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目撃証言5『真実②』

文雄より早く到着した風美は、教室に向かうまでの時間に多少余裕はあったが、それでも、ゆっくり歩いている余裕はなかった。


「油断大敵! ここは二段ジャンプを使って階段のショートカットを!! ほおれ!!」


風美が、思いっきり階段を二段飛び越えるようにジャンプした瞬間であった。


「あへ?」


だが、いきなり意識が飛んでしまったせいで勢いが落ちてしまい、階段の角に足を着いてしまった。

そして、そのままバランスを崩して後頭部を思いっきり床に打ち付けると同時に、激痛で意識が覚醒する。


「うげえ!! うごおおおお!!」


後頭部を押さえながら涙を流して藻掻き苦しむ。

激痛が治まり、後頭部を摩りながら涙目で立ち上がる。


「うう……痛いよお〜」


そして、時計を見ると8時29分を回っていた。


「うわ! やばいよやばいよ!」


風美は、必死に階段を駆け上り教室へと到着した。


「ぜえーぜえー!」


息を切らしながら自分の席に着いて後ろを振り返ると、そこには丸眼鏡を掛けて、いかにも真面目そうな三つ編みの少女がいた。

彼女の名前は、琴尾 美奈子といい、風美の友人である。

風美は、みっちゃんと愛称で呼んでいる。


「おはようみっちゃん」


いつも通り、挨拶をするが美奈子からの返事はない。


「? どしたの?」


不審に思い、風美は美奈子の様子を伺う。

しかし、目に光はなく何かボーッとした様子であった。


「おーい、みっちゃん!」


目の前で、手を振るも反応がない。

風美は、筆箱の中からサインペンを取り出して、美奈子の顔に、部族風の落書きをする。


「駄目だ、みっちゃんの反応がない」


心配そうにサインペンを握りしめていると、突然美奈子が立ち上がる。


「? どしたの? って! え!!」


立ち上がったのは、美奈子だけでなく、教室にいたクラスメイト全員であった。


「ちょ! ちょっと!」


風美以外は、迷う事なく教室から出始め、そのまま廊下を歩き出す。


「みっちゃん! そんな部族風の落書きのままどこ行くの! ねえ!」


美奈子を追い掛ける様に、風美も他の生徒達と同じ方向に歩いている。

そして、階段を上がっていく最中に、風美はあることに気付いた。


「あれ? 屋上に向かってない? 体育館かグラウンドじゃないの?」


風美が、よく見ると生徒だけでなく、教師や校長先生もいた。


「なるほど……たまには屋上で終業式をするのも乙なものって事ですか」


風美は、一人で勝手に納得した。

そして、開いている屋上のドアを皆と一緒に出ると、何故か先に良子と霧雨が立っていた。


(先に来てたんだ……)


そんな事を考えていると、霧雨は少し険しい表情を見せる。


「まさか学校の皆を操るなんて……」

「酷い……まさかこれがあの……」

『そうだッペ! これが秘密結社ディプレッションのやり方だッペ!!』

(?? 操るとは……?)

「仕方ないわね……元木さん、変身よ!」

「分かった!」

「「メイクアップメタモルフォーゼ!!」」


二人は、コンパクトを開けると、中にあったパフで顔を叩く。


「? はあ?」


すると、二人の体は光り輝いて、突如素っ裸になった。


(ふぎゃあ!! ははははあらあああ!! はらあああああ! 破廉恥なあああ!!)


風美は、顔を真っ赤にさせながら、二人の変身シーンを凝視する。

そして、体を包み込む様に良子には、黄色い光が、霧雨には、青い光が現れて、光の色のドレスが腰、身体、手の順に現れる。


(ええ! 何これ! マジな奴!?)


流石の風美も、魔法の様な光景を目撃して、昨日の話の信憑性が芽生え始めた。

そして、最後に頭の髪型と髪の色が変わって、変身が終了する。


「黄色く輝くお日様の香りで心を照らす! ドキドキの戦士! イエローフレグランス!」

「青く爽快な涼しい風で心を清らかに! ブルーネイル!」

『貴方の鬱を晴らし! 希望を照らす! ドキドキの戦士! 参上!!』

(えええ!! マジな奴だ! これマジな奴だ!)


目の前には、女の子の憧れ、ニチアサ系美少女戦士が立っていた。

風美の興奮が収まらない中、それでも事態は進み続ける。


「待っていたわ〜、ドキドキの戦士〜どうやら一人増えたみたいね〜」


上空から、魔女の格好をした女性が降りてくる。


(見えた! 黒! エロい!)


風美からは、下着が丸見えであった。


「あの人は……」

『秘密結社ディプレッションの女幹部! キレーだッペ!』

「そうよ〜私こそが〜この世界で最も美しい存在〜女幹部のキレー様よ〜」

(確かに、初めて見る私でも分かる……キレーさんの美貌、顔立ち、そしてエロさ! なるほど、世界で最も美し……!? な! なんて事だ……キレー様の口元と目元に……小皺が!!)


風美は、見てはいけないものを見てしまった。


「キレー! これは貴方の仕業! 一体何をしたの!」

「ふふふ〜知りたい〜?」

(おおおっ恐らく光の反射や化粧の落ち具合で見えてしまったに違いない!! 降りて来た今なら見え……糞! 一度見えると気になってそればかり見えてしまう! さっ幸い、私しか小皺のことは知らなはず……私が黙っておけば誰にもバレないは……)

「そんなの! 私の魅了の力で操っているに決まってるじゃない!」

(何だって!!!)


先回りされた様な回答に、風美は動揺する。


「それだと女性はどうなるの? 男性ならまだしも女性は……」

(そうだ! 女性が女性に魅了されるわけない! ゲームでもそうだ! ありがとう西蓮寺か……)

「男も女も関係ないわ〜、女だって〜女のモデルとかに魅了されたりするでしょ〜」

(糞! グーの根も出ない正論を!)


キレーの説明を聞いて、風美は悔しそうに拳を握る。 

そして、すぐに考察へ入る。


(……だがそれだと辻褄が合う! 実際私は遅刻したせいかキレーさんに会っていない! そう考えれば私が操られていない説明が付く!)


風美は、一連の流れを整理して、状況を理解する。


「許せない! みんなを解放して!」

「それは出来ないわねえ〜」

(そしてもし操られていない事がバレれば再び魅了で操ろうとするだろう……だが、小皺を見つけてしまった私には魅了が通じない可能性がある、もしそのことがバレればこの世で最も美しいという肩書きのキレーさんのプライドを傷付けてしまう……それを回避するには! 操られたフリをするしかない!)


良子の心配を他所に、風美はキレーのプライドを守る事を考えていた。


「さ〜て〜、貴方達は罪の無い哀れな子達を倒せるかしらねえ〜」

「卑怯者め!」

「無様ね〜、おいきなさい!」

(見よ! 私の壊れ演技をー!)

『ああああ!!』

「うおおあっ!  !? ああああ!!」


風美は、呻き声を少し間違えたが、すぐに他の生徒や教師と同じ呻き声に合わして、ドキドキの戦士に襲い掛かる。

幸い、他の生徒や教師の呻き声が、うるさくてドキドキの戦士や妖精、そして幹部のキレーにも聞こえていない。


「そんな! どうすれば……」

「全く、メリップ!」

『わっ! 分かったップ!』


霧雨の指示を聞いて、メリップは密かに遠くへと距離をとる。


(妖精? の名前? 何するんだろ? 不思議な力で魅了を解くとか?)


当然、メリッブの姿を見えていない風美には、指示に対しての行動が分からない。


「フン!」

『がああああ!』

「え?」


霧雨は、襲いくる生徒や教師に向けて拳を突き出す。

それと同時に、風圧が発生し、生徒数名と教師1名が吹き飛ばされる。


「ちょっと! 霧雨さん!」

(大丈夫よ、吹き飛ばした生徒はメリップが守ってくれているわ……)

(西蓮寺さんの声が頭に……)

(念話よ、そんな事も知らないの?)


だが、念話が聞こえていない風美は、戦慄した。


(あっ、マジで殺る気だ……)


風美は、震え上がり後退りする。

実際は、メリップが吹き飛ばされた生徒を魔法の力で、保護しているが、風美はその状況を知らず、殺されるかもしれないという恐怖が、風美の視野を狭めていた。


「? 何だこいつ? 恐怖で洗脳が解けそうなのか? いやそんなはずは……」


キレーは、誰にも聞こえない様な声で独り言を漏らす。


「あわわわわわわ……」


キレーは、怯える風美を見て、違和感を持ち始めた。


「フン!」

『がああああ!』

(ヤバいヤバい近寄れない!! どうすれば! 何か打開策を!!)


必死に思考を巡らし、自身がどうすれば助かるか模索する。


「仕方ない、また水晶を使って再び洗の……」

(これだ!!)

「え? あ! ちょ!!」

「うおおおお!」

「「!!」」


風美は、近くに漂って来た水晶を鷲掴みにし、良子と霧雨へとおもいっきり投げつけた。


「! まさか飛び道具を!」

「西蓮寺さん危ない!」

「ああああ!!」


良子は、霧雨を庇う様に覆い被さる。

キレーは、蒼白させながら手を伸ばす。

風美は、息を切らしながら水晶を見つめる。

しかし、風美に投球コントロール能力は乏しく、投げた水晶は、あらぬ方向へと飛んでいき、そのまま地面に激突して二つに割れる。


「いやああああああ!!」

「「!?」」

(!?)


キレーは、絶叫する。

三人が、その声に驚き固まっていると、操られていた生徒や教師が徐々に倒れ始める。

風美は、状況を理解出来なかったが、反射的に一緒に倒れた。


「なるほど……そういう事ね」

(ドユ事!)

「皆を操っていたのは貴方の魅了ではなく、その水晶玉の魔力による洗脳ね!」

「ギク!!」

(えええ! 魅了じゃないのかよ! 小皺関係ないじゃん!!)


風美の不安が取り越し苦労である事に気付き、少しガッカリする。


「くそ! こんの女が!! コイツさえ水晶玉を投げなければ!」

「抜かったわね……行動出来るという事は何処かに意識は残っているという事、つまり私の取った行動により、残っていた意識が恐怖し、反射的に水晶玉を投げ付けた結果、割れた事になるわね」

(違います! 意識ありまくりでビビってました! 本当にすみません!!)


風美は、心の中で謝罪した。

悔しそうにしながら、キレーは手を翳すと、亜空間の様なものが現れた。


「今回はこれで勘弁してあげる、次はそうはいかないんだから!」


負け惜しみを言いながら、そのまま亜空間の中へと入って逃げた。


「ま! 待って!」

「深追いしないで、まずはこの状況をどうにかするのが先よ」

(流石西蓮寺会長……ドキドキの戦士としての意識が違う……)


追い掛けようとする良子を止めて、事態の収拾に努めようとする。

そんな姿を見て、風美は少し憧れの目を向ける。


「?」

「どうかしたの? 西蓮寺さん?」

「いや、誰かに見られた様な……気のせいか」


そして2人は、壊れた水晶玉を確認する。


「やはり、もう魔力の痕跡も辿れない……奴等も抜け目がない……この水晶玉を持って帰って調べられる?」

『どうだろう、分からないップー』


メリッブは、首を傾げながら悩む。

霧雨は、溜息を吐きながらも、割た破片事水晶玉を回収した。


(何だか分からないけど、キレーさんは水晶玉を回収しなかったんだ……なんでだろう……)

「でもなんで水晶玉を持って帰らなかったんだろう?」

(ナイス元木さん)


風美は、気になっていた疑問を良子が代わりに質問してくれた事に対して、ガッツポーズをする。


「恐らくカケラが位置を探られるのを防ぐためじゃないかしら? 半分が今ここにないのを見ると、回収するのは困難よ、それに魔力をがないという事は元から対策はしてあったという事よ……」

(よく分からないけどその考察でいいんじゃない?)


風美は、心の中で勝手に会話に混ざる。


「うーん……ここはどこ?」


すると、一人の生徒が目を覚ました。


(みっちゃん目覚めんの早!)


一番初めに目覚めたのは、美奈子であった。


「琴尾さん起き……!!」

「こ……琴尾さん……その顔……」

「かお?」

(あっ、落書き消してない……)


風美は、あまりの事態に、自身のした過ちわ忘れていた。


(どうしよう! 一体どうすれば!! 取り敢えず気絶したフリで誤魔化……)


気絶で乗り切ろうと考えるが、既に美奈子は手鏡で自身の顔を確認していた。


「ほう、なるほど……これ前にも見たぞ……ねえ、風美ちゃん」

「!!」


気絶したフリをし続けていたが、美奈子にはバレてしまう。


「え! 加瀬さん!? 気付いていたの?」

「……」

「おい、起きてんだろ! 返事しろ!」

「……!!」


良子と霧雨から疑いの目が向けられるが、風美にとってそれどころではなかった。

すぐさま立ち上がると、勢いよく室内へと逃走を図る。


「いやああああ!!」

「待てえええええ!!」


美奈子も負けじと、鬼の形相になりながら風美を追い掛ける。


「行っちゃった」

「まあ、後でいいでしょう」


二人は、仕方なさそうに見送った。

風美は、美奈子にすぐ捕まり拳骨を喰らった。


事件後、生徒や教師が次々と目を覚ましていき、今回起こった事件に対しての対応する為、職員会議が開かれ、生徒達は教室で軽い終業式を終えて、帰宅する事となった。


「加瀬さん、少し良いかしら?」

「? はい?」


当然風美も帰ろうとするが、霧雨に呼び止められる。


「えっと? 西蓮寺会長? 何でしょうか?」

(さっきの事かな? 緊張するな……)

「そう緊張する事ないわ……少し確認したい事があって、これは見えているかしら?」

『メリッブ!』

「? えっと……これとは?」


霧雨は、メリッブを持って風美に見せるが、当然メリッブの姿の見えない風美には、何が何だか分からなかった。


「……」

「えっと……じっと見られると怖いんですが……」


霧雨は、観察する様に風美の様子を見るが、嘘を付いている様には見えなかった。


「ありがとう、もういいわ」

「え! 何ですか! 私何かしちゃいました!?」

「いいえ、こちらの話なの……忘れて貰えると助かるわ」

「ええ……」


風美は、釈然としなかった。


「やっぱり見えていないか……だったら私の思い過ごし?」


しかし、最後に聞こえた霧雨の独り言で理解した。


(もしかして美少女戦士系の妖精でも見せてた? ああ、そういう事か……でも間違った事は言ってないし……いいか)


風美自身、嘘は言っていないと考え、それ以上確認せずに学校を出る。


「ん? 何だこれ? ……あ、半分に割れた水晶玉か! ……こんなところまで落ちてたのか……危ない……これ私の指紋とかあるよね……まさか不法投棄に……それ以上も……うん! 拾っておこう!! そして後で処分すれば!!」


そのまま、割れた水晶を鞄に入れて、校門を出ると文雄が待っていた。

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