラブルがあったけど、暴力沙汰はなかったよ?


「そう! ルリはかわいいから絶対に狙われちゃうよ」

「一人で町を歩いたらダメだよ? 外は狼ばっかりなんだから」

「そこまで言うってことは……二人は狙われたことが、あるの?」


 あんまり立ち入ったことを聞いたらよくないかな、と思いつつおそるおそる訊ねてみたんだけど、双子はあっけらかんとした様子で元気に答えてくれた。


「まぁねー。ボクら、かわいいから」

「もちろん、秒で返り討ちにするけどね~」


 気にするどころか、狙われた際にどう撃退したのかを嬉々として話してくる。

 へ、へぇ、そうなの。だ、男性の、急所を……。


 逞しい。かわいいけど男の子なんだなって改めて認識できた。


「じゃ、準備ができたら玄関ホールに来てね!」

「オレらもそこで待ってるから」

「う、うん、わかった。急ぐね」


 あとでねー、と元気に腕を振って去っていく二人を見送り、再び朝食を用意する作業に戻る。

 なんだか彼らには振り回されそうな予感がするけど……ちょっと楽しみかも!


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