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 この世界に来て五日目。

 今日はミモザさんの用事のついでに冒険者ギルドに行く日だ!

 私は目立つ髪色を隠すためにいつもの様に髪を後ろで三つ編みにするとフードを目深にかぶり、ミモザさんとともに治療院を出た。

 フードはミモザさんが絶対に被って行った方が良いというので頂いた。お借りしますって言ったけど、今後も外に出る時は必ず被っていた方が良いとのことで貰うことになったのだ。少し大きいので目元まですっぽり隠れる。因みに洋服は治療院に来た患者さんのお下がりだ。

 大きいフードのおかげで顔が影になって、深い赤色である目はパッと見黒に見えるらしい。

 高位貴族にしかいない目と髪色の子がこんなところをフラフラ歩くことは、本当に危ないらしいのだ。盗賊もこの髪色について何か言っていたし、誘拐とかそういう危険があるってことなんだろう。怖ッ。

 ギルドは朝と夕方が混むらしくその時間を避けて行くことになったので、先にミモザさんの用事を済ませるついでに街を簡単に案内して貰った。


 そうそう、『★剣と魔法の世界に転移してみたい』以外に転移先の条件として、もう一つリストに書いていた事がある。

 それは『★出来れば日本の乙女ゲームか物話の世界に転移してみたい(モブで)』だ。

 昨日リストをチェックしていた時に達成済みに入っていたのでその世界に転移したことは分かっていたけれど、これは真面目に異世界転移を考えるなら必ず!絶対に!必要な項目だ。

 日本の乙女ゲームか物語の世界だと言うことは、高確率で食べ物や物の名前が知っている物と類似していたり、使い慣れた便利な魔導具があったり、衛生的であるハズだから。

 例えば便利魔導具によってトイレが水洗だとか、お風呂だって存在する可能性があるのだ。ファンタジーの世界観を損なうから、スマホやキッチン家電の類いはないかもしれないけど・・・。

 現にトイレは水洗だったし、お風呂も高価なものではあったけど存在はする。そして目論見通り月日・曜日・時間、物の名前は日本と一緒だったのだ。


 念のため可能性は少ないだろうけど『乙女ゲームや物語に巻き込まれる=非常に面倒くさい』ので、ちゃんと「(モブで)」と注釈も入れることも忘れていなかったことで、乙女ゲームにありがちな舞台である「学園」とは無縁なところに転移することにも成功している。(星良()アッタマ()いい!!)

 ──まぁ、おかげさまで転移早々命の危険には見舞われたけどね。


 さぁ、そんなことを話している間に念願の冒険者ギルドに到着しましたよ!!

 外観はファンタジーでよく見る結構立派な建物で、頑丈な作りの三階建てだ。入り口の扉の上についた大きな木の看板が迎えてくれる。きっと三階の一番奥に頼れるギルドマスターがふんぞり返って──いや、どっしり構えているに違いない。


(どんな人かなぁ~。ギルマスならガッシリした頼れるオジサマが希望なんだけどなぁ)


 ギルマスには悪人パターンもあるからな。あ、でもギルマスは善人で副ギルマスが悪人とか、事務系ギルマスのパターン、ギルマスがエルフ(いるのかな?)のパターンもあるよね。

 そんな妄想を膨らませながら、私は建物に一歩足を踏み入れる。

 するとリストの項目『★冒険者ギルドに行ってみたい』かかれたウインドウが、目の高さ右側辺りに一瞬現れて消えた。達成したと言うことかな。

 でももったいなかったな。こんなことになると分かっていたら、もう少し慎重に項目を考えたのに!冒険者登録をするなら冒険者ギルドに行くに決まってるもんね。

 でも十分熟考したんだよ?リストを考えたときは登録以外で──依頼を出したりする用件で行くことになるかも知れないから登録は別でって思ったんだよね。


「うわぁ~」


 私はギルドの中を見渡した。口からは自然に感嘆の声が漏れる。

 ギルドの中は正面にいくつかのカウンター、左奥がカフェの様な造りになっており、何人かの冒険者が椅子に座ってくつろいだり話し合いをしたりしているようだった。

 足元に犬のような動物が座っている人や(従魔かなぁ)、剣士っぽい人や大盾使いっぽい人、弓や魔法使いっぽい人もいる。

 時間的な関係か、思っていた以上に静かだった。

 私の冒険者ギルドのイメージでは誰かが揉めていたり、酒場が併設されていて騒がしい感じだったりするのだけど、お酒を提供するお店は周囲に沢山あるようだったので飲みたい人はそっちに行くんだろうと思った。

 そして右奥は壁一面が掲示板になっており、大小様々な紙がピンで留めてあった。朝の混雑時に冒険者が持って行ったためか、隙間が目立つ。


「おぉ~!あれが本物のクエストボード!!」


 私が立ち止まり感動に打ち震えていると、先を歩いていたミモザさんに「こっちよ」と呼ばれた。

 あ、いかんいかん、完全にお上りさんじゃん。


 慌ててミモザさんに走り寄り、空いている受付カウンターへ行くと、ミモザさんが私の代わりに用件を伝えてくれた。


「冒険者ギルドへようこそ。新規登録ですね?こちらの用紙にお名前と職種をお書きください。職種は無ければ空欄で結構です。後から追加で登録することも可能ですから」


 そう説明されて、スーツっぽい作りの洋服に身を包んだインテリ系の糸目おじさんに書類とペンを渡された。


「スピカちゃん。大丈夫?」


 フリーズした私をミモザさんが心配してのぞき込むが、全く大丈夫ではない。

 だって異世界ファンタジーの受付カウンターと言えばド定番のはずと信じていた。なのにどの受付窓口にもいないのだ。・・・どの窓口にも受付()がいないのだ(泣)!


──受付お()さん・・・


「だ、大丈夫です」と涙を堪えながら書類に目を落とす。

 なぜ私はリストに「優しくて美人な受付嬢に会いたい」と書いておかなかったんだろう。なんならかわいい獣人さんの受付嬢でもよかった・・・というか、書かなくてもそれがデフォルトだと思っていた・・・。

 受付嬢に憧れているのは男子だけではないのだ。

 あ、ヤバい、下向いたら涙出るかも。鼻水も。

 でも、いつまでも泣いてはいられない。受付の人に迷惑だ。

 私は気を取り直して涙で滲んだ書類を見る。すると、文字の上に日本語でふられたルビが見えた。


「名前・・・スピカ。職種・・・ナシと」

 

 おお~。書ける、書けるよ。

 私的には日本語を書いている感覚なんだけど、手が勝手にこの世界の文字に変換して書いていく。オートモードだ。

 『★読み書きはこの年で覚えたくないのでチートにおまかせしときたい』が、一瞬現れて消えた。うんコレはやっぱりリスト項目を達成したら出るヤツらしい。『★ステータスオープンと言ってみたい』をクリアしてリストの存在を知ったから、リストに変化があれば一瞬だけこんな感じでお知らせが来るようになったと言うことか。

 今まで文字を読む機会はあったのでルビが振られているのは知っていたけど、文字はこの世界に来て初めて書いたからこのタイミングで達成にカウントされたらしい。

 

(それにしても達成したら何をしてようと出るのかなコレ、ウザいな。時間のあるときに落ち着いてゆっくりチェックしたいから出ないように出来ないかな)


 そう思っていたら『通知に関する設定が変更されました。今後変更する場合は「設定」とおっしゃってください』とウインドウ出て消えた。

 なんとも言えない気分だったけど書類を書き終わったので受付のおじさんに渡す。すると彼は「少々お待ち下さい」と言って軽く書類を確認した後、それを何かの機械にそれを通した。魔導具だろうか。

 それにしてもこんな小娘にも丁寧に接してくれていい人だな。さっきは泣きそうになってごめんね。


「こちらが登録証となります。身分証となりますので、肌身離さずお持ちください。革紐でよろしければ無料ですのであちらから好きなお色を選んで通してお使いください」


 そう言っておじさんが手渡してくれたのは、スピカの名前だけが入った固いステンレスの様な小さなプレートだった。カードではないらしい。タグ?と呼べば良いのかな?


「ありがとうございました」


 そう言っておじさんの示した先に行ってみると色とりどりの革紐が掛けてあった。一本だけ自由に選んで良いらしい。

 その隣を見ると有料のチェーンやキーホルダーのパーツのような物、ブレスレットにピアスなど、色々な形の物が売っていた。タグの加工もしてくれるらしい。商売上手!


 それにしても名前だけで登録できる身分証ってどうなんだろうと思ってミモザさんに聞いてみたら、犯罪や法律違反をした人があのペンと用紙を使うと魔導具が反応して登録できないそうだ。

 冒険者ギルドや街への出入り等の確認のたびにあの魔導具に通すので、作成後に悪事を働いても駄目なんだとか。勿論他人が使った場合も何かしら反応するらしい。

 なので重要なのはあの用紙に書かれた情報では無くて本人が書くこと、と言うわけだ。

 

「さぁ、登録証だけ持っていて落としたら大変だから革紐をつけましょう。好きな色を選んでらっしゃい。私は受付にもう一つ用事があるから、ゆっくり選んでいいわよ」


 そう言うとミモザさんは先ほどの糸目のおじさんの立つ受付の方へ歩いて行った。

 

「ど・れ・に・し・よ・う・か・な・カ・ミ・サ・マ・の──」


 本当はチェーンが欲しいけど一文無し。仕方なく無料の革紐を一本一本指さし選んでいると、


「へぇ~、私の所では『()()神様の言うとおり』だったけど、やっぱり地域差かしらね」


 隣からそんな声が聞こえて来たので飛び上がるほど驚いた。

 私はちゃんと「(モブで)」と注釈も入れていたハズだ。

 恐る恐る顔を上げると、私の横には髪を帽子に入れて目深に被っているけれど確かにピンク色の髪と瞳の女の子が良い笑顔で立っていた。



 ・・・万全を期していたはずなのだが──Why?



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 リスト『異世界でやってみたい50のこと』

 

 達成可能(7)

 ★冒険者講習をうけてみたい

 ★装備を整えて、それっぽくしてみたい

 ★クエストを受けてみたい

 ★クエストクリアしてみたい

 ★採ってきたものを換金してみたい

 ★討伐をやってみたい

 ★異世界ならではの店をまわりたい


 未達成(34)

 

 達成済み(9)-新規(3)・確認済み(6)

 ★読み書きはこの年で覚えたくないのでチートにおまかせしときたい

 ★冒険者ギルドに行ってみたい

 ★冒険者登録してみたい

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― 新着の感想 ―
>ミモザさんの用事を済まるついでに 済ます、のタイプミスでしょうか。
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