表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/84

目撃証言8『橋の上での戦い……そして卵』

風美はそんなことを気に掛けず、買い物の続きをした。


「さてと、今日は卵の特売か……12時までって……まあ夏休み開始だしそういうものか……確か店は……」


そして、川向こうに繋がっている階段付きの橋を渡る為、階段を上り、橋を渡ろうとした時であった。


「そこまでだよ! 秘密結社ディプレッション! 貴方達の悪巧みは許さないんだから!!」

「ッチ! もう来たのかよ! ドキドキの戦士!!」


しかし、渡ろうとした瞬間、目の前には変身した良子と霧雨が、パンクな格好をしたピアス塗れの男と数体の構成員と対峙していた。

目を丸くさせながら、風美は橋を渡るのを止め、柱に隠れて覗く。


(え! さっきクリーニングにいたのになんで戦ってんの! てか! 橋の上では止めてくれない! 通れないんだけど!!)


風美は、心の中でクレームを入れる。

この橋が、特売の卵を買うのに一番近い道であった。

その為、遠回りをすると購入できない可能性もある。


(そうだ! もう一つの! 左の! 隣の橋から渡れば!)


風美は、誰にも気づかれない様に、様子を伺いながら、左側にある橋へ走る。

そして、到着したと同時に、橋を渡ろうとした瞬間。


「ここから先は一歩も通さない!」

「糞! 糞おおおお!」

(こっち来んなよ!)


既に、もう一つの橋へと移動されていた。

悔しそうにしながら、風美は膝を付くが、すぐに決断する。


(よし、急がば回れ作戦、駅の階段を降りて向かおう!)


仕方なく、風美は橋の階段を降りようとする。


「うごが!!」


しかし、何か壁の様な物にぶつかり、そのまま尻餅を付く。


「大丈夫よ、イエローフレグランス! 一般人が巻き込まれない様に結界を張ったわ!!」

「良かった!! これで安心だね!」

(閉じ込められたアアアアア!! ちょっと待ってえええ!! 私が残っているんですけどおおお!!)


風美は、涙目になりながら、顔を青くさせ、心の中で泣く。


「イライー! 構成員ナインダーを使って何をしようとしたの!!」

「は! 簡単だ! この街にいるゴミ共に俺達の怒りをぶつけようとしてんだよ!!」

「一体それに何の意味がるの!! そもそもどうしてそんなに怒っているの!」

「むしゃくしゃしてんだよ!!」

(理由がただのヤンキーじゃねえか!!)


風美は、イライーの余りにも痛々しい理由な為、怒りに震える。

しかし、そんな痛々しい理由で問題を起こす者程、厄介である事を風美は理解していた。


(もしここで私が顔を出せば確実に人質に取られる……悪い事をして自身の存在証明したい系の奴等には関わらない様にしないと……仕方ない、ここは大人しく観戦するしかない)


風美は、階段の柱に身を潜める。


「そんな事で罪のない人を傷付けるだなんて許せない! 今すぐ止めなさい!」

「黙れええ! 誰が素直に止めるかよ!! いけ! ナインダー!」

「ナインダー!!」

(うわぁぁ)


風美が引く中、イライーはドキドキの戦士2人に、四本の指から爪を剥き出したナインダー達に襲わせる。


「リフレッシュフレグランス!」

「イヤサレルー」

(本当にニチアサみたいなやられ方するんだ)


良子の手から噴き出した、香りによって、ナインダー達は大半が無力化された。


「何やってんだああ!! 屑共がああ!! さっさと立てよおおお!」

「ナインダー!!」

(復活のさせ方が手動!)


しかし、イライーがナインダーを殴り付けながら、罵声を浴びせる事により、次々と復活する。


「そんな! どうして……」

「ギャハハハハハハ!! 無駄なんだよ! お前のリフレッシュ効果なんざあ、ゴミみたいなもんだろうがああ!」

「私がやる!! リラックスネイル!!」


霧雨が、念動力のように手を翳し、ナインダーの爪を青くした。


「イヤサレル―」

「ふん! そんなことしたって無駄だ! オラァ!」


イライーは、再びナインダーを殴り付ける。

しかし、ナインダー達は、一瞬戦闘モードに入るがすぐに爪が青くなり無力化される。


「バカな! 何で!!」

「私の能力は爪に癒しの効力が籠った色を付着させて、目視させる事によって戦意を喪失させる!」

(それ言ったら目を潰されるのでは?)

「フン! なら爪を剥がせば良いだけの事だ!」

(なんでだよ! 爪剥がす方が時間掛からない!? 一体8本もあるんだよ! って! なんで敵の心配を!)


風美は、どっちの味方なのか自分でも分からなくなってきた。


「うおおお! っ! 糞! 剥がせねえ!」

(そんな簡単に剥がせるか! 目を潰した方が早いだろ!)


風美は、効率の悪い方法を取る、イライーに対して、苛立ちを覚える。


「これで終わりよ! はああ!」

「くそおおお!」


霧雨は、拳を握りながらイライーを殴ろうとした瞬間、誰かに止められた。


「久しぶりね」

「!! あなたは!」

(新キャラか!)


受け止めた相手は、黒い靄に包まれており、ドキドキの戦士に似た黒い服装の少女であった。


「ふん、お前は言われた事も出来ないのか?」


同時に、スーツを着たスレンダーの端麗な男性が亜空間から現れる。


「ネチネー……貴様……」


イライーは、ネチネーと呼ばれた男に怒りを向ける。


「お前……何しに来た! どうしてダークネスドキドキの戦士まで使う……ここは俺だけで十分だ!!」

(ダークネスドキドキの戦士!? もう闇落ち戦士がいるの!)

「フン、私はお前の尻拭いとその女が使えるかの検証の指示を命じられた、だからここに来たまでだ……お前の様に指示に従わない様な無礼者でもないし、出来ない者でもない、そして俺はお前の様に……」

「あああ! ネチネチネチ!! うぜえよおお!! イライラさせんじゃねえ!」

(だから名前がネチネーなのか!! イライーはイライラでネチネーはネチネチ……すっごいネーミングセンスが安直!)


イライーが髪を毟りながら癇癪を起す中、風美は名前の安直さにツッコむ。


「五月蠅い! 貴様は少し黙れ! おいダークネスドキドキの戦士! 今日はお前の初戦だ! しっかり力を見せろ!」

「分かっている……」


少し暗い顔の少女は、霧雨を睨む。


「ピンクリップ……やっと会えたわね……貴方は私が元に戻すわ……」

「貴方に私の気持ちなんて分かりはしないわ……それに私はもうピンクリップではない……ダークネスドキドキの戦士……ダークネスアイシャドウよ」

(そんな……闇落ちしたからってそんな厨二病が付けそうな名前を……)


風美は、口を手で押さえながら、少し残念そうにダークネスアイシャドウを見る。


「さあ私と戦いなさい! ドキドキの戦士! ブルーネイル!!」

「……分かったわ……」

「ブルーネイル! 私も……」

「貴方は来ないで……これは私と彼女の問題よ……」

(あ……これ強制負けイベントだ……)


流石の風美にも、結果が見えていた。


「はあ!!」


霧雨は、拳を振り上げながらダークネスアイシャドウに向かっていく。


「感情に振り回されていますね……そんな体たらくでは私には勝てませんよ……」


当然のようにダークネスアイシャドウは、柔術で霧雨を投げ飛ばす。


「ぐがあ!! リラックスネイル!!」

「爪に癒しの効果のある色を付着させる……そんな程度で私の闇は取り払えない……」

「!!」


当然のように何の変化も現れないダークネスアイシャドウに、霧雨は悔しそうにする。


「では私の番ですね……アイシャドウマスク」

「な! 何これ!!」


ダークネスアイシャドウが、能力を行使すると霧雨の目元にマスクのような黒いメイクのようなものが現れる。


「み! 見えない! 何も感じない!!」

「ブルーネイル!」


悔しそうにしながら、霧雨は手を前に突き出しながら探る様に不安定に歩く。

しかし、ダークネスアイシャドウを見つける事が出来ず、冷汗を掻く。


「無様ね……所詮貴方はその程度よ……」


ダークネスアイシャドウが、見下すように霧雨を見ている。


「そんなことないよ! ブルーネイルは頑張っているよ! 私が役に立たない中……私以上に頑張って……」

「でもこの有様よ、結局結果を出せなければ意味はないわ」

「そ! そんな事……」

(流石の元木さんも正論パンチには成す術なしか……)


悔しそうに黙り込む良子に、風美は同情的な目で見る。


「二人共これで終わりよ」

「そこまでだ!」

「!!」

(!?)


ダークネスアイシャドウが、トドメを刺そうとした瞬間、ネチネーに止められる。


「あくまでこれはお前が使えるかの検証だ、それが済んだ以上ここにいる必要はない」

「どうして? ここで倒した方が私達の世界征服が進むのよ?」

「簡単な話だ、上の者からそんな指示はない」

(なんて典型的な指示待ち人間!)


ネチネーの言動に、ダークネスアイシャドウは苛立ちを覚える。

それは、誰よりも短気なイライーも同じであった。


「この指示待ち野郎が! こんなところで終われるかよ! 俺の怒りが収まらねええ!」

「よせイライー! 上の指示に従えんのか!」

「うるせええ!」

(こいつら相性悪すぎだろ!)


キンキンする声で繰り広げられる、下らない喧嘩を聞かされ、流石の風美もうんざりする。


「くたばれえええ!!」


まるで死亡フラグようなセリフを吐きながらイライーは、霧雨に止めを刺そうとする。


「ブルーネイル!!」

「っく! ここまでか……」


覚悟を決める霧雨であったが、イライーの拳が届く事はなかった。


「させないよ」

「へ?」

「な! お前は!!」

(まーた変なのが現れた)


イライーの攻撃を防いだのは、黒いマントに包まれ、西洋の剣を携た、シルクハットと仮面を被っている青年剣士であった。


「大丈夫かい?」


そう言いながら青年は、霧雨のアイシャドウマスクを剣で撫でるとそのままアイシャドウマスクは切れたように落ちた。


「ブラックナイトマスク!!」

(ダッサ!! しかもその剣よく見たら竹刀だし!)


イライーの言った名前を聞いて、風美はネーミングセンスを疑った。

その上、風美には、ブラックナイトマスクの剣が竹刀として見えていた。


(てか結界は! 通れないんじゃないの!?)


風美は、この場を脱出する為に、ブラックナイトマスクが現れた場所を確認するが、歩道橋の真ん中辺りの結界が壊されていた。

しかし、破片が元に戻り、すぐに修復されていく。


(orz……)


風美の目からは、一筋の涙が溢れる。

しかし、霧雨の表情は恍惚としていた。


「ブラックナイトマスク様……」

(え! 西連寺会長! まさか……嘘でしょ? そんな糞ダサネーム男に対して雌顔を披露するなんて!)


風美は、見た事のない霧雨の表情にショックを受ける。


「後は任せてくれ……」


すると、ブラックナイトマスクは目の前にいたイライーを投げ飛ばした。


「うおおおお!!」

「糞! 指示に従わないからだ!!」

「私がやる……」

「!! どうしてお前等は指示に従わないんだ!!」


投げ飛ばされたイライーと勝手に前に出るダークネスアイシャドウに対して、ネチネーは、怒りの涙を流す。


「ダークネスソード……」


ダークネスアイシャドウは、手元から漆黒の剣を伸ばして構える。


「なるほど……ダークドキドキの戦士になった事で力を覚醒させたか……そんな方法で強くなって欲しくなかったよ」

「そう……貴方にも色々と世話になっただろうけど……今は貴方の敵よ……」

「君はそれでいいのかい?」

(いいからサッサとやれよ……卵が売り切れるだろ!)


戦い前の会話に、風美は苛立ちを覚える。

しかし、その想いが通じたのか二人はぶつかり合った。


「ほう……なかなかな剣筋だ……」

「どうも……」


二人の剣戟で音が鳴り響き、数分間戦いが続く。


「はあ!」

「うぐ!!」


しかし、明らかにダークネスアイシャドウが劣勢に陥っていた。


「ブルーネイルに言ったことをそのまま返そう……今のお前の攻撃は感情に振り回されている……」

「黙れ!!」


煽られたせいか、ダークネスアイシャドウの剣筋は、少し乱れ始める。


「はあ!」

「っく!!」


しかし、焦りのせいで剣を弾き飛ばされて首筋に刃を当てられて敗北する。


「だから言ったんだ!! どいつもこいつも!!」


ネチネーは、怒りに狂ったように地団太を踏む。


「……」

「糞!! 次は俺がああ!」


イライーが、顔を真っ赤にしながら、ブラックナイトマスクに襲い掛かろうとする。


「もういい!! お前等帰るぞ!! こうなるから俺はさっさと引こうとしたんだ! それなのにお前等は! これ以上醜態を晒すな!!」


しかし、ネチネーが粘液を手から放出させて、二人を捕まえる。


「うええ! 汚ねえ!」

「くっ! 取れない!」


二人は、何とか引き剥がそうとするが、粘液から解放される事はなくそのまま連れて行かれた。


(ふー、やっと終わった)


風美も、一安心して胸を撫で下ろす。


「ありがとう……ブラックナイトマスク様」

「構わない……だが……」

「ブラックナイトマスク様?」

「君は彼女をもう少し信頼してあげるべきだ……でなければまた同じ結果になってしまうだろう……」

「そっ、それはどういう……」

「そこからは君達が考える事だよ、それじゃあ」

「あ! ブラックナイトマスク様!」


ブラックナイトマスクは、意味深な事を言ってそのまま去ってしまった。

そのせいか、変身を解いた霧雨と良子の間に、微妙な空気が流れる。


「あれ? 元木さんに西蓮寺会長?」


時間が掛かると思った風美は、声を掛けて、時間短縮を狙った。


「あ、加瀬さん」

「……こんにちは」

「二人は知り合い何ですか?」

「え」


霧雨は、風美問いに一瞬戸惑う。

しかし、決意した表情で答える。


「そうね、ちょっとした知り合いよ」

「そ、そうよ!」

「そうなんですね、では二人の邪魔にならない様にこれで失礼します」


風美は、後は関係がないと思い、買い物の続きをした。


「いやあ、終わった終わった、相変わらず困った目撃体質だ」


そんな事をぼやきながら歩いていると、建物と建物の隙間から声がした。


「やれやれ、手間の掛かる二人だ、でも……二人にはこれからも頑張ってもらわないと」

「ん?」


不意に聞こえた方に目をやると、そこには先程のブラックナイトマスクが着替えている姿があった。


『全く……お前もお人好しだ……』

「そんな事ないよ、トウ」

「あ……あわわ…わ」


正体は、文雄の同じバイトの彰人であり、その上竹刀に、向かって話していた。


「?」

「やっ……ば……」

「気のせいか……」

『どうした?』

「いや、何でもない」


瞬時に、風美は近くの物陰に隠れた。


(なんであの男がここに!? てかバイトは!? 兄さん今大丈夫なの?)


流石の風美も、文雄の現状を心配した。

そんな事は露知らず、彰人は着替え終えるとそのまま路地へと出る。

風美は、バレない様にしながら様子を伺う。


「あれ? 兄さん?」

「恵斗か?」

(兄弟か? 恵斗ってどこかで聞いたような……)

「兄さんバイトは?」

「あ! そうだ! 早く戻らないと!」

「待って兄さん! 俺明日ちょっと友人の相談に乗るから昼いらないから!」

「そうなのか? わかった!」


そんな会話をした後、二人は別れてその場から去った。


「ふー……危ない危ない……あ……卵」


風美は、卵の安売りに間に合わなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ