モンスターは地の底にて
────都市ブランリーの地下深く、アリの巣のように掘られた洞窟の一番奥から流暢な、それでいて人類とは異なる言語で話す声が聞こえる。
「どうやら、見失ってしまったようですな」
「かまわぬ。元より疲弊させれば上々よ」
モンスターが二匹、松明に囲まれた玉座の元で偵察から帰ってきた歪な鳥型モンスターを迎えていた。
杖をついた老婆のような姿をしたモンスターはその鳥からの貰い受けた情報を精査する。
その情報を元に今後の事……このブランリーに押し入ろうとする人類への対応策を練り、竜を人型に押しとどめたような姿のモンスターへと進言する。
「このペースだと勇者共は明後日にはここにたどり着くでしょう。王国の軍勢は既に近辺に集結しておりますが例の作戦までは散発的な戦闘に留めておくべきかと。あちらも勇者共がおらぬ間は大きく動けないはず。つきましては」
「……いや、仔細はお主に任せる」
「かしこまりました」
龍の姿を模したモンスターは玉座の奥へと消えていった。もう一方はそれを見送った後、小さな声でつぶやいた。
「勇者一行、今代は特に一騎当千という言葉が似合いますのう。それでも、戦争とはそれだけでは成り立たぬもの。それをわからせて差し上げましょう────
「私は……とんでもない痴態を……」
「大丈夫よミカン、酒の席は無礼講と女神セレスティアもお許しになるわ」
「そういうことじゃない……」
次の日の朝、お酒が抜けた頭で昨日の醜態を思い出す。あろうことかアルコンさんにべったり甘えまくるとは……いくら酩酊していたとはいえなんてことを……。
出来ることなら忘れたい。忘れていればどれだけ楽だったか。酔った私が発した言葉を無駄に覚えている私の脳を今は恨みたい。
「どうして私はあんなことを……」
「兎は寂しいと死んじゃうって?」
「ぎぇびょえはぁ!」
将来的に私の黒歴史となりそうな発言がユーナさんから飛び出たことに驚き、奇声と共に後ずさりする。
よりによって一番覚えていて欲しくなかったことをユーナさんに覚えられていた。おのれアルコンさん。許せねぇ……え、アルコンさんは関係ない?そうだね。
「どうにかして忘れてくれませんか……?」
「私が忘れたところで~……かな?」
「ですよね~……」
ユーナさんが忘れたところで他の方が忘れるわけではない。どうにかして全員の記憶から消す方法はないだろうか……?
それと、どうにも私の自認が人間から遠ざかっているような気がしてならない。今回の発言も含めてどうも自分を兎だと勘違いしている節があります。おそらくは天様のところで兎に変えられたあたりからですかね。アルコンさんが気に入ったのか兎に変える回数が他と比べて気持ち多く、それの所為で自認が引っ張られてる可能性が。
私は人間なんですけどねー。決して人間以外の種族ではありません、そこはお間違えなく。オトさんにもミカンさんは人間って言われたからね。
そんなこんなでこの世界における三日目の朝、今日も変わらず晴れていて長時間歩くにはもってこいの天気です。出来ればもう少し雲がかかっていて欲しい。
ブランリーにはあと一日で到着するらしく、こうして長々と歩くのも今日が最後らしい。だからアルコンさん、がんばって。
「……やっぱ断りゃ良かった」
「アル兄、頑張れ」
後悔先に立たず、とはよく言ったもので。まぁその後悔は私が関わってるのでここでは応援せずに沈黙しておきましょう。
刺激しないように距離を置いて歩いていると戸惑いのある表情をしたメルルさんが話しかけてきた。
「……なぁ、ミカン」
「どうしました?」
「あいつはずっと文句言ってるがその割には降りようとする気配がないがなぜだ? 別に降りることは止めてないはずなんだが……」
どうやら不平不満を口にする割には勇者一行の契約ですらない、口約束に近いお願いを反故にしようとしないアルコンさんを不思議がっているようだ。
確かにミコトさん達の世界での出来事を踏まえてある程度人となりを知っている私達はなんとも思いませんがそれをしらないメルルさん達からすると不思議に思うのもおかしくはありませんね。
私はアルコンさんには聞こえないように、それでいてメルルさん達にはしっかりと聞こえるように答える。
「あんなこと言ってますが多分降りることはないと思いますよ?」
「そうなのか? 態度だけなら今にも降りそうにしか見えないが」
「アルコンさんって優しいですから」
「……そうか。なら、それでいい」
メルルさんは少し呆気にとられたあと、納得したかのように微笑んだ。私の言葉を聞いたメルルさんが何を思ったのかは私にはわかりません。それでも、私の答えで彼女の中ではアルコンさんの行動に納得できたのでしょう。
納得したメルルさんの微笑みにつられて私も笑顔がこぼれる。そんな中にマリーさん達が割って入ってきた。
「つまり、いわゆるツンデレってやつね!」
「え、この世界にツンデレって概念あるんですか!?」
「見せてもらって絵物語に描いてあったわ!」
それはそれで使いこなしてる事に驚くんですよね……というかマリーさんが話した事はどれが本当でどれが嘘か全然わかんない……真正の嘘つきって怖いですね。
「そんなこと描いてあったっけ?」
描いてたかすら怪しいんですが? 私はマリーさんの言動をどこまで信用すれば?
「つんでれ……ってなんだ?」
「アルコンさんみたいな人のことです」
ツンデレという概念を知らないメルルさんへそれを簡潔に説明する。簡潔すぎて誤解が生まれてそうですが……まぁいっか。
そんなこんなで皆で仲良く進んでいると無言を貫いていたホーロンさんが口を開いた。
「移動しながらで悪いがブランリー奪還に関する話をしていいか」
その言葉を聞いた勇者一行の表情が険しくなる。先ほどまでの雰囲気は何処へやら、一変して真剣な顔つきでホーロンさんの話に耳を傾ける。
私はどうせお留守番でしょうが皆さんの邪魔をしないために静かに話を聞いておく。あ、アルコンさんは働くんですからちゃんと聞いといてくださいよ。
────ま、ざっとこんな感じだな」
「……事前に軽く聞いてた時から思ってたがろくでもねぇ案件だな、これ」
「それでもやるしかないだろう」
「そうね、やらなきゃブランリーは取り戻せないんだから」
「そうよ二人とも、その意気よ」
ホーロンさんから聞いた話を元に、勇者一行は各々決意を固める。
ホーロンさんの話を私なりにまとめると……
・ブランリーは渓谷のような土地に建てられた元城塞都市
・そこに大量のモンスターが詰め込まれている
・都市の地下には先日村で見かけた地下洞窟が比にならない大きさの空洞が広がってるとされる
・予想される規模からして罠まみれの内部に突入しないと制圧できない
・戦闘力も高くて人類の言語を理解できる上位のモンスターが最低二体はいる
……ざっとこんな感じですかね。アルコンさんはどう思います?
「なんでその規模の作戦を欠員がいるのにやろうとしてるんだ?」
「あのアホ国王に言ってくれ……」
アルコンさんの問いにメルルさんは頭を抱えながら答える。一応王国軍の動きに合わせて勇者一行が動くのは普段から一貫して行っていることであり、本来なら今回もそれで問題はなかったそうだ。
が、今回に限っては事情が違うらしい。どうやらディナさんが怪我で療養中であることを知らずに国王及び王国軍は作戦の立案及び決行をしたらしい。で、それを遠征先で療養していた勇者一行に事後連絡したそうだ……oh。
別に王様が無能ってわけではないんですよ。最近連戦連勝で浮かれてたのと連絡ミスが同時に起こっただけで。




