青き鷹の逃亡戦
ずっと思ってる事だがここらでハッキリさせておく。
やっぱバカだろコイツ
何をどうしたらあの状況から猫の怪物に殺されそうになるんだ? 俺にはコイツの思考が分からん、誰か教えてくれ。
あの面倒くさい神から逃れるために真っ正面からだまし討ちして瀕死にしたのはまぁいい。一番過激なパターンではあったが想定内だ。出来れば穏便なパターンの方が楽ではあったがヒントを残せない状況だったし突破しただけコイツなりには良くやった方だ。
自分で瀕死にした奴を心配して離れないのも……まぁ、これもいい。そんな奴見捨てて逃げろよと思ったが神に仕える立場の奴が例え余所の神だとしてもあっさり見捨てるとは思えん。コイツらと敵対してる奴がいるのは分かってんだからそんな気遣いしてる場合か、とも思うが。
問題は……
「なんでロクに戦えねぇ癖に殺そうとしてきた奴を庇って喧嘩売るんだアホ!」
青銅の短剣でたたっ斬られる直前のバカの襟首を引っ張って強引に躱させる。そういうバカな事するなら自分の命くらい自分で守れるようになってからやりやがれ、お前が死んだら俺が困るんだよ!
「もいっぺん反省しとけバカ!」
「ア、アルコンさん!?……あ、これまtあどuぶtうn…………」
コイツの頭を掴んでネズミに変えながら無理矢理神から引っぺがす。小さい動物に変えればこのバカの意志なんて関係無い、そこでのびてる奴を守る義理なんて俺には無いし勝手に死んどけ。俺を巻き込むな。
「ねぇ、邪魔しないで」
「お前はコレでも見とけ」
襲ってくる怪物にはバカを掴んでいない手でバカが持ってた板切れを操作し閃光を放つ。本来の使用用途とは異なるが猫の目にはコレでも十分脅威だろ、道具も使いようだ。
閃光に驚いたのか後ろに大きく飛んだ。距離を置いて目を擦ってはいるが隙が出来たわけでもない……今のうちにさっさと逃げるか。光量は微妙だし近いうちに復活するだろうがそれでも距離は離せるだろ。
「……コイツ気絶してやがるな。おい、起きろバカ」
本来だったら気絶させたままの方が楽だが……一分で変化が解ける以上このまま放置するのは不味い。コイツの軽さなら背負って運べるほどの軽さではあるがその状態で逃げ切れるかと言われれば無理、なら起こして自分自身で走らせるしかない。戻ろうとするなら脅してやるから覚悟しとけ。
……まぁ、脅しに屈する様な柄じゃねえんだろうけど。それなら前提として喧嘩売るはずがない……あぁ、めんどくせぇ。目を離すといつの間にか死にかけてる……なんて、柊さんから聞いてた通りだ、俺としてはウソであってほしかったが。
「……チュ? キー!ピーピキュー!!!」
「起きたんなら大人しくしとけ!」
「キュッ」
やっぱりか。何言ってるかは分からんが何をしようとしてるかは分かる。さっきの場所引き返そうとしてる、戻ったって何も出来ないのは分かってるだろ。
バカを諫めつつイネとやらがいるらしい方角に逃げる俺の横に猫が目を擦りながら悠々と追いついてきた。
「目が痛い。そういうこと、するんだね」
「そのまま倒れとけよ……」
猫相手に森の中だから速度差は分かってたが復帰が早すぎる。まだ30秒も経ってねえだろ?そのまま動かないでくれればお互い楽だったんだが…………今からでも戻ってくれねぇ?
「……神はあっちで倒れてるぞ、絶好の機会じゃないのか?」
「先に私を殺してからにしろって言ってたから、あの人から殺す」
「殺してからとは言ってなかっただろ」
マジか、こっちもこっちで面倒くさいタイプかよ。そんな口約束普通に無視しろよ、真面目か?いや、ここまで拗らせてるあたり根っからの真面目なんだろう。何処でも変わらんな。嫌いではない……が、今回は帰ってくれ。
というか俺の周りをグルグルと回るな。距離取って様子見してるんだろうが……足の遅さで煽ってきた奴の所為かなんか腹立つな。
「ところで、女の人は何処に隠したの?」
「隠してるつもりは無いんだがな」
事実として隠しているつもりは無い。ネズミに変えたのも隠す為ではなく抵抗出来ないようにするためだ。動けんかったら抵抗もクソも無いからな。
「ほら、これがお前が探してる女だよ」
「……チュウ」
だから俺は堂々と見せつけてやる。この尻尾を摘ままれて振り回されてるコイツがお前の探してる奴だと。
ほら見てみろよ。俺に弄ばれて何も出来ない無力感に蝕まれてる面ってのは見てて気持ちがいい。今はそんな余裕無いが。
……これを見てビビってくれるんなら助かるが。
「…………美味しそう、食べていい?」
「ピイイイイイイィィィィィィィィ!!!?」
「ちっ、野良猫が」
ダメか。しかも別の意味でもコイツの命が危なくなったな、好物を見るような目をしてやがる。さすがに変化させた奴は食わんぞ俺は。
とはいえどうするべきか。様子見してるのか現状は襲ってこないがそろそろ攻撃してきてもおかしくは無い。万全の状態ならともかく今の手持ちだと逃げ切る事も追い払う事も難しい。せめてもう少し武器になる道具を持ち込めていればな、コイツが持ち込んだ板切れと紙切れでやり繰りするしかねぇ…………いっそ野良猫が腰に携えてるだけで使ってない剣を奪うか?結構上物くさいんだが……いや、欲は出すものじゃないな。
しかもこのバカをネズミに変えてからそろそろ一分だ、元に戻ったら問答無用で襲うだろうし悠長にしてる余裕はない。それ以前にこのバカがさっきの場所に戻ろうとして話がややこしくなる……永続だったら気にすることが減って楽だったんだが。
「んー……一つ確認なんだが」
「……何?」
殺し殺されしてる奴の真面目さに賭けるのも癪だが…………。
「もしコイツが全力で逃げたら追いかけてくるか?」
「勿論。むしろなんでこんなこと聞くの?」
「……だとよ」
勿論じゃねぇよ。アイツ殺しに行けよ……いや、殺しにいったらバカがあっちに戻る。これなら逃げるだけで済むから単純だ、単純なだけだがな。
あぁ、面倒くせぇ。帰りてぇ。帰れねぇからこんなことになってんだよ……はぁ、嘆いても仕方ねぇ。
「……気のせいかもだけど、勘違いしてない?」
「勘違いか、そうであった方が俺としては楽なんだが?」
「お前は約束とは関係ない。死んで」
「そんなこったろうとは思ってた……よ!」
コイツを変化させてからちょうど一分だ。ネズミは前方にぶん投げておく、山なりに投げておいたから上手い事着地してくれ。
ネズミの鳴き声から人間の悲鳴へ変化していく。平時ならともかく今は悠長に聞いている暇はない。
短剣を振りかぶる猫に再び板切れを突き付ける。予想はしていたが俺はバカとの約束は関係なく殺害対象のようだ。予想はしてただけで納得はしてない。
「それはもう知ってる」
どうやら一度見たら対策出来る位には戦い慣れているらしい。板切れを向ける行動に合わせて目を閉じた。それでいてこちらの居場所は見失っていないようだ。恐らくは音で位置を割り出してるのか。
「ハズレ」
だが甘い、連続で同じ事するわけ無いだろ。
「『振動増幅札』・警告音」
『Piriririririririririririri!!!』
「ぎゅ……うるさ……」
今度は光ではなく音で怯ませる。変な踊りの際に使用済みになった札を再活性させて使用、魔力特性の関係で劣化しているが目の前の奴を怯ませることが出来るなら十分だろ。『魔法・ι』も『魔法・ο』も俺の魔力特性の適正外だがそれはそれ。
現に奴は意識を集中させてた耳に大きなダメージを負い、大きく退く。足を止めてくれるなら捕まえて適当な動物に変えれるがしっかり距離を取って来る以上あまり期待できない。追い返すに足る決定打が無い。
ダメージは与えることが出来てるがこの調子だと早々に復活するだろ、んなわけで……。
「走れ!」




