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百年前の亡霊

「ほ~ら、何の変哲もない美味しいお水よ。遠慮せず飲んで飲んで」


「いや! それお酒ですよね!? また私が恥ずかしい目に遭うじゃないですか!」


「平気平気、ちょっと小さな頃の恥ずかしい話とか語ってもらうだけよ」


「ないですから! 絶対に話しませんよ!?」


 自認兎のアホが酒カス二人に追いかけまわされている。いい気味だ。


 ブランリー突入を明日に控えた夜、コイツ等はいつもと変わらず騒いでいた。明日はお前らにとって大一番だろうに呑気なもんだ。


「アルコンもいるか?」


「いらん、せめて上質なもんよこせ」


「む、難しいな……報酬に上乗せで取り寄せてもらうか……」


 三人目の酒カスはこっちに絡んできた。手造りで質の悪い酒なんざいらんからとっとと酒飲み同士で遊んでてくれ。ついでにそのアホと野良猫の子守りもしててくれ……いや、酒カス共には任せられんな。メルル、任せた。


 まったく、こんな調子で大丈夫なんだか……いやそれはこっちの話か。想定してた三倍くらいは大掛かりな話に足を突っ込んでしまった。それもこれもこのアホの……いや、そんなこと言ってても始まらん。出たとこ勝負とはいえ事前にやれるだけの事はやるべきだ。

 とりあえず死なせたら帰りの足がなくなるからあのアホは安全な所に置いておくとして……野良猫も残すべきか? 探知、暗殺能力は十分だがいかんせん精神面が不安定だ。暴走のリスクを考えたら安全地帯で待機させておくのが理想だが……そうも言ってられん以上頼る方が確実だな。


「助けてくださいアルコンさ~ん」


「知るか」


 救援要請が飛んできたが知ったこっちゃない。泣きつかれても面倒だ、素材を取りに行くついでに逃げるか。


「メルル、俺は席を外す。そいつらの事は任せた」


「はいよ……仕事してくれるならそっちの事は関与せん」


 なんで気付いてるんだよ……しっかりしてるとこういう時話が早いというか面倒くさいというか……ま、関わってこないというなら別にいいか。


 素材を取って来るというのも嘘ではない。が、それとは別にやりたいことがあるというのも本当だ。メルルはそれに気づいている。

 やりたいことというのはゴーストについてだ。アホからゴーストについて聞かされてからどうにも頭から離れん。


「ま、見つかるかどうかもわからん。いなかったらそれまでだ」


 というかその方が諦めはつく。見つけたいと思う反面あいつに会いたくないから見つけたくないとも思う。我ながら面倒くさい感情だ。

 そんなことを考えながら、それを忘れようと道具に必要な素材集めに没頭する────






────やーだー! 助けてホーロンさん!」


「……ワシに縋り付いても意味はない」


「え~……助けてくれませんか? このままだとまたお酒を飲まされる羽目に……」


「なおさら愚策だ」


 そういいながらお酒の入った入れ物を揺らす。くそ、ホーロンさんもそっち側か。


「ふふーん、逃げ場はないわよ! 観念しなさい!」


「くっ……ここまでか……」


 もはや絶体絶命、もうこうなってはお酒を断れない……いや、まだ手はあるけど……そう思っていた私に思わぬ助け舟が。


「ミカ姐を困らせないで」


「ミコトさん!」


 私が気付いた頃にはマリーさんを両手で優しく捕まえていた。持ち前の素早さで気付かれる前に背後に回ったのだろう。

 なにが起こったかわからずきょとんとした顔をしているマリーさんをよそにミコトさんはメルルさんの元へ帰っていく。おかげでお酒を強要してくる人が一人減りました、ありがとうございます。

 ……ミコトさんが猫又なのもあってメルルさんにマリーさんを引き渡す絵面が獲物を飼い主に見せる猫にしか見えない。マリーさんは獲物ではないしメルルさんも飼い主ではないですよ?


「はい、油断大敵よ」


「あ、しまった」


 マリーさんの次は私の番とばかりにユーナさんが私の背後に忍び寄る。ミコトさん達を眺めていたせいで反応が遅れる。


「捕まえた。いやなのはわかるけど私も一緒に飲むから、ね」


「お断りさせていただきます」


 私は満面の笑みで光るお札をユーナさんの目の前で使いました。無駄遣いと言われても知りません。村でも薄々思っていましたがこういう人にはちょっと痛い目を見てもらわないとね。


「ぎゃー!」


「ふははは! お酒の無理強いにはこうですよ!」


 さーて、ユーナさんの手も振りほどきましたし逃げますか。正直ここにいてもろくなことにならないのは目に見えてます。敵と味方で敵の方が多い。

 それならいっそのことアルコンさんの所に逃げましょう。どこまで行ったかは知りませんがそこまで遠くはないでしょう。


「くっ……私に光で対抗するとは、聖女をなめられたものね。待ちなさい!」


「待つわけないですよ! 絶対飲みませんからね!?」


 さすがに光を扱う聖女たるユーナさん。閃光での目くらましもあんまり効いていません。とはいえ隙さえ作れれば十分、このまま逃げ切ってやりましょう。


「あ、こら! お前ら何処に行く気だ!?」


 森の中に逃げる私とそれを追いかけるユーナさんを見てメルルさんが慌てている。まぁそりゃそうか。本来ならメルルさん達から見える所でいた方がいいんでしょうけどちょっと今はそれを気にする余裕がない。慌てて追いかけてくるかもしれませんが足を止める気はありません。お叱りなら後ほど受けますので今はご容赦を!


「ったく、アタイが連れ戻してくるからお前らはそこで待ってろ」


「わかった」






「……軽く探したくらいじゃ大したもんはないか」


 素材集めを始めて幾らかの時間が経った。結果だけを見れば目ぼしい物はなかった、異世界というのなら俺が知らない素材の一つや二つくらいあってくれれば良かったんだが……強いて言うならアサガオやバラ等色んな植物が俺の知らない進化の仕方をしていたくらいか。

 使えそうだし適当に採取して下準備だけはしておく。正直これだけじゃ心細いがないよりはいい。葉っぱ、花、種……あるもん片っ端から持っていく。今のままじゃ圧倒的にリソースが足りない。せめて鉱石でもあればなぁ……ミントも採っていくか。いや、なんでミントが生えてるんだ。ここにも踏み潰された奴がいるのか?


「……こんなもんで帰るか」


 探しても大したものがないなら探す意味がない、これなら道すがら適当に採取するだけで十分だ。

 もしかしたらという可能性もあるがそれを追い求めて明日に影響出る方が不味い。割り切りも必要だろう。


 結果的にゴーストも見当たらなかった。残念だという気持ちもあるが見つけられなくて安心している俺もいる。ま、結局は時の運だ。見つからなかったということはそういうことだろう。

 そうこうしていると遠くからアホと酒カス聖女の声が聞こえてきた。どうやら二人揃って暴れているらしい。メルルの心労を増やすなアホ共。

 ……柊さんから聞いた限りだとあのアホからすれば初めての同世代の友人と思えば理解できる範疇ではある、が


「だからってこんな森の中で騒ぐな、また動物に変え……」




 見つけてしまった。半透明で浮遊する霊体のような生物、ゴーストを。

 不意の遭遇、とはいえお目当てとの会合。核を撃ち抜く準備だけはしつつ平静を保って相対する。


 ゴーストは俺を認識した瞬間に霊体を歪ませる。急速に人型に変化し、俺に縁深い死者の姿を写し出す。縁がある死者というだけなら数名いる。が、ゴーストが映し出す死者が誰になるか、俺には確信があった。

 厳密にはそいつが死んだかどうかは知らない。が、さすがに百年前の人間だ。あいつがどんな人生を辿ったとしてもさすがに亡くなっているだろう。


 緋色の長く美しい髪、宝石のような赤眼、幼さが残りながらも何処か達観した表情、そして近未来の物語にありそうな不思議な装いをした少女。

 おおよそ百年前に出会い、一年だけ付きまとってきた女。俺はそいつを忘れられずにいる。


「久しぶりだな、『ウーティス』」


 百年もあれば記憶なんて朧気になっているだろう、そう思っていたがそんなことはなかった。俺の記憶はあいつの姿を寸分の狂いもなく写し出した。

 あぁ、懐かしい。そして、俺はあいつのことが今でも心残りらしい……わかっていたことではあるがな。

 とは言えこいつは本物じゃない。ならば躊躇う意味もない。かろうじて見えるゴーストの核を撃ち抜いて終わらせる。心残りではあるが後ろ髪を引かれるわけにはいかない。


 石ころに魔力を込め核を貫く、それだけのはずだった。


「────なンや、相カわらズせッカちやナぁアんたモ」


 ……あまりにも懐かしいその声に手が止まる。ノイズ混じりながらもあいつと同じ声、同じ喋り方、そして同じように笑うその声に思考が固まる。

 ゴーストがここまで正確に写し取るなんて聞いてない。いや、()()も知らなかっただけだ。


「……クソが」


 手を止めるな。撃ち抜け。ゴーストを探していた時点で覚悟していたことだ……。

 動け。動け。動いてくれ────


「ハいスとップ。そんナアせらんデもえエやろ?」


 無理矢理にでも魔法を行使しようとした俺の手にそっと不透明な手が添えられる。訳が分からないがウーティスを模したゴーストは俺を殺そうとしなかったことだけはわかる。


「ウチだってモッと話シたイコとがあるンや。うちトシても……な」


 不敵な笑みをこぼしながら魔力の流れを相殺し、俺の手をぎゅっと握った。とっさの事で頭が回らない、一挙手一投足全てがあの時のウーティスそのままだ。


「まァユっくりやロウや。ウチとあンたの仲やロ? ナ?」


 百年前の亡霊はくるりと回りながら俺から距離をとり、懐かしい笑顔で語り掛けてきた。

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