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11 sideモルガン


 まさかごちゃまぜな工具ども(ジャンブルツール)に女が入ってくる日がくるとはな。


「おい、お前ら。どこに行くつもりだ?」

「げっ、モルガン」

「なんだよぉ、モルガン」


 夕飯時にこそこそと階段を上ろうとしているウォンとテッドを見かけて嫌な予感がしたから声をかけたが……わかりやすくびくついてやがる。


 これはやっぱ、あれだろうな。


「嬢ちゃんのところに行くつもりだな?」

「だっ、だってよ、そろそろ腹が減るだろうと思ってよ!」

「そうだそうだ! きっと掃除に一生懸命で時間を忘れちまってるんだよぉ、ルリちゃんは!」


 そんなことだろうと思ったわ。まったく、油断も隙もあったもんじゃねぇな。

 とはいえ、こいつらはこんな(ナリ)だが弱い立場のモンに手を上げたり女に無体を働くようなやつらじゃない。そんな度胸もねぇしな。


 だが、押しかけられたほうがどう思うかまで頭が回らない馬鹿どもなんだよなぁ……。


「わかった。それなら俺も行ってやる」

「はぁっ!? やっぱてめぇもルリちゃん目当てなんじゃねぇか!!」

「違ぇわ、お前らと一緒にすんな! んなコソコソしてるやつら二人で行ったら、怖がられんだろ!」

「無精ひげに言われたくねぇんだよぉっ!」


 ぐ、まぁそれはそうだが。

 でも絶対にこの二人だけで行かせちゃだめだ。なんといってもトラブル体質だからな。


 こいつらが誤解されるだとか酷い目に遭うのはどうでもいいが、あの嬢ちゃんが巻き込まれるのはかわいそうすぎるだろ。


「騒がしいと思えば貴方たちでしたか。まぁ、大方ルリさんの部屋に行こうとしているのをモルガンが止めてるってところでしょうか」

「スィ、怖ぇよ!」

「見てたのかよぉ!」

「見なくてもわかります。あなた方が単純なのですよ」


 ウォンとテッドが怯える気持ちもわかるが、スィが単純だという気持ちもわかる。

 俺は大きくため息を吐きながら事の次第を説明してやった。


「大体合ってるが、止めてるわけじゃない。そろそろ夕飯だから呼びに行くっていうんでな。こいつら二人だけだと何やらかすかわかんねぇだろ」

「なるほど、それでモルガンもついていこうとしていたのですね。把握しました」


 納得したように頷いたスィは、続けて口を開いた。


「数時間前に伺った時はルリさん、せっせと掃除をしていましたが……まさかまだ掃除をしているのでしょうか」

「は? そんな休みなく動くか?」


 今日はあの嬢ちゃんにとっていろんなことがあっただろうから、休んだほうがいいと思うんだが……もし本当に休みなく掃除してるってんなら、余計に夕飯だって止めに行かなきゃだな。


 半ば呆れた気持ちでいると、テッドが急に騒ぎ出した。


「いやいや、スィ! それをどうしててめぇが知ってんだよぉ!」


 ……それはたしかに。


 思わず不審な目でスィを見るが、変わらず微笑んだままだ。


「え? それは数時間前に贈り物を届けに行ったからですが?」

「「贈り物ぉ!?」」


 予想外の返答だな。さも当たり前かように、表情ひとつ変えずに言うところが食えない男だ。


「ええ。今日は僕たちのゴタゴタに巻き込んでしまいましたし、お詫びの気持ちを込めて。それから仲間入りのお祝いに。このアジトに新しい寝具なんて気の利いたものがあるわけありませんからね。女性に対してそれはあまりにも酷だと思いましたから」

「くそっ、これがモテる男か……!」

「ずりぃぞぉ! 抜け駆けなんてよぉ! 俺もなんかプレゼントするっ!!」


 ったく、この二人はいちいちうるせぇな。何度も悪い女に引っかかって痛い目に遭ってるくせに懲りやしねぇ。貢ぎ癖もあるからいつも金欠だしな。


 というか、あのスィが打算もなく今日会ったばかりの女に贈り物なんてするかねぇ? トウルが気に入った女だからか? それとも裏があるのか。


 まったく読めねぇな……。揉め事を起こすんじゃなきゃ、別にどうでもいいけどよ。


「ぐっ、しかし金がねぇ……!」

「くそぉ、ルリちゃんへのプレゼントが買えねぇよぉ……!」


 で、この二人は案の定か。

 そうまでして女なんかに貢ぎたいかねぇ? 俺だったら素材か酒に使うわ、もったいねぇ。


「真面目に働くんだな」

「正論うぜぇぞ、モルガン」

「そうだそうだ!」


 こいつら……いちいち俺に反抗してくるのはなんなんだよ。殴りてぇ。


「モルガンがいるなら大丈夫でしょう。休むことも必要だと伝えてあげてください」

「なんで俺らだけじゃだめなんだよ!」

「そうだそうだ!」

「うるせぇ、さっさと行くぞ」


 付き合ってらんねぇな。

 俺が先に嬢ちゃんの部屋へと向かうと、ウォンとテッドも悪態を吐きながら慌ててついてきた。


 黙ってついてきやがれ、馬鹿ども。


「静かだな」

「ルリちゃ~ん?」


 部屋の前までやってきたはいいものの、ノックをしてもなんの反応も返ってこない。

 こんだけ呼びかけてんのに無反応ってのはおかしい、よな?


「まさかっ、倒れてたりすんじゃねぇのか!?」

「いや、それは」

「ないって言いきれねぇだろぉ!? ルリちゃん、ごめん、開けるぜぇ!」

「おい、こら、勝手に……!」


 俺の制止をきかずにテッドがドアを開ける。おいおい、女性の部屋のドアを勝手に開けちゃダメだろ。


 ってか普通に鍵が……かかって、ない?


 なんの抵抗もなく開いたドアの向こう、部屋の奥にあるベッドの上に嬢ちゃんはいた。いた、が。


「「寝て、る……?」」

「おいおい、無防備すぎんだろ。鍵かけろや」


 ぽかんとする二人の呟きを聞きつつ、あまりにも警戒心がなさすぎる嬢ちゃんの行動に呆れてしまう。

 いや怒りが込み上げてくるぞ、ここまでくると。


 こんな男ばっかの巣窟で、鍵もかけずに寝こけるヤツがあるか!!


「風邪ひいちまうよな? な、なんかかけてやったほうがいいんじゃねぇか?」

「でもさすがに女の子が寝てる部屋に入るのはよくねぇ、よな?」

「一応、そういう気遣いはできるんだな、お前ら」


 そんな中、こいつらの反応を聞いてると脱力するやら感心するやら。

 男としてどうかとは思うが、長所といえば長所だよな。


 はー、仕方ねぇ。俺はパチンと指を鳴らし、嬢ちゃんの近くに落ちていたタオルケットを上からかけてやった。


「ちっ。いいよな、魔法が使えるヤツは」

「俺は弱い魔法しか使えねーよ」

「使えるってだけでずりぃんだよぉ! 自慢かよぉ!」


 自慢にもならねぇよ、魔力も少ないしな。

 ちょっと火種を出したり、軽く手を洗う程度の水を出したり、今みたいに物を少しだけ風で動かすくらいしかできない。

 たしかに使えるだけ便利かもしれねぇが、手や道具を使ったほうが楽だし、普段は滅多に使わない。


 そう考えるのは俺だけじゃない。それこそうちにいる魔力が豊富なやつらでもなけりゃ、使おうとは思わないのが普通だろう。

 便利な魔道具が普及しているし、精神的に疲れる魔法を使うより道具のほうがずっといい。


 いや今はそんなことより嬢ちゃんだ。まったく起きる気配がないな……。


「よっぽど疲れてたんだな」

「あー、無理もねぇよな。モルガンに泣かされてたし」

「なっ、俺は別に泣かすつもりなんて……」

「酷ぇやつだよなぁ? 女の子を肩で担いで走り回るなんてよぉ」

「あれは! 緊急事態だったろ!」

「女の子はもっと大事に抱えるもんだろーが! お姫様だっことかよぉ」


 くそ、馬鹿コンビのくせに反論できねぇ! が、こいつらに言われると腹立つ!


「あー、うるさい。ここで騒いだら嬢ちゃんが起きちまう。ほら、戻るぞ!」

「話し逸らしやがったな?」

「でもよぉ、ルリちゃんは静かに寝かせてやりてぇ。誰も近付かないように俺らで見張ろうぜ、ウォン」

「お、いいな。階段とこで寝ずの番だ、テッド!」


 こいつら、ちゃんと離れた位置で見張ろうとしてるところがやっぱり善人だな。馬鹿だけど。

 トウルに言っておけば全て解決だろ。少しでも嬢ちゃんの部屋に近づけば次の日まで動けない罠でも仕掛けるだろうよ。


 まー、金がない分なにかしてやりてぇみたいだし、好きにさせとくか。


「テッド、交代で飯食ってこようぜ」

「おっ、じゃお前先に行けよぉ」

「いやお前が先に行けよ」

「いや、お前が……」


 ……付き合いきれねぇな。

 階段上で不毛な言い合いをする二人を無視して、俺は一足先に一階へと向かう。


「……お詫び、か」


 スィが言っていた言葉が妙に引っかかる。


 いやっ、あれは俺に落ち度はねぇと今も思うが……泣かせちまったのは事実なんだよな。くそっ。

 女は怒らせると怖いっていうし、なんか考えとくか? だがあの嬢ちゃんはあんまそういうタイプでもなさそうだが……。


『ぐすっ、ごめ、なさ……どこも、なんともない、です、ぐすっ』


 あの時の嬢ちゃんの泣き顔がフッと浮かぶ。

 ……なんだこれ。今さらながら罪悪感がやべぇ。


『むしろ運んでくれてありがとうございました、モルガンさん!』


 次に、無邪気な笑顔が浮かんだ。本気でもう気にしてねぇって顔で、無防備に笑って……。

 黒い目だと思ってたが、うっすら青みがかっていたな。宝石みたいにキラキラして……。


「いや、なに思い出してんだ、俺。気持ち悪……」


 いい年したおっさんが、まだ子どもだろう少女に対してなんてざまだよ。

 あんなタイプ、女でも男でも会ったことがねぇからな。子どもですらもっと小憎たらしいくらいだしよ。


 どうやって育ったらあんなに純粋で、無垢で、素直になるんだ? まるで俺が極悪人に思えてくるぜ。


「ちっ」


 勝手に顔が熱くなる。照れるような歳でもねぇのに。でも仕方ねぇよな。

 だってあの嬢ちゃん……ルリは、正直めちゃくちゃかわいい。それは事実なんだからよ。


「はぁ。悪い虫が寄ってこねーように、見てやんねぇとな。クランの連中は……まぁ、酷ぇことはしねぇだろうが、本気で惚れるやつは出てきそうだ」


 だというのに鍵もかけずに熟睡する無防備さ。頭が痛くなるね。


 今後の生活が思いやられる。はぁ、なんで俺がそんな心配までしなきゃなんねぇんだ。


 男ばっかりのクランで女が生活するには不便なこともあるだろうに。


「……あ。そんなら、お詫びはあれがいい、か?」


 いや別に、俺は悪くねぇ、けど。

 泣かせたお詫びに……そうだ、泣かせちまったお詫びなんだからきっちりしたもんを返さねぇとだよな。


 うし、やっぱあれしかねぇな。

 明日、ルリが起きてきたら伝えにいくか。お詫びを、造らせてくれってな。


次話から週一更新になります!

毎週火曜日の予定ですが書けたら突発的に更新するかもしれません!


いつもお読みいただきありがとうございます(*´﹀`*)

いいねやブクマ、★★★★★評価などなどお待ちしてますぅ!!!(欲望を隠すことなく)

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ルリ争奪レースを1歩先に抜きん出るのは一体誰になるのか(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク
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