目撃証言6『全ては平和の為』
風美が、校門を出ると既に文雄が着いており、出迎える形で風美に声を掛ける。
「おう、俺も3分前に来た」
「兄さんも何かあったの?」
「おう、という事はお前もか」
二人は、互いに頷きながら理解した。
「取り敢えず今日の買い物を済ませたら家で話そうか」
「そうだね」
二人は、鞄からチラシを出すと、タイムセールと書かれている店へ直行し、ティッシュを4つ購入してから家路に着いた後、鞄を適当に置いた。
その後、食事を取り、交代でお風呂に入った後、二人は、互いの目撃共有が、終わるとお茶を飲んで一息吐く。
そして、二人は今日目撃した事を互いに共有し合った。
「まさかこの世にそんなファンタジーがあるとは」
「まさかこの世にそんなニチアサ系があるとは」
「「思わなかったなあ〜」」
二人は、少し興奮しながらも、お茶を飲み、落ち着きを取り戻しつつあった。
しかし、完全に落ち着ける状態でもない。
「取り敢えず明日はバイトだが、このままじゃめ眠れそうにないな」
「そうだね兄さん、余りにも興奮が過ぎて……疲れれば眠くなるかも?」
「ホラーは駄目だぞ、俺のトイレのお世話とかしたくないだろ?」
「兄さんって、本当に気色悪いのねぇ〜まあ良いけど……大丈夫だよ、兄さんの給料が安いと私のお小遣いも下がる、夏休みにそれはキツイ……ならあれしかないね」
風美は、近くにあったゲームソフト入れから一つ抜き取る。
「わんわん友情ゲームか、腕がなるぜー」
わんわん友情ゲームとは、二人がワゴンセールで買ったゲームで、内容としては、男の子のアキラくんが犬のペロラがお手をする事により、友情を育んでいく協力用ゲームである。
しかし、このゲームはお手をするだけのゲームにも関わらず、お邪魔キャラが現れ、それをペロラが噛み付きで退治するが、アキラ君に当たればダメージを受ける仕様となっている。
更に、お手すらもペロリに直撃すればダメージを受ける仕様となっているという、所謂糞ゲーである。
協力ゲームと聞いて買った、カップルの大半は、キレて、即売却されてしまう程不評である。
しかし、二人は端から協力し合う気などなく、寧ろ協力ゲームは基本互いが互いを邪魔し合う関係であった。
その為、二人にとってわんわん友情ゲームは、寧ろ対戦ゲームとして昇華されていた。
「おら! 喰らええ!」
「無駄だバーカ!!」
因みに騒いだとしても問題はない、それよりもうるさい外の不良共が、未だ近くの公園で屯しているからだ。
そして1時間後、全てゲームオーバーで終了するが、2人の決着は着いた。
勝者は、風美であった。
「よし勝った!」
「く!」
「じゃあアイス買ってきてー」
「は! 罰ゲームありなの?! 明日バイト何だけど!」
「よろしく〜」
「っく!」
敗北した文雄には、反論する余地は与えられず、流されるようにアイスを買いに出掛ける。
仕方なく、文雄は学校鞄を持って、近くのコンビニへと向かった。
文雄は、マンションのエレベーターで降り、屯している不良に気付かれない様に息を潜めて通り抜けようとしたその時であった。
「いだ!!」
何か壁の様なものに当たって、進行を妨げられた。
「? 何だ?」
文雄は、不思議そうにしていると不良達の騒ぎ方が、異様な事に気付いた。
「へえ、テメェもインテンションウェポンが使えるってことは前世持ちだな」
「やめろ! 恵斗には手を出すな!」
文雄は、その光景に驚きを隠せなかった。
(アイツ等、なんで1日に2回も厄介事に巻き込まれてんだ! ていうかリーダー格の不良って女子だったの!?)
今までは、絡まれたくない一心で無視をしていたが、よく見るとそこには、赤く染めたロングの髪に、パンクな格好、Gカップ、ギザ歯の女子高校生が立っていた。
ついでに、恵斗と凛もいた。
「お前みたいなのが俺の手下に勝てるとは思わなかったが、そういう事か」
「やめろ!」
「糞……どうすれば……」
『殺せばいい……それで済む』
(うわ、長くなりそうだな〜)
そんな事を考えながら、文雄は近くの自販機で、缶ジュースを購入した。
(こうなったら長丁場を考えて水分補給を……)
そして、購入した瞬間、缶ジュースの落ちる音が響く。
「おい! 今の何の音だ!」
「は? 一体何を……」
「しらばくれんじゃねえ! そっちもやる気って事かよ! いいぜ! やってやるよ!」
「ちょ! ま! 今のは本当に俺じゃ……」
(ごめーん、多分それ俺が買った自販機の音だわ)
そっと観戦しながら、文雄は心の中で謝罪した。
しかし、そんな事は梅雨知らず、不良リーダーは、恵斗に襲い掛かる。
「うりゃああ!!」
『いっくよ! レット!』
『おうよ! ガン!』
「アレが奴のインテンションウェポン!」
「くそ! 戦うしかないのか!」
(その争いは好まないみたいな台詞止めろ、なんかムカつくから)
文雄は、理不尽な怒りを恵斗に向けていた。
「恵斗!! 大丈夫か!!」
「大丈夫だ……なんとかな……」
『殺せ……本能のままに殺意を……』
「っぐ!! 止めろ!! 俺はそんな事はしない!!」
「お前のインテンションウェポン、なかなか良い殺意向けてんじゃねえか」
「やっちまえ! 鬼嶋さん!」
「リーダーの力魅せてやって下さい!」
鬼嶋は、他のモブ不良達の声援を受けながら、手に装着したメリケンサックを握り締めながら殴りかかる。
「!! く!」
「どうした!! お前も転生者だろ!! もっと俺を愉しませろ!!」
(戦闘狂タイプって……またキャラの濃い……)
文雄は、キャラタイプの分析をしながら、観戦を続ける。
鬼嶋は、メリケンサックに宿る、インテンションウェポンを魔力によりガンレットへと変化させる。
恵斗は、模造魔剣に魔力を注ぎ、魔剣へと変貌させて攻撃を防ぐ。
「ほう、やるな」
「それはどうも」
(俺の目にはキーホルダーVSメリケンサックにしか見えないから凄さが分からん)
「スゲエ! あの鬼嶋さんのメリケンサックにキーホルダーで対抗できる奴が居るなんて!」
「アイツもなかなかやるな」
(なんでだよ)
戦いの凄さが分かっていないのは、文雄だけであった。
恵斗は、鬼嶋のガンレットを魔剣で凌ぎ続ける。
「どうしたよお! 防いでいるだけじゃ終わらねえぞお!」
「くっ!!」
しかし、鬼嶋の猛攻に恵斗は、苦戦を強いられる。
「恵斗! 私が何とか結界を壊す! だから逃げてくれ!」
「五十嵐さんを置いて行けない!」
「ヒュー!! ラブラブ!」
(小学生か!)
冷やかしている不良の言葉に、文雄はツッコむ。
そんな時であった、文雄は上の方に赤い光が見えたので気になり視線を向けると、そこには亜空間が現れた。
(ああ、敵の乱入パターンかな?)
全体を見ていた文雄は、すぐに気付けたが、戦いに集中している鬼嶋と恵斗、それを見守る凛と不良達は、全く気付いていない。
「オラアア! このままじゃ負けるぞ!」
「ぐっ! 糞おお!」
(気付け〜気付け〜、大変なことになるぞー)
他人事の様に、文雄は心の中だけで言葉にする。
そして、遂にワームホールから、学校を襲った、仮面の男が現れる。
「今だ、行け」
『グルルラアアアアアアア!!』
唸る様な、ラグナの鳴き声を聞いて、恵斗達は、やっと気付けた。
「な! どうしてここにラグナが!」
「あれは!!」
「ラグナ……ッ!」
(ダメだったかあ……ここからは地獄絵図だ……)
唸り声を聞いて、恵斗達はようやく気付いたが、既に遅かった。
「うわあああ! 俺の腕がああああ!!」
「小吉!」
「一体何が……ああ!!」
「竜太!!」
近くにいた不良2人が、ラグナに体の一部を食い千切られる。
(ざまあー、精々苦しめええ~)
文雄は、今まで騒がしくて煩かった恨みで小馬鹿にする。
逃げ惑う不良達を、嘲笑っていた。
「させない! ナギ!!」
『分かっている!!』
「うわあ!」
「ヒイイイ!」
すると凛は、自分の影を伸ばして不良達を沈めた。
「凜! 一体何を!」
「安心して、あの影の中で保護している! あの中に入れば安全だ! 問題はあのラグナだ!」
『ハッハッハッハッ! 仲間割れとは愚かだな! だがそのお陰でその女……いや男の戦意は喪失させる事は出来た様だな!』
仮面の男が、高笑いをする中、鬼嶋を見ると、傷付けられた仲間を目の前にした事により絶望していた。
「俺は……俺はまた失うのか……」
何処かトラウマを抱えている様な、そんな絶望の目をしていた。
「おい? どうしたんだ?」
「まさかお前、アレク・サイダンか?」
凛の言葉に、鬼嶋は反応を示す。
「やはりそうなんだな……ガンレットのインテンションウェポンだからもしやとは思ったが……」
確信めいた表情で、鬼嶋を見る。
「五十嵐さん、どういう事?」
「ああ、奴は転生前、サイダン王国の騎士王と呼ばれていた英雄だ」
「サイダン王国?」
「ああ、サイダン王国は、元の世界で一番国家武力が高く、団結力も強かった、だからこそベンダー組織が元の世界を滅ぼそうとした時、真っ先に動いたのが彼等だった、しかし……結果はあえなく惨敗し、目の前で仲間を殺されていくのを見せられ、そのまま絶望しながら死んだと聞いた」
(敵を眼前によくもまあキャラ紹介が出来るものだ……よくあるとはいえ)
文雄は、凛の行動に疑問を持ちつつも、ラノベのテンプレを実行する凛に感心する。
「じゃああいつは今!」
「ああ、今の仲間をかつて死んだ仲間と重ねているのかもしれない」
(トラウマの前では、かつての英雄も無様なものだな……)
文雄は、鬼嶋に同情するどころか心の中で侮辱した。
「俺は……俺は……」
「ハッハッハッハッ! かつての英雄も無様なものだな!」
(それもう俺が思ったよ)
文雄の思考は、悪人とそう変わりないのかもしれない。
「許さない……人のトラウマを利用して屈させようとするなんて!」
(いや、精神攻撃は基本じゃね?)
「貴様は逃さない! 絶対に!」
(前あんなに苦戦したのに?)
色々とツッコミを挟みながら、観戦していると戦いが始まった。
『グラアアルラアア!!』
「お前等の動きはもう分かった!」
「ぐぎゃぐ!!」
しかし、文雄の予想とは逆に、凜は俊敏な動きでラグナを翻弄し、斬り倒す。
「俺だって!」
『そうだ! 我を使って全てを破壊するんだ!』
恵斗も、戦闘に参加しようとする。
しかし、頭を押さえて動きと止める。
「止めろお……kすおおお!」
『いい加減に素直になれ……お前の破壊衝動に身を任せろ』
(抑えるんだ! その良く分からん厨二的衝動のようなものを!)
文雄は、恵斗を別の意味で応援する。
「恵斗! 貴方はまだデュランを制御出来ていない! 今は大人しくしたほうがいい!」
「でも……五十嵐さん一人で……」
「私の事は気にするな!」
『ハッハッハッハッ! それはどうかな? いけ! ラグナ共!』
しかし、その隙を逃すまいと、仮面の男は、凛の死角からラグナを回り込ませて、鬼嶋を襲わせる。
「しまった!」
「遅い!」
ラグナは、震える鬼嶋に喰らい付こう牙を剥き出しにする。
そして、土煙が舞い上がり、視界が遮られる。
「く!」
『ハッハッハッハッ! 無様な奴よ』
(全体見ていたから分かる……成程ねえ)
そして、土煙の舞が無くなり始め、視界が開けるとそこには恵斗が鬼嶋を守る様にラグナの攻撃を防いでいた。
「ぐぐギギ!」
「お前……何を……」
(これは……)
文雄は、二人のやり取りを観察する。
「お前……英雄って言われてたんだろ? いつまでそこで蹲っているつもりだ……」
「無駄だ! 奴は我々へトラウマを抱えている! トラウマというものはそう簡単に取り払えるものではない!」
仮面の男は、勝ち誇った様に言い放つ。
しかし、文雄の考えは違った。
(油断だな……俺の目撃経験則から見れば、意外とそういう感情論は効くんだよ……特にプライドの高い人間には……)
今まで様々な事象を目撃した文雄は、それなりに観察眼を持っていた。
「お前に何が分かる……仲間を目の前で失い続けた末何もなし得なかった絶望……こんな知らない土地で転生して……更にはこんな情けない姿に転生して……そしてまた仲間を傷付けられて……お前に何が分かるんだ!」
「だったら何故動かないんだ! 女の姿に生まれて情けないと言ったな……だったら今の五十嵐さんはお前より情けないか? 女であるかどうかである前に! トラウマに怯えて動く事の出来ない今のお前の方が情けないぞ!!」
「!!」
『ふふふ、無駄だ、女となった此奴にそんな力はもうない!』
(確かにトラウマを克服するのは困難だが……でもそれは個人差がある上に、人によっては状況が解決する事があるんだけどなあ……)
文雄は、トラウマに頼り切っている仮面の男に対して失笑する。
「糞! 糞! 糞おおお!」
すると、鬼嶋は自身の太腿を強く殴り付ける。
『? ハッハッハッハッ! 遂におかしくなったか!』
(気合を入れてんだろ? 人の心が分からない系らしいテンプレみたいな事を言う人だな……)
既に、鬼嶋の心には恐れはなかった。
「そうだよな……女だのトラウマだの……俺らしくねえ……こんな事で日和ってる方が情けねえに決まってんじゃねえか!」
鬼嶋は、立ち上がると震える足を抑えながら、ラグナの前で構える。
『おいおい、足が震えてるぞ? 無理しない方が良いんじゃないのか?』
(お前は声が震え始めてるぞ? 動揺しない方が良いぞ?)
『ラグナ! その震えている女を喰らうがいい!』
文雄の観察通り、動揺したせいか仮面の男はラグナに鬼嶋を一斉攻撃させる。
「なっ! めんなあああああ!!」
鬼嶋は、吹っ切れた様にラグナに突っ込みそのまま殴り倒していく。
『バカな! さっきまで震えていたのにどうしてだ!』
「分からないのか? 俺達には心がある! どんな逆境にも乗り越えられる強い意思がある! それがある限り! 俺達に負けない! 負けたりしないんだあああ!!」
(前世で一回負けたじゃねえか)
文雄は、恵斗の決意に、心の中で水を差す。
しかし、そんな茶々を入れられる様な時とは違い、仮面の男は、数で勝っていたラグナを次々と失う。
『何故だ! たかが一人が加わったくらいで何故!』
「言っただろ? 俺達には逆境を乗り越えられる強い意思があるって、それが分からない以上! お前に勝ち目はない!」
(いや人質有きな戦い方な上! ラグナの数で誤解しているようだが戦士3人対テイマー一人だぞ!? 勝てるわけないだろ! 前の世界が強すぎて戦力差も分からんのか!)
そんな事も知る由もなく、ラグナは一気に倒されて仮面の男一人になった。
『なんでえ、何でこんな……ぐはあ!!』
追い詰められた仮面の男の腹から腕が伸びた。
「ふん、やはり召喚士如きには荷が重かったか……」
「お前……どうして……」
「決まっている、ラグナロクのメンバーに弱者はいらん」
突如現れた筋骨隆々で、目付きの悪い青が身の青年に、仮面の男は真っ二つにされて消えてなくなった。
仮面の男から噴き出した血は、そのまま筋骨隆々の男に掛かる。
「お前……自分の仲間を!」
恵斗は、当然のように青年に対して睨み付ける。
「は! 仲間だ? 弱者等仲間でもなんでもない、それともこのクライアン様に何か文句でもあるのか?」
両者は、睨み合いが続くそんな時だった。
突如周りがガラスの様にひびが入り、割れ始める。
「結界を解いた、このままだとお前も不利になるんじゃないのか?」
鬼嶋の言葉通り、先程まで通れなかった道を通れる様になっていた。
「フン、だから何だ? この街の人間を全て……何?」
するとクライアンは、指を耳に当てる。
「は!? ふざけるな! こんなの俺だけで……分かったよ……チッ! 臆病者共め……一旦ここは引いてやる……運が良かったな……」
そして、クライアンは、亜空間の中に消えた。
「助かったのか……」
「多分?」
「はあ、奴等も馬鹿じゃないか……この世界では魔力が薄い……万全の態勢でこの世界の破壊をしたいんだろう……すまないが俺のダチの怪我を治療したいんだが?」
「分かった……」
鬼嶋も、安心した表情で負傷した仲間を介抱した。
(まあ、終わったなら良いか、アイス買って来ないと風美の怒られる)
そして、文雄は何とかコンビニへと向かい、頼まれたアイスを購入した。
脚を組みながら、風美はアイスを頬張ると、文雄に向かって話し出す。
「で? そういう理由で遅くなったと?」
「仕方ないだろ……出れなかったんだから」
すると、風美は顎に手を当てて考える。
「不良達は怪我をしているんだよね?」
「?? そうだけど?」
「ふーん、それは都合が良い」
少し嬉しそうにしながらベランダから確認する。
そして、スマホで何処かに電話をした。
「あっ、もしもし? 警察ですか? 外が騒がしいと思ったら不良達が血塗れで喧嘩してたみたいで、かなりの負傷者もいます、すぐに来てくれませんか? 場所ですが……」
風美は、そのまま警察に通報した。
「ではお願いしまーす」
「風美……お前……天才かよ」
「アハハハハハハ!! ザマァ見ろ! ここで騒いだ罪! 精々経歴に傷を付けて償いなー!」
こうして、マンションに住む住人達は次の日から静かで平和な夜を過ごせる様になった。