贈り物に感謝を込めて
「これだから……これだから……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
「落ち着いてくださいアルコンさん……」
「これだから神って奴はよぉ!!!」
「……そうだね」
「ヒエさんも共感しないでください……」
アルコンさんは私に憑いた呪いと食料の横領に怒り心頭のご様子。実はと言うと私も納得していなかったがアルコンさんの様子を見たら冷静になったというかそれどころではなくなった。人は自分以上にキレてる人を見ると逆に冷静になると言うが、どうやらそれは本当らしい。
それにしてもすごいキレっぷりだ。私が色々やらかした時もここまではキレてなかった気がする。そんなに神様が嫌いなのか。
「テメェも考えなしに呪いを貰ってきてんじゃねぇよ……」
「事後承諾……」
急に渡されて受け取るなと言われても私には無理ですよ、少なくとも呪いどころか魔法系の知識が全然無い私には呪いを弾くなんてのは不可能です。
アルコンさんは文句を言いながらも正座をしている私の後ろに座り、曵様の呪いを解析する。私達次第で益になるとは言っていたが……私の後ろで呪詛を吐いているアルコンさんの様子を伺う限りはあんまりそういう雰囲気じゃなさそう……
「……さて、私達ものんびりしてる場合じゃないわね。事情説明や謝罪、するべきことは沢山あるわ」
「お供します」
「そうね、当事者であるオトやミコトには付き添ってもらわないとね」
「私は曵さんを追いかけないと、まだ話すことあるのにいつの間にか勝手に帰っちゃったし」
騒動にもひと段落し、各々が次にやるべきことを口にする。ならば私達も次を見据えなければ……つまり
「なら、俺達もここを発つか……呪いをどうにかしてから、だが」
私達もこの世界を離れ、次の世界へ行く事に。朝からひと騒動はあったが未だに正午は越えていない。疲れこそ持ち越すことになるが時間帯的には悪くないだろう。
「あら、もう一晩くらいならもてなすつもりだったんだけど……もう出て行っちゃうの?」
「そうですね。私達もやるべきことがあるので」
やるべき事と言うか……絶賛迷子なので帰らないといけないんですよね。早くアルコンさんを元の世界に帰してあげなければ……。
「見送りは要らんぞ。そんな仲でもねぇだろ」
「アルコンさーん?」
確かに一日くらいの付き合いですが……一日!? まってまだそれだけしか経ってないの!?
んー……衝撃の真実に気付いてしまったがそれはそれ、一日の付き合いだからこそちゃんとやるべきなのではと私は思うわけです。
「それなら、ここでお別れしましょうか」
「そうですね。ミコトも心配ですし手短に終わらせましょう」
天様に背負われているミコトさんは未だに目を覚まさない。色んなしがらみから解放されてその分の反動で眠っているのかもしれない。
私としても別れの挨拶はしたいが……この調子だと難しそうだ。
「ミコトを……いえ、私達を助けていただき本当にありがとうございました」
天様は私達に感謝を述べ、深々と頭を下げる。
「いえいえ、偶然結ばれた縁の導きですよ。私は大層な事はしていません。強いて言うならきっかけになれただけですよ」
「過度な謙遜は相手に気を使わせるだけだぞ。堂々と報酬を要求するくらいしろ」
「私はそういうことするつもりはないので……」
私達の状況を考えると四の五の言ってられないってのは事実ですが、じゃあ体裁とか無視して要求できますかと言われたら私は無理です。アルコンさんは私が曵様とお話してる最中に食料の提供を取り付けてたらしい……なら私が要求する理由ないじゃん。それに気づいた私はガクッと項垂れる。
「ふふ、項垂れてたらミカンちゃんの可愛い顔が台無しよ?」
「……イネさん、私の顔をツンツンするのは止めてください……」
「あら、ごめんね? 可愛い反応をするものだから、つい……ね? 照れた顔も素敵よ?」
気を落とす私をイネさんは満面の笑みを浮かべながら覗き込む。照れくさくなって顔を逸らすと面白がって回り込んできた……やっぱりこの人は苦手だ。
「……ありがとね。私の我が儘を叶えてくれて」
「……先ほども言いましたが私はたいそうな事をしていません。きっかけになっただけですよ」
「そのきっかけを私達はどれだけ待ち望んでいたか……ミカンちゃんのお陰よ?」
人をからかうような笑顔を潜め、真剣な面持ちでイネさんは語る。たまたま私達がこの世界に現れた偶然を、なによりも待ち望んでいたものだと。
そう語ったイネさんは懐から何かを取り出し、私に見せる。
「ささやかだけど私からのお礼。受け取ってくれる?」
「ありがとうございます。これは……櫛と簪?」
櫛と簪、どちらも髪飾りとしての贈り物だろう。色使いは質素だがどこか高級感というか、精巧な品であることは私にも伝わる品だ。そんなものを簡単に受け取って良いものなのだろうか……。
「あなたなら似合うと思ってね。ちょっと待ってね……」
そう言ってイネさんは私の背後に回り、慣れた手つきで髪の毛を弄り始めた。とっさの出来事に驚いて体を左右に振って抵抗してしまったが、イネさんは意に介すことなく私の髪型を整える。
楽しそうな雰囲気で黙々と手を動かす彼女に困惑し、この状況をどうにかしてもらおうと周囲に助けを求める……が、
「諦めてください。こうなったイネさんは止まりませんので」
「えぇ……」
オトさんによってあっけなく切り捨てられた。昔からこうやって人間や妖怪、神様達にお節介をやいていてらしい。
……なんとなくだが拗れるまではこうやって戔様と仲良くしていたんだろう、ちょっとだけだがそんな景色が見えた気がする。
「……はい、出来上がり。元からひとつ結びになってたけどそれに私なりの手心を加えてみたわ。どうかしら?」
「おぉぉ……おぉ? 自分で自分を見る手段がないから分かんない……」
イネさんはその満面の笑みで私の正面に回り込み、完成を宣言する。その笑顔は自信の表れであり、私の髪型も彼女のお気に召したものなのだろう。そのセンスを疑うわけではない……が、折角の贈り物なのに私自身がその姿を認識できないというのはちょっともどかしい。
「……アルコンさんから見てどう思います?」
「俺に聞くなよ……別に大して変わってない気はするが。まぁ、悪くはねぇだろ」
「……もうちょっと乙女心に響く言葉をくださいよー」
あまりのそっけなさについ不貞腐れるが、アルコンさんなりの賛辞として受け取っておくことにする。
元が横のくせ毛をそのままにしたポニーテール風だがアルコンさんの言葉的にはそれをアレンジした形なのだろう……あとで川か湖で確認するとしましょう。
「ふふ、私達の思い出と感謝を髪飾りに込めてミカンちゃんに授けるわ。大切にしてね?」
「ありがとうございます! ここでの思い出はずっと忘れません!」
貰った櫛と簪に軽く触れ、私は感謝を述べる。一日という短い間の出来事ではあるがそれを感じさせない。それほど濃密な時間は村の箱入り娘であった私にはとても刺激が強く、忘れようにも忘れることが出来ないだろう。
……それでも忘れる時は忘れるのかもしれない。だからこそ思い出の品は大切にしなければならない。
そうして思い出に耽っているとオトさんが寂しそうな目でこちらを見つめていることに気付いた。
「……また、会えますか?」
「……オト、大丈夫。また、会いに来るってさ」
ヒエさん、今回限りは私の口から言うべきことだと思うのでちょっと静かにしててください。
軽く咳ばらいをし、私自身の言葉としてオトさんに伝える。
「いつになるかは分かりませんが……いつかまた、ここに来ますよ。曵様とも約束しましたから」
それがいつになるかはちょっと分かりませんが……私の努力次第ですかね?そもそもこれが努力でどうにかなるかすら分かりませんが。
「分かりました。私の命ある限り、ミカンさんを待ち続けることにします。また私達に会いに来てくれると信じて」
「もうちょっと気を楽にしてても良いんですよ?」
オトさんの期待が怖いがその期待に応えられるようにこれから頑張りましょう。
それはそうと想いが重いとちょっと怖いです……。
「それじゃあ、そろそろ出発しましょうか」
「そうですね、別れは名残惜しいですが私達も進まないと駄目ですね」
「ふふ、ミカンちゃんとアルコンさんも元気でね。また会いましょうね」
「はい、また会いましょう! 皆さんもお元気で!」
私達は別れの挨拶と再会の約束をし、天様達は森の中へと消えていった。恐らくはイネさんの家に行ったのだろう。木々の隙間から見える彼女達を笑顔で見送り、私達は曵様から授かった呪いの解析を続ける。
「結局、最後まで面倒くせぇ奴らだったな」
「……その割には楽しそうですね」
「うっせぇ」
私の呪いを解析しながらアルコンさんは不貞腐れる。私が指摘すると軽く小突いてきた、痛い。
そもそも神様方はともかくオトさんやミコトさんには最初っから好感度が高かったですからね。まぁなんだかんだ楽しかったのでしょう。
「面倒だと言わないで。オトのこと、悪く言うならまた石ぶつけるよ」
「あ?」
ヒエさんは私の後ろに隠れながらアルコンさんを威嚇する。変わらず愛くるしい姿にまたなでなでしたい気持ちが溢れて……あ、そんな顔で見ないでください……
……ん?
「あれ?ついて行かなくていいんですか?」
「……俺もついて行ったら、食料を渡すのは誰になる?」
「……あ」
ミコトとは挨拶もなしに別れるのかって?
そこら辺は次の話で




