表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/48

2-1

 依頼書掲示板から薬草採取系の依頼書を取り、受付に立つリゲルさんに渡す。


「こんにちわ。リゲルさん。これ、よろしくお願いします」

「はい、薬草採取ですね。登録証をご提示ください」


 リゲルさんは私が冒険者登録した時に対応してくれた糸目のおじさんだ。

 私はあれからそれなりの回数、薬草採取の依頼を受け『★クエストを受けてみたい』『★クエストクリアしてみたい』『★採ってきたものを換金してみたい』の三つの項目を達成した。

 冒険者講習の時の分はノーカウントだったからね。

 それにしてもリストのはじめの方は慎重になりすぎたなと思う。リストの項目が細かすぎる・・・もったいない。


 私は革紐を取り外し、カウンターの上に乗せた。

 珍しくリゲルさんから「ほとんどの方は何回か依頼をこなしたら革紐から買い換えるのですが、スピカさんは買い換えないのですか?」と声を掛けられた。この人は仕事中に私的な会話をしない人だからちょっと驚く。


「はい、その前に装備を整えた方が良いって、講習の時にレグルスさんに言われましたから」


 私がそう言うとリゲルさんが微笑み、大きな手が頭に乗ったかと思ったらポンポンとされた。

 フードのせいで視界が悪いから誰の手か見えないけれど、なんとなく分かる。体ごと振り向くとそこには思った通り笑顔のレグルスが立っていた。


「あのレグルスが女の子に向かって笑いかけてるぞ」

「雨か?今日これから雨が降るのか?」

 若干周囲がざわつくが、フードを被っている私には聞き取れない。


「お前、言いつけを守って偉いな。教えた甲斐があるってもんだ──と、今日は大人しい相棒の姿が見えないな・・・一人なのか?」


 大人しい相棒?誰それ。

 レグルスに言われる相棒には七星しか心当たりがない。が、決して彼女は大人しくはない。

 いや、そう言えばあの日の七星はレグルスを見て『げ。』と言ってからこっち、妙に静かだった・・・というか完全に気配消してたよね・・・。

 ということはやっぱり七星のことか。


「ん──彼女はですね、今家で大人しくしています」

「どうした、具合でも悪いのか?」


 なんと言ったら良いのか分からずに言葉を濁したことでかえって心配するレグルスに(ほとぼりが冷めるまで出歩かないそうです)とは言えないので、


「ハイ、お腹がちょっと・・・」


 そう答えたら、微妙な顔をされた。




「よし、ここまでは前回も来たな。今日はもう少し奥に連れていってやる」


 突然ですが私は今、レグルスと前回(講習の時)薬草採取で来た森の中にいる。

 それはレグルスに「言いつけを守っているようだからご褒美に今日は俺が森に付き添ってやるよ」と言われたからなんだけど、講師を務める程の冒険者についてきてもらうことはこれからも冒険者を続ける上で勉強になるんじゃないかとか、前回森の中で採取した薬草は野原の薬草の倍の値段で買い取ってもらえたのでお金になるんじゃないかとか、貯金が増えるのではないかとか、懐が温かくなるのではとか、まぁ理由は色々だ。

『鑑定』があるとはいえ、やはり野原に生えている薬草はやせていて、水球で鮮度を保ってもあまり収入には繋がらないのだ。


 前回より森の深い所にまで連れて行ってもらい満足いく量の薬草が採取出来たためギルドに戻ろうとした時、レグルスの雰囲気が変わった。


「お、魔獣さんのお出ましだ」


 そういって立ち上がると私を背に庇うように立ち、腰に差す大剣に手を掛けた。


(え?どこから?なんで分かるの?気配とかかな?)


 私はキョロキョロして魔獣を探した。はじめての魔獣討伐。しっかり見学させてもらって、今後に活かさなければ!

 すると突然、木の影から一匹の狼型の魔獣が現れ、私たちに向かって飛び掛かってきた。


 ザシュ!


 一瞬だった。


 一瞬だったけど、


 魔獣の断末魔


 飛び散る血


 血濡れた剣


 日本で育った私にとってはそれで十分だった。


「ぎ、ぎゃーーーーー!!!」


 驚きすぎて薬草を放り出し、その場から一目散に走って逃げてしまったのだ。


 森の奥に向かって・・・・・




 ★




 しまった。


 スピカが走り去った後、そう思った。


 盗賊の討伐の依頼を受けた時に偶然拾った赤髪(ガーネット)の女の子。

 盗賊の話を信じるならば、この場までは自分の足で来たらしいので『ライト』で付近を照らし、彼女の荷物を探した。しかし荷物らしき物は見当たらず、彼女のそばに俺の髪と同じ色の宝石がついたペンダントが落ちているだけだった。

 星空にも似た美しい宝石(それ)はこれまで一度も見たことの無いものだった。俺の色と同じ石を持つ少女──不思議な縁を感じる。

 手間ではあったけど、流石に女の子をあんな所に放置するという選択肢は無かったため、街に連れ帰ることにした。

 盗賊をギルドに引き渡すついでに念のためギルマスに彼女のことを伝えた。

 髪色から貴族である可能性も考えたが、あんな所に荷物も無く一人で立っていたと言うのが本当であれば確実にワケありだろう。着ている物から国外の貴族である可能性もある。

 貴族令嬢であれば身の回りのことをするにも手がいる。外傷はなかったが女性(ミモザさん)のいる治療院に連れて行き事情を話し、預かってもらえるよう頼んだ。快く受け入れてもらえたため、彼女のことは冒険者ギルドに報告して欲しいと言い残し、ギルマスに全て任せてその後は知らぬふりを決め込んだ。

 人に関わるのを避けて生きてきた。ギルマスもそれを知っているはずだ。

 だから彼女とはそれで終わったはずだったのに、「お前が拾った赤髪の女の子が初心者講習に来た。どうやら記憶を失っているようだし、その辺の冒険者に任せるわけにはいかない」と、ギルマスとリゲルさんに頼まれて彼女の初心者講習の二日目を受け持つことになってしまった。

 講習では色々教えたしつい力になると言ってしまったけど、あまり接点もないのでこれでもう関わることも無くなるだろう──そう思っていたのだが、縁があるのか良く出会う。

 しかも人に絡まれていたり、俺の言いつけを守って装備を揃えるためにお金を貯めていると言っていたり──そんなだからつい声を掛けてしまった。

 勝手に妹分?──多分そんな事を思ってしまったから、こんなところまで連れ出してしまったんだと思う。

 俺が拾った女の子。

 記憶を失っていることはわかっていた。

 わかっていたのに・・・。


 過去は知らないが、記憶を失っている以上こういった光景は彼女にとって初めての経験だろう。

 しかも記憶を失った原因がこういった殺生の場面だったかもしれないのに──。


「俺はバカか」


 そう言い捨ててスピカを追った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ