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目撃証言7『ッフ……世知辛え世の中だぜ……』

7月21日 夏休み1日目。


「じゃあ行ってきます」

「はいはい、しっかりお金稼いできてねエ……私のお小遣いも掛かってるんだから」

「了解」


文雄は、予定通りバイトへと向かった。

中学生である、風美はバイトが出来ない為、初日は安い店で食料や飲み物、日用品を買い溜め、そしてクリーニングの依頼をする事になった。


「さてと、財布持った……あ、そうだそうだクリーニングの10円割引とスタンプカードっと」


必要な物を全て鞄に配置されたポケットに、迷いなく入れていく。

そして、ペットボトルと紙パックの入った袋を持って買い物へと出た。


「おはようございまーす……」


文雄は、クリーニング屋へ到着すると店主のおばさんが、目の前の爽やかなイケメンに目を輝かせながら話していた。


「ああ、やっと来たわね……遅いわよ」

「定刻より10分早いんですけど……」


当然、いきなりイチャモンを付けられた文雄は、店主に対して抗議する。


「本当に最近の若者は文句ばっかり……」

「目の前の兄ちゃんも若者なのでは?」

「新人イビリは止めなさい! 彼は今日から入る奥山彰人君よ! ちゃんとお仕事を教えて上げなさい!」


文雄と店主のネチネチとしたやり取りを終えて、新人の青年は挨拶をした。


「奥山彰人です、よろしくね!」


いかにも、爽やかイケメンな挨拶は、文雄の癪に触った。


「あー……はいはいよろしく」


しかし、無視するわけにもいかないので、文雄は適当な挨拶だけで済まし、それ以上余計な会話をしなかった。


「フン、全く……私は用事があるから今日の分の引き取りと接客をしなさい、彰人君は初めてだから無理しないでね?」

「ありがとうございます!」

(それって俺に無理をしろってことでは?)


何か言いたげな文雄を無視して、店主は車を走らせる。


「さてと、接客と受け取りタグ付けをするからまずは見てて」

「はい!」


元気のある良い声であったが、出勤したばかりの文雄には少し不快であった。


「いらっしゃいませー」

「いらっしゃいませ!!」

(うるさ)


彰人のデカい声に、多少イラつきながら仕事を行う。


「あら、元気が良いのね!」


しかし、女性客には受けが良かった。


「ありがとうございます!」

「そこのあんたも見習いなさい、これ……お願いするわよ……」

「一週間掛かりますが宜しいでしょうか?」


文雄は、マニュアル通りの接客と受け取った商品をワゴンに入れていく。

しかし、それを不満に思ったのか、女性客は眉間に皺を寄せる。


「あの! 貴方の接客前から不快なんで! そちらの方に接客して貰いたいわ!」

そして、女性客は、文雄の接客態度を理由に彰人との接点を要求した。

「えっと……彼はまだ新人でして……」

「あら、それを理由に彼を無能扱いする気? それって立派なパワハラよ? ここの店主と私知り合いだから告げ口しちゃうかもしれないわねえ」

「えええ」


流石にパワハラの言葉を出されると、文雄はたじろいでしまう。

もし彰人が、それに便乗すれば文雄はほぼ確実にクビにされる。


「俺は大丈夫ですよ、先輩」

「そういう事ではなくて……」

「じゃあ宜しくね!」

「はい!!」


気が付けば、彰人が受付に立つ事が勝手に決まってしまった。

文雄は、仕方なく入れられた商品にタグを付けて、ポケットの中身確認等の作業に移った。


「それでね〜、主人が……」

「なるほど、そうなんですね」


しかし、作業を終えた後、何故か初めの客が彰人と雑談を始めていた。


「えっと……商品受け取って支払いが終了したなら帰って貰……」

「はあ! ふざけないで! 少しぐらい良いでしょ!」

「いや……他のお客様のご迷惑……」

「一体誰が迷惑だって言うの!」

「そうよそうよ! 自分がモテないからって嫉妬してんじゃないわよ!」

「どうせ貴方暇なんでしょ! 本当に器の小さい男ねえ!」

「は! 何この客の数!!」


文雄が作業に集中している間に、大量の客が席に座っている。


「え! 何これ……」


すると、手提げ鞄を持った風美が、唖然としながら店に入って来た。


「おお、来たか……」

「うん……」

「こんにちは、ご兄妹ですか? 可愛いですね」

「はあ、ありがとうございます……」


風美は、唖然としながらレジに向かおうとするが、突然腕を掴まれる。


「ちょっと! 順番守りなさいよ!」

「え! 並んでるんですか! 明らかにその人としか話をしているように見えるんですが?」


風美は、まさか注意を受けるとは思わなかったのか、驚愕の声を上げる。


「どうせ自分の若さを笠に彰人に気に入られようとしているんでしょ!」

「え? いや……クリーニング出しに来ただけなんですが?」


首を傾げる風美に対して、嫌味ったらしくオバさんは言い放った。


「だったらそこの汚い店員にでも頼んだらどうなのよ?」

「えっと……そのつもりなんですが……汚い店員さんお願いします」

「お前……って奴は……」


文雄は、涙目になりながら妹が持って来た商品を受け取る。


「じゃあスタンプカードと割引チケットです」

「はい……」


そのまま、レジを打って会計を済ませていると、一人の見覚えのある少女が目に入る。


「あれ? 加瀬さん?」

「?? あ、元木さん」


例のドキドキの戦士事、良子が現れた。


「あの子が?」

「うん」

「?? どうしたの?」

「ううん、別に何でもないよ!」

「そう? その人とは知り合い? あっ! もしかして!?」


良子は、顔が赤面する。


「いやいや、兄妹だから」

「そうだぞ、近親相姦は良くない」

「兄さんが街の人から嫌われる理由がよく分かったよ」


風美が、呆れながら文雄をジト目で見る。


「本当に最低ね」

「本当に気色悪い、本っ当に気色悪いわ」

「まあまあ」


罵詈雑言を浴びせる奥様方を彰人が、慰める。

そして、良子の方を見て頭を軽く下げる。


「いらっしゃいませ」

「! えと……その……」


良子は、彰人を見るなり、顔を赤らめる。


「元木さん?」

「! ううん! 何でもない! えっとお兄さんでしたっけ! すみませんがクリーニングお願いします!」

(反応が一目惚れのそれだ……)

「承知致しました、日数の方が一週間になりますがよろしいでしょうか?」

「大丈夫です! それでは!」

「ありがとうございました……フッ、俺に惚れたか?」

「兄さん、余計な事を言うと……」


風美は、文雄に注意をするが、当然意味を成さなかった。


「最低……本当に考えがゴミ!」

「喋らないでくれる? 不快でしかないわ」

「身の程を弁えろ、鏡を見てから発言しなさい」


当然、奥様方から嫌悪の表情で、罵詈雑言を浴びる。


「全く、じゃあね兄さん、バイト頑張ってね」

「おい! この罵詈雑言を止めてから……クッ!」


悔しそうにしながら、文雄は再びバイトに戻らざる負えなかった。

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