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3-2

 治癒魔法はこっそり使おうと思っていたのに、速攻でバレてしまった。

 私は「あ、先を急がないと日が暮れますね」と言って笑ってごまかすと、小鳥さん(シマエナガ)を木の根元の草の影に戻し餌になるかとパン屑を置いて小さな結界を施した。

 これで天敵に見つからず休んで体力を回復し、目が覚めたらご飯を食べて安全に飛び立てるはずだ。

 そして昼食の後片付けをすると、「さ、レグルスさん。出発しましょう!」ごまかすようにそう言って歩き出した。

 しかしレグルスがごまかされるはずも無く「レア魔法四つとも使えるとは聞いてないぞ」と、歩きながら怒られてしまった。


 しばらくすると、ダンジョンに到着した。

 外に話し声が漏れないのをいいことに道中沢山お小言を言われました。防音結界にしたことを軽く後悔・・・


 ダンジョンの入り口は前の世界でいうところの鍾乳洞の入り口っぽくて、森の中に岩場が現れその裂け目を入っていく感じだった。

 初級ダンジョンというだけあり、他のダンジョンに比べると人の出入りは少ないそうだ。


「普通ならここまでの道のりは魔獣の討伐をしながらになるから到着は夜のはずなんだが・・・。いや、外で野営をして入る予定だったが、一階層のセーフティエリアの方が安全だしそこまで行ってみるか」

 スピカの結界なら予定していた階層よりもう少し潜っても大丈夫そうだしなぁ・・・と、ジト目で見られた。


 この世界のダンジョンのセーフティエリアは魔導具とかそう言うモノで作られた部屋というわけでは無く、魔法の世界らしく『何故か魔物が現れない不思議な空間』だった。このダンジョンにはそのセーフティエリアが一階層ごとにあるらしい。

 因みにボス部屋は五階層ごとの全十五階層だそうだ。


「レベル上げ──がスピカに必要なのかは甚だ疑問だが、一応俺が討伐しながら進む。まず最初は見慣れる事からはじめよう。大儲けを狙わないなら討伐してドロップ品を手に入れ無くても、宝箱からお宝を手に入れたりダンジョン内にある珍しい薬草の採取で稼ぐ手もある」


 狭く長い坂を下りながら、レグルスが説明してくれる。

 そこで七星に頼まれていた薬草のことを思い出した。


「レグルスさん、カエル草とコゲチャ苔ってご存じですか?」

「ああ、確かこのダンジョンでも採れるぞ。欲しいのか?」

「はい、知り合いに頼まれていて・・・」


 そう言うと、「そうだな。スピカは討伐よりそっちで稼いだ方が良さそうだからな。討伐を見慣れることと薬草採取目的で攻略を進めよう」と言ってくれた。本当に面倒見のいい人だ。


 そんな話をしていたら広いところにでた。

 奥に森も見えるが、草原という印象の階層だった。


 草原には主に角のあるウサギのような魔獣が多く生息していた。

 初級ダンジョンの最初の敵と言えばスライムだと思っていたのでちよっと意外だったが、私の様子を見ながらサクサク狩っていくレグルスをみる限りでは群れない上に直線的な攻撃しかしてこないウサギは確かに初心者向きかもしれない。

 ちなみにレグルスが狩る様子をこんな風に冷静に見ることができたのは、致命傷を与えた瞬間に消えてドロップ品に変わるのと、前の世界のウサギとの共通点がサイズ感と長い耳しか見いだせなかったからだ。

 ・・・いや、平気、ではないな。

 あの長い耳とフォルムが見えたので前の世界のウサギを想像した。なのに、近付いたら額に角のある長耳で跳ねずに四足歩行をする人面魔獣だったのだ!早く討伐してくれと半泣きで頼んで遠目から見ていたのだ。

 人面ウサギからのドロップ品は肉と皮と角。ただしサイズがサイズなので、大した金額にはならないとのこと。


(でも自分で狩るのはやっぱ無理っ!!)


 結界があれば魔獣から危害を加えられることはない。となると、戦って魔獣から身を守る必要もなく、魔獣の素材で稼ごうとも思えない。

 他の人はそれで生活しているわけだから否定はしないけど、ダンジョンとはいえやはりゲーム感覚で生きているモノの命を奪おうとは思えなかった。

 

 夜になって到着したセーフティゾーンには数組の先客がいたが、岩に囲まれた多角形の土地でちょうどそれぞれ角の方で野営の準備をしていたので、私達も壁際に陣取ることにした。

 ダンジョンのセーフティゾーンは魔獣が来ないため、調理可能だ。洞窟の中(屋内)なのだけど、煙も大丈夫なのだそう。だけど収納魔法を使える人はほぼいないため、普通は調味料を持ち込みドロップ品の肉を塩胡椒で焼くくらいしか出来ないらしい。荷物は必要最小限にして、ドロップ品を少しでも多く持ち帰るためなんだとか。

 高難易度のダンジョンになると、マジックバッグを持っていたり収納魔法を使える人を仲間にして食材や調理器具を持ち込む人もいるのだとか。

 私たちも初級ダンジョンの作法に倣い、晩御飯はドロップ品の肉を焼いて食べることにした。折角ダンジョンに来たのだ。ダンジョン飯を食べるべきだろうと思ったからだ。

 ただ、先程の人面ウサギでは食欲がわかない──というか食べたくないので、一階層の森で狩った鳥魔獣のお肉を頂いた。


 この世界は乙女ゲームの世界だからか、塩胡椒、砂糖等調味料は結構充実している。きっと本来ヒロインが攻略対象とキャッキャウフフとカフェデートしたり、彼のためにクッキーを作ったりするためなのだと思う。七星に言ったら怒られそうだけれど、七星は料理が上手だったもん。

 

 私はスマホのレシピを見ずに作れるレパートリーは卵焼き、目玉焼き、スクランブルエッグとカレーだけ。だから記憶喪失設定のせいか、貴族のお嬢様と思われているせいか、料理は作れないと思ってくれているらしく(作れないのだけど)、全部レグルスがやってくれて大変助かった。

 レグルスは世話好きなだけあり?料理の手際もよく、とても美味しかった。


 食後のコーヒーを飲みながらのまったりタイムで、私はこの世界に来てからこれまで、とても疑問に思っていたけれどタイミングが無くてなかなか聞けなかったことをレグルスに尋ねることにした。

 それは冒険者登録の際や冒険者講習の際と説明を受ける機会があったにもかかわらず、耳にしなかった制度のことだ。

 冒険者を夢見たことのあるファンタジー好きなら、気にならないわけがない──そうSとかAとかBとかいう、あの制度の事である。


「冒険者のランク制度?なんだそれ」


 はい、終わりました(泣)。この世界には冒険者ランクは存在しないようです。


「いえ、色々な依頼があって、それぞれ難易度があるじゃないですか。この難易度の依頼はある一定以上のランク──強さを持つ冒険者でないと受けられませんよ~みたいな?」


「ああ、なるほど。そう言うことか。基本的に依頼は本人の自己責任で受ける。冒険者の人数は多いからそんな制度を確立するには各ランクの強さの定義を決めたり依頼に達成度の管理や昇級の時の試験?条件?もいるだろう。ランク偽装の対策・・・無理だろうな」


 そうか、私は昨夜チェックしたリストを思い出していた。『★レベル上げしてみたい』・・・冒険者のレベル=ランクのつもりだったのだけど・・・あぁ、何で『冒険者ランクを上げたい』と明確に書かなかったんだろう。


 ──ああぁ。


 私は脱力し、ショックでふらつき壁に手をついてしまった。

 その時何故かガコンッという手応えがあり、荷物とレグルスごとひっくり返るように壁の向こうに飲み込まれてしまったのだった。


 セーフティって、どういう意味でしたっけ?

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