箱庭を紡ぐ夢物語 其の弐
「おーい、勇者殿―。こっちだこっちー」
アッシュさんの力強い宣言も束の間、ブランリーにも間もなく到着するといったところに私達は誰かに声をかけられ足を止める。声が聞こえた方向に目を向けると豪勢な鎧を身にまとったいかにも偉い兵士という感じの方が部下を数人連れて立っていた。
「軍団長!」
軍団長というまさしく偉い方だった。というか一番偉い方では?
それを見たアッシュさんは嬉しそうに軍団長さんに駆け寄る。
「久しぶりだな軍団長、遅れてすまなかった」
「いや、こちらこそ無理させて申し訳ない。今回も可能な限り支援させてもらう」
「うむ、ありがたく頂戴しよう。しかし、命がけの支援は必要ないからな。命あってこそだ」
「肝に銘じておこう」
長話は不要とばかりに手短に話を済ませていく。軍団長さんと話しているアッシュさんからは勇者の威厳を感じさせる。
「お久しぶりですアレクス軍団長様」
「聖女様もお元気そうで何よりです。メルル殿やマリー様も……ん? そちらのお三方は?」
挨拶も半ばなところで軍団長さんが私達という本来ここにはいない存在に気付いた。本来は勇者一行だけ、もしくは案内役がもう一人しかいないはずが四人いる。しかも見たこともない人物なら猶更と言ったところだろう。
それを察したメルルさんが話を円滑に進めるために私達を軍団長さんに紹介する。
「あー……こいつらはアレだ、不在のディナの代わりだ。訳ありな奴らではあるが人となりはわかってるし問題ない」
軍団長さんと目が合ったのでお辞儀をする。
「ふむ、問題ない……ですか」
そう言ってミコトさんの方をちらりと見る。不信感を感じていたのかミコトさんはすでに私の後ろに隠れていた。
やはり妖怪であるミコトさんはこの世界の人間にはモンスターに見えてしまうのだろう。正真正銘人間の私や神様混じりとはいえ見た目は人間と変わらないアルコンさんと違って猫又であるミコトさんは猫耳と尻尾という人類の体にはない異物があります。
この世界には獣人もいるらしいですがそれらとも見た目が違うとなれば奇怪な目で見てしまうのは仕方のない事かもしれません。部下の方々もざわついてます。
「まぁ言いたい事はわかるがそいつはこっち側だ。安心してくれ」
「しかし……」
「アレクスさん」
メルルさんの言葉に納得出来なかった軍団長さんにユーナさんが声をかける。
「お願いします」
ただ一言、私を信じて欲しいと訴えるようにユーナさんは軍団長さんを見つめる。この数日間、共に旅をした記憶が信頼に足るものだとユーナさんはきっと思っていてくれているはずです。
その訴えを受け取った軍団長さんは少し考え込むそぶりを見せたのち、ため息を吐いた。
「……わかりました。疑問点はいくつかありますが聖女様の頼みなら納得しましょう」
やや納得していない様子ではあるが飲み込んでくれたらしい。やはりこの世界の問題は根深いようだ。
軍団長さんは一息ついた後、ミコトさんに目線を合わせるように膝をついた。
「モンスターかと疑った無礼を詫びたい」
「……いいよ。事情は理解してるつもり」
「感謝する」
軍団長さんの真摯な謝罪をミコトさんは受け入れた。部下の方々もなんとか納得してもらいました……やはりこの世界ではミコトさんの容姿は誤解を招きかねないらしい。
謝罪を終えた軍団長さんは腰を上げ、私やアルコンさんの目を見て話し始める。
「遅ればせながら自己紹介を。私は今回の作戦における最高責任者であるアレクスだ」
軍団長さん……アレクスさんは立ち上がり、名前を名乗り軽く頭を下げた。返す形で私達も名を名乗り、私は深く礼をする。
「アルコンだ」
「蜜柑、巫蜜柑です」
「……ミコト」
各々簡易的な自己紹介を済ませる。ミコトさんの元気がないようだが先日のもろもろからも含めて精神的にまいってるのかもしれない。心配ですね。
「勇者殿の支援は任せてもらおう。あなた方はモンスターを殲滅する事だけに専念して欲しい」
「俺もこいつらを手伝うだけだ、そういうのは当事者がやるもんだ」
「勇者殿の助けをするのならそれでもかまいませぬ」
アルコンさんは頭を掻きながら面倒くさそうに答える。こういう事務的な会話すら億劫に感じているようにも思える。まぁアルコンさんからしたら興味無いことに意識を割きたくないだけだろうけど。
「ディナ殿の代理としてブランリー奪還作戦に参加していただいたこと、王国軍の軍団長として礼を申し上げる。勇者殿達が見こんだその実力、存分に振るってくだされ」
「あくまで代理だがな。ま、やれるだけやる」
「……わかった」
気だるそうにしながらもアレクスさんの激励にはそれっぽく答える。
「ちなみにこいつは非戦闘員だ、元気だけは有り余ってるから雑用にでも使ってくれ」
「よろしくお願いします~」
アルコンさんに襟を掴まれて差し出された。私は抵抗することなく軍団長さんに挨拶をする。
当然ながら私は後方で待機とのこと。まぁ戦えるわけでもないので当然ですね、裏方なら裏方として皆さんのサポートを頑張りましょう。
「ふむ、ならば後方の回復支援班に回ってもらいたい。昨日の小規模な襲撃で被害が出ており人手が欲しいと、そこの長が愚痴をこぼしていたので手伝っていただけると喜ぶでしょう」
「わかりました!」
医療班の手伝いをして欲しいというお願いに私は力強く答える。兵士たちの命を守る大事な役目、それに関わるならば例え雑用だとしても精一杯頑張らせていただきます。
それぞれの役割も決まり、話も一段落したところでほぼ全員が一点を見つめる。
「しかしミコトの件はどうするか……毎回こんな調子じゃ混乱を招くぞ」
そう、ミコトさんだ。ミコトさんの容姿はこの世界において異物である。それを見た皆さんが混乱してしまうことは避けられないだろう。
今から私達は早急にこのことについて対処しなくてはならない。この世界の人のためにも、ミコトさんのためにも。
「軍全体に通達するには時間がありませぬな」
「とりあえず布か何かで隠しましょう。耳を隠すだけでも変わると思いますし……」
「布だけだと取れるだろ。隠すにしてももっとマシなもんを使え」
どうするべきかを悩んでいるとマリーさんが得意げにしていた。私が取り出した布を華麗に奪い去り、ミコトさんの頭に優しく被せた。
「ちょっと待ってね……はい、これで知らない人からは普通の人間に見えるはずよ」
まるで熟練の手品師のようなそぶりで布を引く。しかし、ミコトさんの耳はそのままだった。
「……うむ、変わってないな」
「まぁここにいるのは既に知ってる奴だけだからな」
「ちゃんと出来てるから安心してね!」
どうやらミコトさんが普通の人類じゃないこと、もしくは猫又であることを知らない人には普通の人間に見えるようにしたらしい。
この場にいる人には見えてしまっているため確認のしようがないがマリーさんを信じることにしましょう。
「それでは行きましょう、聖女様、勇者殿」
アレクスさんの声に二人が答える。どうやら立ち話の時間は終わりのようだ。私を除いた全員がアレクスさんの後を追い、私は一人の兵士さんに案内されてお手伝い先の回復支援班へと足を運ぶことに。
別れ際に軽いエールを送り、皆さんを見送る。皆さんならきっと大丈夫と心の中で復唱し、私はこれから頑張るべきことのために気合を入れる。例え、この世界から見れば余所者だとしても手を抜いたと思われていい理由にはならないのだから。
お手伝いをするために歩みを進める中、私はふと思い至る。
「あれ? そういえばホーロンさんは?」
いつの間にかいなくなっていたホーロンさんが気がかりだが、私が心配する程ホーロンさんは弱くないだろうと振り返ることなく目的地へと私は急ぐ。




