遭難三日目の朝
「これが勇者に選ばれた時の話だ。マリーとはこの頃からの付き合いだ」
「ほへー……」
色々あった日の翌朝、私達は作ったお粥を食べながらアッシュさん達の思い出話をゴツン、ゴツンという音をBGMに聞いていた。聖剣に選ばれた日、つまりはアッシュさんが勇者になった日のことだ。
勇者に選ばれるという物語はいくつもありますがここでも聖剣を引き抜いて勇者になるんですね。世界問わず様式美なのかな?
他にも気になる点はいくつかありますが……これだけは聞いておかなければならないと思ったので聞きます。
「アッシュさん」
「どうした?」
「なんかこう……ちょこちょこユーナさんに対して重めの感情が漏れてるのはなんでですか?」
「そうか? これくらいは普通だと思うが……」
「少なくともユーナさんはそう思ってなさそうですよ……?」
不思議そうな顔をしているアッシュさんの後ろには顔を真っ赤にしているユーナさんが……普通だと思っているなら赤く染まった顔でアッシュさんに殴ったりしないと思うんですよ、しかも岩塩で殴ってません? 普通なら痛い通り越して死人すら出かねませんよ。それなのにアッシュさんには一切ダメージを受けてる素振りはなし。もうちょっとは痛がるそぶりを見せてもいいと思うのですよ……。
「……痛くないの?」
ほら、ミコトさんも気にしてますよ。
「うむ、鍛えているからな」
「……ふーん」
「アルコンさん、鍛えたらああなるんですか?」
「知らん」
私が会話を振ってもアルコンさんは興味がなさそうにしている。もう少し興味持って?
それはそうと、これくらい体が強くなればちょっとしたことじゃ死ぬことはなさそうで私は羨ましいですよ? 私はちょっとしたことで死にかけるし欲しいかと言われれば正直欲しい……。
もしかしたら聖剣の効果とかもあるのかなとマリーさんに聞いてみましたが聖剣は関係ないそうです。ほとんどアッシュさん自身の力によるものらしい。これでもディナさんの魔法がない分貧弱とのこと。嘘でしょ……。
他にも聞きたい事はありますが何から聞こうか考えがまとまりません。こういう時はいっそのことなにかをいじっているアルコンさんに投げてしまいましょう。
「んー……アルコンさんは今の話で気になる所とかないんですか?」
「自分で聞け」
「私じゃ何から聞けばいいかわからないんですよ。魔法含めて知識が全く足りませんし……」
知識ある人とない人で視点って違いますし後学のためにも質問してもらえると助かります。
「……そもそも俺が聞きたいことは聞いたところで意味はない。なぁ嘘つき妖精」
「ふふん、情報ならいくらでも渡してるじゃない」
「不必要なもん寄こすな。なんで剣を解析して川の水やおっさんの髪の毛の情報が手に入るんだよ」
えーっと……つまり、アルコンさんの魔法で解析しても偽物の情報をつかまされる。嘘に関する魔法で剣を守っていると。つまりマリーさんは隠したい事があり、それがアルコンさんの知りたい事らしい。だから聞く意味はないとのこと。
それにしても、嘘の魔法か……別の世界に転移出来る私が言うのもなんだけど魔法にも色々あるんだなぁ。勉強になる。
「ワシのか?」
「多分違う」
おっさんの髪の毛は別にホーロンさんの髪の毛ではないらしい。いや、なにを気にしてるんですかホーロンさん。
「ま、つまりは聖剣の真実なんざ教えるつもりはさらさらないってこった。聞くだけ無駄だな」
「ほへー」
私が知らないうちに水面下でのやり取りがあったみたいですね。お仲間同士ですることじゃない気もしますが。
そして今の話を聞いてたら少し考えが纏まりました。というわけで一つ質問を。
「ところで聖剣の詠唱って昨日の時と違うと思うんですが大丈夫なんですか?」
昨日聞いた時はもっと斬る事に重点を置いた詠唱だった気がするんですが今回の話だと嘘物語を紡ぐ事に重点を置いてるような……?
私の投げかけた問いに答えたのは意外にもアルコンさんだった。
「あんなん本人がわかりゃあなんでもいいんだよ」
「え、そうなんですか?」
「うむ、今使ってるのはオレが考えたものだ」
意外も意外、詠唱ってそんなホイホイ変えていいものだったらしい。
「厳密には自分が決めたルーティン通りにやる事が重要なの。魔力操作は集中力が大事、詠唱とか、杖の振り方とか、魔法名叫んだりとか、各々で決めたルーティンで高い集中を保つ事が必要不可欠ってこと。ディナは詠唱と杖振りの複合でやってるわ」
「毎回投げキッスする奴なら知ってる奴にいるな」
「色々あるんですねぇ……」
期せずしてユーナさんやアルコンさんに教えてもらいつつ魔法に関しての知識を深めることが出来た。
この旅が落ち着いたら私も何か考えてみましょうかね。詠唱にしろお札を作る時にしろ本に書かれてたものをそのまま使ってるだけなのでどうもしっくりこないとこありましたし。
「……ところでアルコンさんはなにをやってるんですか?」
会話を続けている最中にもずっと作業を続けていたアルコンさんが気になったので質問してみる。
「もしもの時の備えだ。お前も持っとけ」
「わっとと……急に投げないでください」
無造作に投げ渡されたそれはアルコンさん謹製の魔法道具だった……いや、
「石では?」
ぱっと見は石、というかどう見ても見た目は石。わかる人が見ないと石以外のなにものでもありません。でも私はわかりました、だってこれ……
「これって私のお札と同じものですか?」
「そうだな」
私が持っているお札、事前に作ってさえいれば色々出来るお札の内の一つである風を起こすお札と同じ魔法を仕込んでいる。これさえあれば私なりアルコンさんなりが魔力を通すだけで簡単に風を起こせる。
事前にあの本を読んでいたから作れるとは思っていましたがこんな簡単に作れるとは……私が作るともっと時間がかかるんですが……。
「お前が作った奴と比べて風の勢いが違うからな、吹き飛ばされるなよ」
「……はーい」
嫉妬していいです? したところで意味はないけど。
どうやら私のために作った物以外にもいくつか道具を作っているらしい。簡易的なもんだけどな、とアルコンさんは言ってますがそれでも私が丹精込めて作ったものより凄そうなのおかしくないですか?
もう嫉妬しますね、意味ないですけど。
そんなこんなで食事の時間は終わり、私達はまたブランリーに向かって歩き始めることとなる。




