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箱庭を紡ぐ夢物語 其の伍

「……人が多すぎませんか?」


「そりゃな、今から都市を攻めるってんだから千なんて余裕で越えてるはずだ」


 メルルさんに連れられてやってきた広場、そこには沢山の人達が列をなして並んでいた。

 人間やドワーフ、エルフ……他にも体から植物が生えてる人や獣のような顔をしてる人、果てにはどう分類するかもわからない姿をした人物まで、ありとあらゆる種族の人類がこの広場に集まっています。

 剣を、槍を、杖を……各々の役割に合わせた武具を持ち、ブランリーを取り返すという一つの目的のために集まっているのです。


「凄いだろ」


「はい……こんなに人が多い場所には初めて来ました」


「アタシも……」


「いや、そうじゃなくてだな……」


 村や下の町だとこんなに人はいませんからね……あまりに多すぎてちょっと酔ってきた……。


「こうやって人類が顔を合わせるって今は当たり前のことなんだが、三百年前は人間とエルフ、ドワーフとスエント、獣人……あー、リカントと小人。他も含めてありとあらゆる人類が種族の内外問わず争っていたんだ。その時代を生きてた奴らからすれば信じられんだろうな」


「……なるほど」


 私達の世界でも人種による差別、偏見を伴った攻撃はいっぱいあります。良くないことは重々承知しつつも、区別と差別の境目は人によって千差万別。完全に無くすことは夢のまた夢……この世界みたいにほぼ完全になくなる事はきっと奇跡の産物か。あるいは────

 まぁ、全てがなくなったわけではなさそうですが……メルルさんからほんのり漏れ出る種族差別の痕跡……。


「バカみたいな理由だな」


「……」


 本人なりに真っ当な理由はあったとしても神様扱いされてキレるアルコンさんはあんまり人のこと言える立場ではないのでは……そう思いつつも口に出すことは出来なかった。だってまた動物に変えられそうだし。


「……なんかアホなこと考えてそうだな」


「え、」


 私の表情だけで推察しやがりましたねこの人!? 待って待って、今なにかしらの動物に変えられるのはご勘弁を……。


「待て待て、こんな大人数の場所でやるな。話がこじれる」


「チッ」


 メルルさんの助けもありなんとかお情けを貰うことに……た、助かった。


「……ま、女神様がいた時代はまだマシだったって話もあるがアタイは知らん。もうそこまでいくと歴史の話になっちまうからな」


 そこまでさかのぼるともうお手上げ、といった表情でメルルさんは首を横に振る。どうしても知りたいならマリーさんに聞くのが良さそう。はぐらかされる気もするけど。

 この世界の過去について想像を膨らませていると、周囲から歓声が上がる。その声量に思わず体が飛び上がった。


「そろそろ始まるぞ」


 壇上に視線を向けるとユーナさんとアッシュがそこにはいた。二人は兵士の皆さんに向けて手を振り、皆さんの期待に応える。あ、マリーさんも一緒にいる。

 しばらく続いた歓声がまばらになり、落ち着きを取り戻すと同時にユーナさんは軽くお辞儀をし、言葉を綴り始める。






「皆さんは、三百年前……モンスターが現れ、各地を襲撃した最初の日を知っていますか? この世界を大きく変えることになったその日を知らない者はいないでしょう。しかし、その日を生きた人物はほとんどいないのではないのでしょうか」


 大きな広場にユーナさんの声が拡声器もなしに響き渡る。透きとおる様なその声は聞き入る私達の耳にスッと入り込んでくる。


「人間やハーフリング、リカントのような永遠(とわ)に近い時を生きられない方は語り継がれたあの日として、記録を介して知っているのみです。それほどまでに永い時を我々は戦い続けてきました」


 三百年。それは長く、永く、世界の常識なんて全てひっくり返ってしまう。


「女神セレスティアは調和を、融和を、平和を愛していました。全ての人類が手を取り合い、互いに助け合える世界を夢見ていました。しかし、女神の目が届かぬところで人類は争い、多くの血を流しました。女神はそれを悲しみ、手を差し伸べました。たとえ一時の平穏だとしても、その先に理想の世界があるのだと……結局、それが叶う事はありませんでした。女神が去った後も……」


 こぶしを握り締め、うつむき、苦しそうな表情で声を絞り出していた。女神に去られた、見捨てられたかもしれない現実に憤怒をぶつけるように。


「────ある日、モンスターは各地の戦場に現れ、陣営を問わず全てを蹂躙していきました。誰もが必死に抵抗しましたが、それは無残に踏み潰されるのみ。反抗も虚しく滅びを震えて待つだけなのでしょうか?」


 その声は弱々しく、モンスターが現れた時の人類を現しているかのようだ。悲しみも、苦しみも、怒りも……人類が積み重ねた想いを聖女は握り締め、顔を上げる。


「……否! 我々はそれを受け入れるほど弱くも、愚かでもない!」


 希望はあるのだと。彼女は力強く、女神様に向けて高らかに宣言する。


「全てを踏みにじるモンスターという驚異を前にして我々人類は並び立つことを選んだ! それは女神セレスティアが望んだもの。なればこそ、女神セレスティアの望んだ人類が、世界が! 今、ここにあるのだと証明するのです!」


 ────演説も締めに入ろうとしたその時、突如として轟音が後方から響き渡る。何事かと振り返ると少なくない数のモンスター達が襲撃を仕掛けてきていた。

 元より占領されたブランリー周辺という危険地帯、こんなことがあってもおかしくはないのだろう。それに気づいた人達の間に動揺が広がろうとした……が、


「我々は貴女に誇れる存在になれたのだと!」


 一閃。聖剣の一振りによって薙ぎ払われたモンスターの崩れ落ちる音がユーナさんの宣言に重なる。

 モンスターの襲撃に気付かなかった者、もしくは勇者の一閃を目の当たりにできなかった者はアッシュさんが何をしたかわからなかっただろう。しかし、これを目撃した者はその力に沸き上がっただろう。その熱が伝播し、軍全体の士気に火がついた。


「さぁ皆の者! 剣を掲げよ! 祈りを捧げよ! 杖を構えよ! 知恵を活かせ! 平和を求めよ! 我らが未来に進もうとする意志は必ずや決別の過去へと轟くだろう! その大きな一歩として、ブランリーから立ち上る勝利の狼煙を女神セレスティアに捧げましょう!」


 聖女が錫杖を天高く掲げ、同じくして喝采が沸き上がる。各々が手にする武器を掲げ、火がついた士気をさらに燃え上がらせる。

 ユーナさんの演説を聞き入った者達の戦意は最高潮だ。兵士達の咆哮はきっとブランリーを占拠しているモンスター達にも響き渡っただろう。そう思えるほどの熱量に、私も思わずお札を挟んだこぶしを空に掲げる。

 戦えない私にも、彼らの正義を肯定する手助けはできるのだと。皆さんの無事を祈りつつ後方でお手伝いしていましょう。それが私のやるべきことだから。




 ────さぁ、戦争が始まる。

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