少女は生を願い
古文は正誤すら分からないので雰囲気としてお楽しみください
「──────これで終いだ。まだ続けるというのなら大蛇を刎ねる。それをお前は望まぬ、だろ?」
「……よかろう、我の負けだ。小娘の一人くらい好きにすれば良い」
ある一人の少女の命を賭けた神と神の戦いは長剣を携えた神の勝利に終わった。敗れた神の衣は裂けて血を覗かせ、眷属の自慢の鱗も傷だらけの一方で勝者は息一つすら乱していない。まさに圧倒的と言える。
敗れた神は戦いには自信があった。眷属達と共に戦えばこの世で最も強いという自負すらあった。なのにこの有様だ。戦っている最中、全てを手玉に取られているような錯覚すら覚えた。
その疑念を払拭するべく敗者は勝者に問おうとした。しかし……
「簡単な話だ。俺はお前の戦いを知っている、それだけだ。曵よ」
問いを遮るように答えを説いた。まるで何を問おうとしたかを事前に知っていたかのように。勝者は敗者に目もくれず、眷属の贄になるはずだった少女へと歩み寄る。
「此度も約束を果たした。共に帰ろう、我が妻よ」
少女は命を救われた事に喜び、恩に報いるべく共に生を歩み、尽くそうと心に決めた。
神様の言う約束の意味を知らぬまま──────
『そもそもこの所に進み出でたる者は、かの大納言・近衛泰守が御子、近衛高時と申すものにて候ふ』
大太鼓、小太鼓、手打鉦、笛。四つの楽器が奏でる音楽に合わせて私は舞う。
神社に伝わる十二の演目、今回はその五つ目。黒き炎を纏いし龍に少年が立ち向かい打ち倒す、その優れた武勇を称える『童炎舞』。私はその少年役として神楽を舞う。この演目は登場人物が一人の為、龍の置物が必要な事を除けば演者が私だけで事足りるので今回の場には最適という結論により選ばれた。逆を言えば少年役一人だけで少年と龍を表現しないといけないので神社に伝わる演目の中ではかなり難しい演目ではあるがやるしかない。
強大な存在に立ち向かう少年の勇敢さ、相対する龍の獰猛さを私の体をすべて使って表現する。頑張れ私、なんとかごまかせ。
『あな、うるはしき桜よ。恐ろしき龍を討ち果たさずば、今は見えずなりぬべし』
龍と対峙するまでの道すがらに植えられている桜に思いを馳せる。もし龍に勝てなかった場合はこの美しい桜も全て燃やし尽くされてしまう。それどころか山が、村が、何もかもが黒い炎に染められてしまうだろう。
それは嫌だ、この景色を楽しめる平穏な世を守る為にも、近衛高時は勇気を振り絞って黒き炎を纏う龍に立ち向かう。
ところで近衛高時って誰だろう? ネットで調べても出てこなかったんだよねー。無代神社に伝わる演舞の登場人物だしやっぱり創作上だけの人物なのかな?
っとと、それは今気にすることでは無いね。集中集中……。
あれよあれよと終わりは近づき────
ここからが大一番、近衛高時が龍に刃を突き立て今まさに龍を討ち果たそうという場面。話の盛り上がりに合わせて奏楽も音を大きくする。
地を強く踏み、扇子を掲げて大きく、そして素早く舞う。少年の勇敢さを、炎を纏いし龍の獰猛さを、これでもかと私の体を大きく動かして見せつける。大一番の〆に近づきどんどん早くなる太鼓に合わせて刀代わりの棒を掲げ、最後の音に合わせて龍に突き刺す。
『凶暴なる龍の目を穿ち、長き打ち合ひの末に、つひに討ち果たされぬ』
見事、近衛高時は龍を討ち果たした。龍は死してなお黒き炎を纏い続けたが、黒き炎によって燃え尽きた木々で出来た灰を龍に振り撒くと黒き炎も鎮まった。
その後、黒き炎を纏う龍が再び世に現れ暴れることが無いように近衛高時は討ち果たした地に龍を祀る神社を建てたとさ。
「これにて一件落着、めでたしめでたし……以上、『童炎舞』でした。」
締めの挨拶と共に正座をし、礼をする。なんとか無事に演目を終えることが出来た。出来栄えとしては完璧とは言えなかったが初披露と死ぬかもしれないというプレッシャーの中ではそれなりに上手く出来た方だとは思う。気を緩めたいが神様の前である以上そうはいかない。
肝心の神様の評価についてだが……なんと、少しばかりではあるが拍手をしていただけた。有難き幸せです。
「………………いかがでしたでしょうか?」
少しだけ顔を上げ神様の反応を伺う。神様は表情を変えず私を見ている。……これは……どっちだ?
「……拙いな」
「うぎゅ。申し訳ありません……」
神様としては私の神楽の出来は悪かったらしい。これは……駄目だったか?楽しませることは出来なかったかもしれない、つまり私は殺される?どうかご慈悲を……。
「……拙い。だが、お前は我の要求に見事応えた」
初めて神様の表情が柔らかくなった。敵意や害意を向けるような目ではなくなりどちらかと言えば好意的な目をされている。ただ、単に好意的な目というよりも……?
「決め事は違えぬ。命拾いしたな、人よ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
ともあれ神様からのお言葉として、私は無事殺されることなく生きることを許された。感謝の言葉と共に私は深く頭を下げた。私の命の峠は越えたことでつい表情も緩んでしまったが神様からは見えていないはず……神様の御前ですよ、私。気を引き締めないと。
あとは神様を立てつつどうにかしてこの場を去ることが出来れば良いのだが……果たして上手くいくのだろうか。いや、上手くやるしかないのだけど……。
神様をよく観察して、なおかつ神様の機嫌を損ねないように気を付けつつ臨機応変に色々して最終的にアルコンさんになんとかしてもらう作戦で行きましょう。
観察、観察……んー、やはり好意的というには何処かおかしい。じっくりねっとり嘗め回されるような視線と言いますか……なんだろう?分からん。
「……あぁ、愛いな」
「え、私がです?」
愛い?今私の方を見て愛いって言いました? もしかして可愛いって言われてます? 自分の顔はあまり見ないですが村ではいつも可愛い可愛いと褒められてますので自分の可愛さには自信があります。お気に召したのなら幸いです……が、このタイミングで容姿を褒められるのはなんか嫌な予感がしますね?容姿じゃなくても嫌な予感がします。
「我を畏怖し、恐怖してなお軽薄なその態度……実に愛い」
……これ、ド直球にアホと言われてないですか?言われてますよね?
……まぁ昨日今日を思うと『そうですね』としか言いようがないので否定する気もありませんが。
「さて、事が済んだなら行くぞ。邪魔して悪かったな」
「あ!アルコンさん、ちょっと待っ……」
「待て。去る事を許した覚えはない」
アルコンさんも嫌な予感がしたのか早々に立ち去ろうとしたが神様に引き留められた。これは何かしら要求されるパターンだ、機嫌を損ねないようにしないと……。
「いや、貴様が去るのは構わぬ。だが此奴は置いていけ」
神様は此奴という言葉と同時に私を指差した……え、私だけ?
「貴様に此奴は釣り合わぬ……人よ、我の眷属となれ。なに、悪いようにはせぬ」
「え、お断りさせていただきます……あっ」
…………やっべ、口が滑った




