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箱庭を紡ぐ夢物語 其の捌

「────そうして狸が柿をこっそり動かしてる事を見破った翁が知恵比べに勝ち、観念した狸は持っていた金銀財宝を翁に渡し、二度と翁に悪戯をしないと誓いましたとさ。めでたしめでたし」


「おぉ~……」


「どうでしたか? これが私の村に伝わるお話一つですが……」


 私達は水汲みをしながら談笑していた。会話が盛り上がっていた最中、私達の世界に勇者のお話しのような物語はあるのかという話になった。

 世間に浸透しているような物語でもよかったが私らしいものをと考えた結果、英雄譚とは少し違うが無代神社に伝わる演目の一つを語る事に。

 神楽舞ではなく語りではあるが、私が知る私の世界だけの物語を懇切丁寧に伝える。




────時はさかのぼり


「お、遅かったから心配したが無事だったか」


「すいません。メルルさんに勧められてユーナさんの演説を聞いてました……」


 ユーナさんの演説も終えて皆さんが進軍していったのを見送り、私は慌ててトレイシーさんの元へ帰ってきた。

 本来は手早くお使いを済ませて帰ってくるつもりだったがメルルさんに引き留められたことにより想定よりも大幅に遅くなってしまった。

 いえ、言い訳をするつもりはありません。ユーナさんが演説すると知って聞かないという選択肢は私には取れません。つまりは私の責任です。


「あぁ、聖女様のか。ならいい」


「いいんだ」


 私が言うのもなんですが……緩すぎません? そんな調子で大丈夫なんですか?


「ところで、なんでおまえがいるんだ?」


 そういってトレイシーさんは私の横にいるアランさんの方を見る。


「ミカンさんの護衛を頼まれました。許可は得ています」


「すいません忙しい中わざわざ……」


 襲撃の直後に私一人にするわけにはいかないとアルコンさんが護衛を手配した結果こうなりました。本来は軍団長さん直属の兵士として前線に立つはずであろう人のはずが結果として後方の配置に……。

 なんというか、こう……申し訳なさがすごい。


「要人なんてそんなもんだ。気にするな」


「私はそういう立場か……?」


 所詮私は旅人のような立ち位置なのでは? という疑問が払拭できないでいる。この世界の人達からすればアルコンさんやミコトさんがアッシュさん達勇者一行と行動を共にしているだけなのですが……。

 まぁアルコンさん達に対する義理立てのようなものと思っておきましょう。そういうのも大事ですからね。


「まぁいい、ここにいるなら最低限仕事はしてもらう。というわけで二人で水を汲んできてくれ。量がいるから何往復もしてもらうぞ」


「わかりました!」


 私は手をピンと上に掲げ、元気よく答える。水汲みだって大事な仕事、だからこそ他に出来る事がない私がきちんと勤めてみせましょう。


「あ、アラン。万が一地下に通じる穴を見つけたらすぐに逃げて報告しろ。事前に虱潰しに捜索して埋めてはいるが一応気を付けておけよ。水汲みなんかより最優先でな」


「承知しました」


 そういえばモンスターは地下に住んでるんでしたっけ? その洞窟がもしかしたらこの下に残ってるかもしれないと。

 あー……そりゃ護衛いりますね。安全地帯と思っていた後方から急に襲撃される可能性があるとなれば油断もしてられないと。


「すいませんアランさん。私の護衛、お願いしますね」


 私は緩んでいた心持を改め、アランさんに自分の口で護衛をお願いする。


「わかりました、任せてください!」


 私の願いに呼応するかのようにアランさんは力強い敬礼をした。皆さんの願いを肯定したいという私の想いに────





「それで、どうでしたか?」


 水が張った木製のバケツを両の手で一つずつ運びながら私は神社に伝わる物語を語る。気は抜けないといっても水を運ぶという単純作業、周囲に気を配りつつ水汲みという目的を遂行する。


 仕事をこなしながら語ったのは私の神社に伝わる演目の十番目だ。本来は神楽舞の演目ではあるが、口頭で要点を語る分には問題ない。仕事をこなしつつも雄弁に物語を語り、それについての感想をアランさんに求める。


「そうですね……やはりモンスターを連想させるような動物が出てくるのが印象的でしょうか」


「あー……選ぶ演目を間違えたでしょうか」


 動物の姿に近しいモンスターとも戦っているこの世界の事情を鑑みると得策ではなかったかもしれない。


「いえ、異なる世界の文化に触れるいい機会です。むしろ、積極的に話してください!」


 どうやら気分は損ねていなかったようだ、一先ずは安心と言ったところ。それどころかもっとお話して欲しいと求めてくる。なんとも不思議な方だ。


「アランさんってもしかして英雄譚のようなお話とか好きだったりします? ホーロンさんのお話もそうでしたが⋯⋯あっ、」


 話の流れで名前を出した事でホーロンさんを探していた事を思い出した。先程は聞きそびれましたが今なら聞くことも出来るでしょう。


「ところでアランさん、クロスボウを所持した髭を生やしたドワーフの方を見ませんでしたか?」


 ホーロンさんの身長を手で示してアランさんに教えていると、聞き覚えのある声が上から聞こえてきた。


「ワシならここにいる」


「ホーロンさん!」


「え、ホーロン様!?」


 とっさに上を向くと、木の枝に座って幹にもたれかかっているホーロンさんがそこにはいた。

 探してた人が見つかって喜んでいる私の横で噂の英雄の存在にアランさんが声がうわずって荒げていた。そんなに驚かなくても⋯⋯。


「今まで何処にいたんですか、探したんですよ?」


「仕事も終わったから思い出を頼りにそこら辺を歩いていただけだ」


 そっか、ホーロンさんはここが故郷ですもんね。感傷にひたるのも当然の話です。


「⋯⋯いや、声くらいかけてくださいよ。急にいなくなられると心配するんですからね」


「お前以外は気付いてた」


「えっ」


 道理で誰も騒がなかった訳だ⋯⋯つまり私が一人で慌てていただけと。

 それでも誰か一人くらいは私に教えて欲しかったなぁ。


「それよりも、お前らは今仕事中じゃないのか? 護衛くらいはしてやるから早く足を動かせ」


「そ、そうですね」


 私達はホーロンさんに催促され、止めていた足を改めて動かし始める。立ち話で遅れたぶんを取り戻すため、私は大地を力強く踏みしめる。

 ホーロンさんは木の上から動くことなく私達を見守り続けている。手伝う素振りは見せないがクロスボウを手放すことなく、私達が何かに襲われたとしても対処出来るようにしてくれているらしい。




 それから何回か往復を繰り返し、川で水を汲んでいる時にアランさんがポツリと呟いた。


「ホーロン様は生きておられたのですね」


「勝手に死んだことにされてる⋯⋯!?」


 御本人は元気に生きておられますよ!? そんな失礼なことをしたのは誰ですか?


「い、いえ。先輩の話だとモンスターの群れに突撃した後帰ってこなかったという口ぶりでしたので、つい⋯⋯」


「今も元気にしてますよ……」


 ホーロンさんに聞こえないタイミングだったから良かったものの、二階級特進と同じ扱いされてると本人に聞かれてたらどうなってたことやら⋯⋯。

 いや、意外とホーロンさんも納得するかも? 気がついたら奥さんの所にいたことしか覚えていないらしいですし、死んだと噂されてても怒りはしても否定はしないかもしれない。


 そんなことを考えながらも私達は少し枯れている川から水を汲む。少しでも役に立つために────







「────兵士達よ! 進め! 進めぇ! 勇者の進む道は我らでこじ開けるのだ!」


 軍団長のおっさんの号令によって兵士共が突撃し、モンスターの群れを掻き分けていく。街の中央にそびえたつ神殿……いや、この世界では教会だったか。そこまでの道が少しずつ開かれていく。

 その教会には街の地下に広がる迷宮に繋がる一番大きな入り口があるとされている。そこまで勇者一行を温存するためだけにこれだけ大人数の兵士がモンスター共と戦っている。そうして出来た道を俺達は悠々と走り抜ける。

 ……まぁ、なんというかアレだな。


「根本的に勇者任せだな……」


「どうした急に?」


「気にするな、独り言だ」


 うっかり口に出してメルルに聞かれたか……ま、それはいい。

 勇者任せ、厳密には根本の作戦が勇者一行だよりすぎる。これじゃ戦争は戦争でも物語として語られる英雄譚のそれだ。

 当然勇者がいない時もあるはずだし、実際それでも数百年とやれてきたんだろうが世界の仕組みとしては歪だ。

 勇者という規格外が生まれたとしてもその一人を頼る戦争なんて限界がある、こんな世界の仕組みはいつか必ず崩壊する。世界そのものを操作できるような存在がいない限り、な。


「ま、俺が気にすることではないがな」


「どうしたさっきから?」


「考え事だ」


「……そうか」


 結局俺はこの世界と無関係だ。この世界の事はこの世界の人類がどうにかしろとしか言えない。

 いつか人類やモンスター共のどちらか、あるいは両方の方針が変わって世界に大きな変化があるかもしれない。その時に必要なのは普通の人間だ、英雄じゃない。結界を壊したへるたんの設計者みたいな、な。

 どちらにしろ勇者に頼り切りの体制なんて今すぐ変えるべきだ……ああ、くそ。俺の嫌いな神の顔が思い浮かんで気分が悪くなる。


 いや、今はそんな事気にしてる場合じゃねぇな。この世界そのものも気がかりだが、正直目の前の違和感の方が問題だ。

 勇者一行が口をそろえて今までとは違うと言っている。なら想定外を前提として想定しなきゃならねぇ。

 想定外の為に色々やるべきことはあるが。今出来ることはさっさとやっておくべきだ。さっきまで働いてた野良猫に声をかける。


「……これ、持っとけ」


 それは俺があのアホ巫女に拉致された時に持ち込めた唯一の道具だ。それ単体だと大した物ではないが今回に限っては全てをひっくり返す可能性すらある。


「お前はこっちだ。目にかけて使え」


 何故か目をきらめかせている酒カス勇者には俺のゴーグルを渡しておく。あまり渡したくはないが勇者の能力のことを考えるとコイツに渡しておく方がいいだろう。


「うむ、借り受けよう!」


「今の状態だとこの猫の道具を使ってからじゃないと意味ないがな」


 後から別の道具としての機能を追加しただけであくまでそれはただのゴーグルだ。割と愛用してるんだから壊すなよ?


「アタシはこれをどうしたらいいの?」


 野良猫は渡した道具である金属球を見ながら問いかけてくる。当然さっさと簡潔に教えておく。使い方を知らなければ道具も意味をなさないからな。


「仮に別行動をした時、お前が殺しきれんモンスターに出会ったらそれを投げつけろ。で、引っ付いた対象の魔力を使ってそっちのゴーグルにモンスターの位置情報を映す。まぁ、ようは受信機と発信機、もしくは追跡装置だ。詳しく説明してる暇はない、今の説明で理解してくれ」


 野良猫も酒カス勇者もピンときてなさそうな表情だが残念なことに時間がない。目的地である教会に着いてしまった。

 入口の扉を開けると椅子が整然と並べられており、白を基調とした壁には極彩色のガラスや蝋燭を立てる台座がはめ込まれていた。

 いかにも神を祀る神殿といった様相だが一つだけ大きな違和感がある。教会の一番奥にある、おそらくは女神セレスティアであろう彫刻の真下に掘られた大きな穴だ。これが地下迷宮に繋がる一番大きな穴だろう。


「一応確認しておくが、外からゴーレムで全部制圧するってのは無理なのか?」


「無理ね。広すぎてゴーレムじゃ全部は見れないし……それに、この奥にいるであろう魔王から強い力を貰ってる上位のモンスターに勝てるかわからないわ」


「……そうか」


 なら仕方がないか。正直なところとして、相手の拠点に足を踏み入れるなんてリスクは取りたくないが……ま、なんとかなるだろ。


「よし! では、行くぞ!」


 勇者の合図と共に俺達はモンスターが作った迷宮に乗り込んだ。人どころか大型の生物すら余裕で通れそうな大きさの穴を斥候役のメルルが先頭に立って突き進む。

 地上で戦う兵士の負担を減らすよう迅速に、そして、奇襲や罠で被害が出ないよう警戒しながら丁寧に────

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