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神との邂逅

 ──────私は世空様にお会いしたことがない


 おかあさん曰く、世空様は実在する。ただし気まぐれであり、無代神社で祀られながらも定住されることなく世界を巡っている。……とのこと。


 正直半信半疑だった


 誤解なきよう先に言っておくが、私は世空様の存在を疑ったことはない。が、世空様とは形無き存在でありもっと超常的な神様だと思っていたからだ。というか世空様に限らず神様と呼ばれる存在全てがそうであると思っていた。

 神様とはそうあるべき存在であると。


 今日この時までは──────






「我の眷属が騒々しい。原因は貴様か」


 両膝を揃えて膝を折り、両手を揃えて地面に添え頭を下げている私に神様が問う。冷徹で荘厳ある声によって私の思考は朧気になる。

 怖い。怖い。神様の怒気は私に纏わり憑き、私の心を削る。息が苦しい、目の焦点が合わない……正気を保てているのはひとえにアルコンさんのおかげだ。

 なんとか意識は保ちながらも複雑な思考が出来なくなった私の脳は神様の質問を何の含みも無しに答える。


「……………………分かりません」


「…………ほう」


 分からないものは分からないと答えるしかない。正常な思考能力があれば神様の眷属達が慌てている理由を推察出来たかもしれないが今の私には不可能だ。

 神様の機嫌を損ねてしまった、それは間違いない。私に纏う重圧がさらに濃くなるのを感じる。


「……おい。今のは質問が悪いんじゃねぇか?」


 一度耐えた重圧にもう一度呑み込まれそうになるところに待ったをかけたのはまたもアルコンさんだった。


「控えよ。我は此奴に問いかけたのだ。貴様ではない」


「だからだよ。俺達はあんたが怒ってる理由すら知らない、こいつが答えれる訳ないだろ」


 アルコンさんは神様にも淡々と異議を唱える、臆することなく堂々と。神様の纏わり憑く黒い怒気もアルコンさんにとっては平気なのだろうか。


「……我が眷属たる蛇を怒らせたのを知らない。などととぼけるつもりではあるまいな?」


「あぁ、そういう。……だとよ」


 あくまで私が答えろ、ということですか。……分かりました、そうすべきなのであれば私が神様の問いに答えます。


「…………貴方様の眷属である白い大蛇を怒らせたのは私達ではありません。……っ!……わ、私達ではない誰かが大蛇を刺激して怒らせ、その結果偶然近くにいた私達に怒りの矛先が向いてしまった……という訳です。決して……決して、私達が刺激したというわけではありません」


 これが今の私が答えられる最大限だ。私達もどうして襲われているか分からなかった以上答えようもない。

 それでも、私は答えることが出来た。……途中怯えてはしまったが、呑まれることなく最後まで答えを示すことは出来た。


「……だとよ。捕捉だが逃げてる最中に目くらましくらいの攻撃をした。が、さすがに正当防衛だ。……これで十分か?」


 私の答えにアルコンさんが捕捉を付け足す。確かに私は牽制とは言え眷属である大蛇に攻撃している。そこを後から神様に追及されると不味かったかもしれない。アルコンさんはそれをあらかじめ潰しておいてくれた。……重ね重ねありがとうございます。

 ともあれ神様からの問いに私は答えた。そんな私に神様は……。


「…………嘘は無い、か。よかろう、貴様の主張を認めよう」


 認められた。私達に非は無い、あるいは悪意が無いと受け取ってもらえた。

 私に纏わり憑いてた黒い霧のような重圧もようやく晴れて私の心にも少しの余裕が生まれた。

 まだ浮かれてはいけない、まだ神様の面前だ。ちょっとガッツポーズしたい気分だがそれは脳内に留めておく。


「しかしだ、人よ」


 脳内のガッツポーズを急いで引っ込める。


「貴様が我の領域に無断で足を踏み入れた、という事実には変わりない」


 どうしよう。どうあがいても言い逃れ出来ない事案です。先ほどより言葉の雰囲気は軽いものの依然危険な状態には変わりない様子。

 正座して地面に顔を向けている状態からアルコンさんに助けを求めるべくちらっと様子を見る……こ、この人、胡坐かいてやがりますが!?アルコンさん!?神の御前で……そもそもそういうの気にする人じゃないからいっか。いいのか?


「……我は近頃機嫌が悪い。眷属共が殺気立つのも奴等がのさばる故にだ」


 奴ら?神様に敵対してる誰かがいるってことかな?


「眷属共は其奴らと志を共にする者かどうか判別が出来ぬ、故に無差別に襲うしか出来ぬ」


 つまり私はその者達の仲間である可能性を探られていたわけですか。そりゃ怒気纏いますよね。むしろ問答無用で殺されなかっただけ物凄い幸運だな、私。


「眷属の働きによって貴様が不本意ながらも我が領域に踏み入れることになった。と、言うならば一度だけ機会をやろう」


「……ありがとうございます」


「何をしてもいい。とにかく我を楽しませよ。出来なければ殺す。つまらなくても殺す。」


「……わかりました」


 神様を楽しませろ、それが出来なければ私は死ぬ。自分の命がかかっている事を除けばやることは単純明快だ。


「……では、神楽を舞わせていただきます」


 巫女である私が神に捧げられる催しとなれば神楽しかない。神楽を舞って神様に満足してもらえることを祈ろう。……え?巫女舞じゃないのかって?おかあさんに教えられたのは神楽なんですよ。曰く無代神社に代々伝わる伝統的な舞、世界を巡った世空様から伝えられた演目らしい。

 何をどうしたら生きるか死ぬかの瀬戸際で初めて(おかあさん以外の)人前で神楽を舞うことになってしまったかは考えないことにする。……まぁおそらく私の自業自得ではあるが。


 というわけで急いで神楽のための準備に取り掛かる。本来なら衣装や小道具類が必要なのだが……用意されてた荷物にはさすがに用意されていなかったのであるものだけで何とかするしかない。幸いにも扇子だけはあったのでこれとそこらで拾ったいい感じの棒でなんとか誤魔化しながらやりくりするしかない。


「……本当にやるのか?」


 若干困惑した表情でこちらを見つめるアルコンさん。なんかこう……もっとやりようがあるだろ?とでも言いたげな表情ですね。


「私は神に仕える巫女ですので。世空様ではなかろうと神様がやれと言うのならばやるのが巫女です……多分ですけど」


「……そうか。なら勝手にしろ」


 とりあえずアルコンさんの許可は取れたのであとは私自身が目の前の神様を楽しませることが出来るかどうかにかかっています。両頬を軽く叩き私自身に気合を込める。頑張れ……頑張れ……。


 色々と仕込みをしながらスマホを起動して、あらかじめ録音しておいた奏楽を再生する。今私が居る場所だとスマホの音量が足りず音が響かないので衝撃を増幅するお札をスマホに貼り付け、強引に音量を大きくする。

 これで準備は整った。あとは私が出来る事を出来るだけ頑張るしかない。


 扇子を広げ、地を踏みしめてスマホが奏でる音楽を背に私は舞う。

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