1 ごちゃまぜな工具ども
——突然ですが。
私には、見る目があります。
「お、ルリ! ずいぶん早起きなんだな」
クランの食堂で朝食の準備を終えた頃、ガタイのいいスキンヘッドの男性が気さくに声をかけてきた。
うーん、相変わらず大きい。二メートル以上はあるんじゃないかな?
クランの建物はこの人のために天井が高く作られているんだって。私がここに来たばかりの時、リーダーが文句を言いながら教えてくれたっけ。
この人はハマーさんといって、このクラン一の力自慢。身体の大きさと顔にある大きな傷、そして厳ついお顔からパッと見すごーく怖い人に見えるんだけど……本当はとても良い人なのを私は知っている。
「へへ、目が覚めちゃって。おはようございます。朝食できてますよ!」
「ありがてぇ! 朝一はしっかり食べなきゃ力が出ねぇからな!」
「いっぱい食べてくださいね。たくさん用意したので」
「おう、ありがとな」
わしゃわしゃと頭を撫でる手つきもほら、こんなにも優しい。
指三本ほどで私の頭を掴めてしまえるほど大きいから、威圧感はすごいけど。
そんな時、ものすごい勢いで頭にあった手が払われ、ぎゅっと両サイドから抱き着かれる。
ふわっと香るフローラルな香り。
視界の端でサラリと揺れる二色の銀髪。
「こーらー! ハマーの粗暴な手でかわいいルリの頭を触んないでー」
「そうだよ、綺麗な黒髪が乱れる! ルリ、頭痛くない? 大丈夫?」
「お前らっ、俺をなんだと……!」
「「きゃーっ! こわぁい!!」」
ぎゅむぎゅむと二人の間に挟まれ、もみくちゃにされる私。双子ちゃんは朝から元気いっぱいだなぁ。
「あ、あはは、大丈夫だよ。ハマーさんは優しいもの」
「「優しいのはルリだよ! ゴリラを庇うなんて天使なの!?」」
「おい」
声を揃えて叫んだ双子の頭にハマーさんのゲンコツが落ちた。あぁ、痛そう。
青みがかった銀髪と緑がかった銀髪をそれぞれツインテールにしたこのかわいい二人はまだ十六歳の双子ちゃん。
レースやフリルのついたかわいい服を着ていて、まるで前世にいたアイドルみたい。
こんなにかわいいのにこの二人は斥候の能力が高くて、情報収集もお手の物。時には潜入調査をしたりといろいろと器用な二人なのだ。私より若いのにすごいよねぇ。
そんな二人は、ハマーさんにゲンコツされてもめげずに私に抱きついたままだ。
「はー、今日もルリはかわいい。世界一かわいい」
「優しくてかわいいクランの宝。世界の至宝」
「い、言いすぎだよ……」
しかもひたすら私のことを褒めまくってくる。
懐いてもらえるのは嬉しいけど、大げさに褒めすぎっ!
それにねぇ、この程度で優しいなんて言ってたら世の中は善人だらけだからね? あと、ものすごく恥ずかしいっ!
「ほ、ほら、二人とも。はやく食べないと」
「「あはは、照れちゃってかーわいい!」」
「もうっ、今日は朝早くから仕事だったんじゃないの?」
「あー、行きたくなーい。でもルリの料理はおいしいから食べるっ!」
「そうだね、急がないと全部食べられちゃう!」
双子はきゃぴきゃぴしながらようやく私から離れると、料理を取りにるんるんとキッチンのほうへと向かった。ふぅ、まるで嵐のような子たちだよ。
そうこうしている間に次から次へとクランのメンバーが起きてきた。
まだ眠そうにしている人、元気に挨拶してくれる人、目つき鋭く睨んでる……ように見える人。
いろんな人がいるけど、全員とても優しいんだ。
こんな身元不明の私を快く仲間に入れてくれるんだもん。
「よう、ルリ」
「トウルさん! おはようございます!」
軽く手を上げて挨拶をしてくれたのはこのクランのリーダー、トウルさんだ。
なんでもほいほいこなせてしまう天才肌とかで、メンバーたちからも慕われているすごい人。
ただ……いつ見てもその風貌が裏稼業のボスなんだよねぇ~。
ピンクの柄シャツにスーツとサングラス、出かけるときに羽織る黒い羽コートなスタイルは長身に映えすぎて出会った瞬間、誰もが硬直してしまう。
黒い髪にサングラスの奥で光る金の目がまた鋭くて、この人には王様だって逆らえないんじゃないかって気がしてくるくらい。王様、見たこともないけど。
「今日も美味そうだ。いつもありがとうな」
「いえ、そんな。どうぞ、たくさん食べてくださいね」
「ああ。ルリはいい子だなぁ。癒されるぜ」
でも、すっごく優しい。
他のメンバーが言うには「ルリにだけだよ!」とのことだけど……トウルさんはメンバーのことを本当の家族みたいに思っているんだよ。私は知っているのだ。
実際、クランとは家族のようなチームだと思う。全てがここみたいにフランクな関係なのかはわからないけど、世界中のあちこちにクランは存在する。
作られた目的もクランによっていろいろだけど、この『ごちゃまぜな工具ども』はそれぞれの得意分野をいかして互いの目的を達成するために作られたのだそう。
利用し、使用される。みんなはギブアンドテイクな協力関係にすぎない、っていう認識みたいだけど。
素直じゃないだけでメンバー全員が居心地の良さを感じてることも私にはお見通しだ。
ちなみに、ごちゃまぜな工具どもは実力のあるクランだと言われていて、困ったことや頼みたいことがあった場合、組織や人々からの依頼を受けることもあるんだって。
でもリーダーがこの風貌で、メンバーもそれぞれ、その……近寄りがたい雰囲気を醸し出す人が多いから、滅多にそういう話はこないみたい。みんな怖がっちゃうんだよね。
問題ばかり起こす人や子どももいることから、周囲の人からは玉石混淆のクランだと言われているけどとんでもない。
彼らは一人一人がすごい能力を持っている、才能に溢れた人たち。だから珠玉混合のクランだと思うんだ。
「せっかくツールを名乗ってんのに、なかなか客がこねぇんだよなぁ」
だというのにリーダーだけでなく全員の自己評価がこれ。理解されないことに拍車をかけていると思う。
もう! もっと誇っていいのに!
ちょおっとヤクザとか暗殺者とか詐欺師とかそんな風に見えてしまう人が多いだけなのに!
……ひ、人は見た目が全てじゃないと思うしっ!
そりゃあ、私も。前世で出会っていたら誤解して怖がっていた自信があるけど。なんなら初めて会った時は怯えたりもしたけど。
今は、このクランが大好き。
せっかく神様がこの世界に転生させてくれたんだから、好きな場所で好きに生きなきゃ損だよね。
とはいえ私も、仲間に入れてもらった以上は役に立てるようにがんばらなきゃ!
優秀な人たちに囲まれて恐縮しきりではあるけど、縮こまっていたって邪魔になるだけだもの。
もう見る目がないあの頃の私とは違うんだから。
あの頃……そっか。
もうあれは数カ月も前のことなんだなぁ。
よくある「神様が出てくる系」の転生導入と逆ハーレムものってやつを書いてみたい、という突発的な衝動だけで始めました。
久しぶりの書けたら投稿スタイル。
なお、メインヒーローを誰にするかは決めてないので今後の感想、お待ちしてますw(最終的なお相手は一人だけ)
ブクマや★もポチッとしてもらえたら嬉しいです!
ちょろいのでモチベーションがぐんぐん上がります。私の。