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泡沫の夢

「お前らもさっさと離れてろ、巻き込まれても知らんからな」


 ウーティスは性格に反してろくでもない戦い方をする。適当なところで突っ立ってると死ぬぞ。そこに隠れて様子を伺ってるメルルと一緒に避難してろ。なんだったらネズミに変えて投げ飛ばしてやろうか?

 察したアホ共は慌てて逃げ出した。それでいい、ウーティスを相手するならこっちも加減してる暇はないんでな。

 あいつらが巻き込まれないほど遠くまで行ったのを確認し、亡霊に対して挑発を兼ねて合図を出す。


「さぁテ、いったるデー!」


 亡霊は威勢のいい声とともに取り出した武器を投げつけようと大きく振りかぶる。アレは確か突き刺した場所に雷撃を落とす槍だっけか。そんなもん持ち出すから……いや、今はどうでもいい。

 堂々と振りかぶるあれもあれで不味いが本命はそれじゃない。俺の足元から繰り出してくる攻撃の方だ。


「そら来た」


 足元から魔力反応。来ると分かっていれば回避はたやすい、溜めてたリソースの一部をばらまきながらジャンプして回避する。

 さっきまで俺がいた場所を複数の棍棒が貫く。あれも当たったら終わりだ、というかあいつの攻撃全部そんな感じだ。死にはせんってだけだ。


「隙だらケやで?」


 地面からの攻撃を回避するために跳んだ俺に対して槍を投げつけてきた。まぁジャンプして無防備だから恰好の的だな。だがな、それくらい予想済みだ。


「『魔法・γ・θ(強化・変質)』」


 木々にばら撒いた種の一部を急成長させて蔓を作り、それを掴んで槍を悠々と回避する。


「どこが隙だらけだって?」


 蔓につかまったままニヤリと笑ってやる。初めての喧嘩だとこれで負けたっけか、今思うとしょうもない負け方だ。


「そンな焦るなや、まダ準備運動みたいなもんやデ?」


 まぁ、そうだろうな。これだけだったらどれだけ楽だったか。

 背後では轟音と共にいくつもの木々が黒焦げになった。相変わらずバカげた槍だこと、アレ、欲しいんだが今回は無理だろうな。どうせゴーストの魔力による再現だろうし。


「さぁサぁ! ここからテンポあゲていくで! 覚悟しぃヤ!」


 その言葉と共に数多の魔力反応が俺を囲む。おそらくここでくるのは体を動かしにくくする液体だ、素早く体を持ち上げて魔力反応の上を跳び越す。

 躱したその先にも魔力反応、それを躱してもまた魔力反応、隙を潰すように亡霊からの投擲、そこからさらに……亡霊の宣言通りに攻撃は過激になっていく。


「つまらんナぁ、逃げてばっかやとジリ貧やデ?」


 音速で飛翔する球体、閃光を放つランタン、割れればその周囲を凍らすビン……ウーティスを模した亡霊はありとあらゆる攻撃手段を用いて俺を追い詰めようとする。

 だがそれも全て知っている……落ち着けば避けれない攻撃ではない。石を爆ぜて軌道を逸らせ、ばら撒いた種から蔓を伸ばせ、魔力で防壁を作って塞げ……冷静に対処し続けろ。反撃の機会は必ず来る────








────なかナカやるやなイカ、いつもハあっさリヤられテくれるノにな」


 回避し続けて数分、亡霊からの攻撃にも陰りが見えてきた。実際の物質をどこかから取り出すだけだったウーティス本人と違って亡霊は全て魔力による再現だ、魔力の消費が早いという予測は合っていたようだ。

 俺は地面に降り立ち、亡霊に見せつけるように欠伸をする。こっちはまだまだ余裕だと見せつけるようにな。ま、いうほど余裕って訳でもないが。


「ほら、どうした。本物と比べるとあまりにも弱いぞ? お前の夢ってのも所詮そんなもんか」


「ぬかセ! あんタナんかこレデ……死んじゃエ!」


 俺からの煽り、枯渇し始めた魔力からの焦りが亡霊の攻撃を短絡的なものへと導く。

 魔力反応が俺の上を……森を覆うように広がる。避けきれない範囲に攻撃をばらまいて逃がさないつもりだろう。亡霊はそれの上まで飛び上がり、自身は巻き込まれないように退避していた。

 まぁいつかは来ると思ってた、よっぽど上手くやらない限り一回は凌がないといけないと。


「さて、なにが来るか……?」


 魔力反応は大きな渦となり、そこから大量の液体が零れ落ちてくる。

 透明でありながら少し光っているその液体はウーティス本人から詳細を聞いたことがある。本人は堕ちた宗教がまだ清純だった頃に作っていた聖水だと言っていた。

 効力はいたって簡単、怪物や神といった人類以外を害する薬だ。弱い人類が強い種族と平等になるための抑止力になるために作ったらしいが俺はそんな宗教も薬も聞いた事が無い。

 まぁ、それはこの際どうでもいい。重要な事は……。


「それ、炎に弱いんだってな」


 聞いた限りでは熱を加えると効力を失くすらしい。解析させてくれなかったからそれが真実かはわからない……が、それが俺の記憶からの再現というのなら必ず炎に弱いだろ? 


「『魔法・η・θ・ο(放出・変質・循環):アレスオービット』」


 魔法によって炎の剣を複数生成し、俺を中心とした円軌道上で周回させて周囲を焼き払うというトルパースというキス魔の妹弟子がたまに使ってた魔法の一つだ。完全再現とはならんが扱いやすく強い魔法故に都合がいい。

 都合がいい炎の剣の軌道を修正し、液体に当てて聖水を蒸発させる。俺に降り注ぐはずだった膨大な聖水は炎の剣と共に消失し、見通せるようになったそこには焦燥し切った亡霊がいた。


「……これで終わりか?」


 魔力もほとんど枯渇し、浮遊する事すら不安定な亡霊はもう脅威でもなんでもない。結局はあいつと比べるとあまりにも弱かった。正直期待外れだ、ミコトの方が強いんじゃないか?


「クっ……まダマだァ!」


「真似っ子すら出来てねぇな」


 声にかかるノイズも増し、ウーティスであることにすら限界が見え始めている亡霊は力を振り絞ってある物を取り出した。

 そして、俺はそれを待っていた。


「すまんな、それだけは知ってる」


 亡霊が取り出した物は暴風を封じた球体の道具だった。そしてそれは、俺があいつの使った道具の中で唯一解析させてもらえたものだ。だから、それだけは事細かに知っている。

 どんな性能なのかも、どんな用途なのかも、どんな使い方なのかも、そして……どうやったら暴発させれるのかも。


「爆ぜな」


「ナッ……!」


 遠隔で魔力を通してその道具の弱点である接合部に魔力を通す。単純故に比較的頑丈な作りではあるが唯一そこだけは脆い。そこを精密に攻撃できれば微弱な魔力でも破壊でき、封じている暴風が解き放たれる。

 暴風は持ち主である亡霊を襲い、浮いていたこともあって踏ん張りがきかなかったのか勢いよく大木に叩きつけられる。そのままずるずると地面まで落ちてきたそれはもはや虫の息だった。


「結局のところ、お前は俺が知ってる攻撃しかできない。だから俺が詳しい攻撃がお前にとっての奥の手になる……ウーティスの強みは俺の知らない攻撃手段を繰り出し続けることだ、その時点でお前はウーティスになれねぇんだよ」


「ソウ……カ……うちハマチガエタノカ」


 ぶっちゃけ俺はあいつのことをなにも知らない。出身も、来歴も……本名も。

 ウーティスという名前は偽名だ。本人曰く、キルケーという過去の魔女と俺が似ているからそう名乗ったそうだ。つまり、ウーティスという名はただの当てつけに近い……今更ながら腹が立ってきたな。

 そんな俺からあいつの思い出を読み取って真似たところであいつではない似たような誰かにしかならないんだよ。

 ゴーストとしてもその不完全さは毒にしかならんだろ……ま、それはお前が俺を選んだ自業自得だ。恨むなよ。


「ヤサシイ、ネ。アリガトウ……」


「……じゃあな」


 ゴーストの核を壊し、俺の不始末に決着をつける。核を壊されたゴーストはウーティスという形を保てなくなって崩れ去り、そのまま透明となって消えていった。

 ウーティスを模した亡霊は最期にどこか幸せそうな顔をしていた。それはウーティスとしてではなく模したものとはいえ自我を得たゴースト自身のものだったのかもしれない。

 生態が人類と相容れないというだけでゴーストも普通の平穏とささやかな幸せが欲しいだけなのかもしれない。それを求めるのはどんな生き物にも許された平等の権利ではあるが、それは奪い奪われる貴重なものでもある。そこに善も悪もない……か。


「……帰るか」


 最低限のリソース補充を済ませて逃がしたアホ共と合流するために帰路に着く。メルルを困らせた罰としてアホ共を動物に変える算段を付けながら……。






 そうして泡沫の夢は月明かりに溶けて消えた。

 俺の心に未練だけを残して。




 ……お前の誘いを断らなかったら、俺は今頃なにをしていたんだろうか。

 なぁ、ウーティス

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