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目撃証言4『真実①』

朝食は取らずに、家を出て鍵を閉めると走り出す。


「やべええ!」

「遅刻する!」


必死に走り二人は何とか遅刻を回避しようとする。

実際、風美の中学校は、走れば5分、文雄の高校は、走れば7分で到着出来る。

二人共、8時30分までに到着すれば、遅刻を回避出来るのである。

当然、5分前に風美は中学校へと到着した。


「兄さんお先〜!」

「チクショー!」


風美は、到着した事により余裕が出来たのか、したり顔で少し小走りになる。

一方、文雄は未だ必死に走り続けている。

文雄が、高校に到着したのは8時27分であった。

しかし、問題が発生した。


「はいダメー!」


校門は、角刈りのジャージ姿の男体育教師であり、生徒指導の松井によって閉められてしまった。


「ちょ! 先生! まだ後3分あるでしょう!」

「ふん、社会人になったら10分前行動は当たり前だぞ? そんなことも知らないのか?」


松井は、文雄にマウントを取りながら嘲笑う。


「俺まだ学生だぞ! てか先生以前不良生徒の遅刻見逃してましたよね! そんなんアリですか!」

「証拠あんのか? そんなただの言いがかりをつけるなら内申点も下げなきゃな!」

「はああー!!」


唖然とする文雄を無視して、松井はその場を立ち去る。

しかし、文雄を苛立ちはしたが、そんなことをしている場合でもなかった。


「仕方ない……よじ登るか」


何とか鉄格子を掴んで、自身の体を引き上げて、出っ張りに足を乗せて何とか上まで登った。


「ウギギギギー……もうずごじー……」


顔を真っ赤にさせて門の先を掴んで何とか校舎側へと入った。

後は降りるだけとなり、慎重に先程の出っ張りに足を置いた。


「コラー! 何をしとるかー!」


しかし、用務員のおじさんに見つかり、鬼の形相で怒鳴る。


「ヤベッ!」


文雄は、慌てて門から降りて逃げようとした。

しかし、その時であった。


「うえ……」


突如、文雄の意識は飛んだ。

そして、そのまま門から手を放してしまい、後頭部を地面にぶつける。


「ゔべえ!」


それと同時に、文雄の意識は覚醒した。


「いっでえええええ! 何だ! 糞!」


頭を押さえながらのたうち回る。


「はあはあ、痛あ〜」


ようやく痛みが引いて来て、頭を上げる事が出来た。


「? 何だ? 空が赤いような?」


しかし、風景は既にいつもとは違う光景となっていた。


「あ! 用務員に怒られる? ん?」

「……」


しかし、用務員のおじさんは、意識を失い、倒れていた。


「あ……ああ……ラッキー! 今のうちに教室に行っとこ!」


文雄は、用務員のおじさんを気にせずに、校舎に向かった。

未だ情景は、赤く染まったままだ。

だが、多少気になるだけの状況に関して文雄は、気に留める性格ではない。

校舎に入り、靴を上履きに履き替える。

そのまま廊下を進んでいた時であった。

いきなり目の前の窓を突き破りながら、凛が木刀を構えて現れた。


「!!」

「糞! ラグナめ!」

『グルルルル!』


唸りを上げる獣の形をした瘴気を纏った化け物が、凛に襲い掛かっていた。

この生物こそが、ラグナロクが生み出した魔力生物ラグナである。

身体は、魔力のみで形成されており、普通の武器では攻撃を当てるどころか、防御する事すら叶わない。

前世の世界では、インテンションウェポンによる攻撃のみ、ラグナを滅ぼす事が出来た。

そして、何より厄介なのが、魔力を可視化する術のない者には、目視不可能な生物であり、何が起こっているのか、理解出来ないまま喰われる者もいる。

当然、文雄にはラグナの姿は見えていない。


『グワアア!』

「はあ!!」


その結果、文雄の目には、ただ一人で木刀を振り回している凛の姿しか映っていなかった。


(なんて事だ……五十嵐さんがここまで重症だったとは……)


文雄は、凛を同情的な目で見ていた。

命懸けで戦っている凛の姿も、文雄からすれば、痛々しい状況である。


(見なかった事にしよう……そうだ……俺は何も見てないぞ)


しかし文雄はそう考えるも、近くにあった廊下の柱に隠れながら、観戦を続ける。


(とは言ったものの……気になる……どうせ松井に俺が遅刻したとか言われたら無駄かもだし……)


完全に遅刻を受け入れて、凛の様子を最後まで観察する事にした。


『グラアア!!』

「ぐぐ! ぐあああ!!」


ナギで、ラグナの攻撃を防いでいたが、力負けをしてしまい、そのまま突き飛ばされる。


(うわ痛そう……ここまで本格的にするとは……流石は五十嵐さんだ……俺のように中途半端な厨二病とは訳が違う)

「五十嵐さん!」


凛の厨二病に対して、感心していると、恵斗が、割れた窓ガラスを跨いで、凛に駆け寄る。


「大丈夫か!」

「すまない……私の事はいい……早く逃げてくれ……」

「五十嵐さんを置いて行くなんて! そんな事出来る訳ないだろう!」

(うん、迫真の演技……90点かな? そこは置いて逃げるなんてって言って欲しかったな)


文雄は、勝手な評価を付け、セリフに対してケチを付ける。


『はははは! 仲間の友情とは! 泣かせてくれるじゃないか!』


すると、何処からともなく、ノイズの効いた様な声が聞こえる。

足音と共に、窓の外側からシルクハットを被り、オーバーコートを着た仮面の男が現れた。


「貴様は!!」

「よせ……恵斗……今の貴方では勝てない……」

(なんか出た……)


突如出て来た謎の男に、文雄は淡白な言葉しか浮かばなかった。


「よくも五十嵐さんを!」

『ラザエル・フォン・パラディン、以前の世界では名の知れた英雄だったが、記憶がなければ無様なものだ』

(お前のそのコテコテな怪しい格好もなかなか無様だぞ?)


シリアスな展開にも関わらず、文雄は心の中で仮面の男を中傷する。


『さて、貴様等は今からラグナに喰われて死ぬが、何か言い残す事はないか?』

「やめろ……恵斗逃げろ……逃げて……」

「大丈夫……五十嵐さんは俺が守るから……」

「恵斗……」

(はいはい、かっこいいかっこいい)


文雄は、震える手を押さえながら、凛の手をしっかり握り、恐怖を乗り越え勇敢に立ち向かおうと覚悟する恵斗を嘲る。


『はははは! 貴様に何か出来る! 前世の記憶もなければインテンションウェポンの力も碌に発揮出来ない無力なお前が!』

「それでも! 俺を守ろうとした五十嵐さんを見捨てる程! 俺は薄情な人間じゃない! 引く訳にはいかないんだ! それに! 例えラグナに敵わなくたってお前さえ倒せば!!」

「ダメだ……例え奴を倒しても結界を解除しない限りラグナは倒せない……それに……奴を倒せばラグナは主人を殺された本能で私達も……」

「そんな! くそおお……一体どうすれば……」


諦めようとしない恵斗に、仮面の男は苛立ちを覚える。


『ならば絶望を見せよう! 貴様等がどれほど無力であるかを実感させるためにな!』


すると、先程仮面の男が窓からラグナが、一人の男を咥えて現れる。


「あれは……」

「松井先生……」

(松井が浮いてるだと……スゲエ! 浮遊マジックだ!!)


文雄は、興奮しながら咥えられている松井を見る。


「貴様! 何をするつもりだ!!」

『フン、今からお前等が味わう苦痛を見せるのさ……』

「何だと……まさか!! 止めろ!!」

(てか! まさか松井も絡んでいるのか! 本物のマジシャンに浮遊マジックして貰う為に門を閉めて俺を遅刻にしたというのか? ふざけんなよ! そんな下らねえ理由で俺を遅刻させようとは! 死ね! 松井!! お前なんか死んでしまえ!!)

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


文雄が松井に対して、心の中で暴言を吐いている中、恵斗は手を伸ばしながら叫ぶ。

しかし、時は既に遅く、松井の上半身はラグナによって喰い千切られてしまった。

松井の下半身だけが、地面に鈍い音を立てながら落ちる。

地面には、松井の大量の血で溢れる。


「ああ……ああああ」

「貴様……なんてことを……」

(え? あれ? マジで死んでね? これ? 嘘! え!)

目の前で人死を目撃した事により、流石の文雄も、現状を理解し始めた。

『フハハハハハハ! 絶望しろ! 貴様には何も守れない! 何も救えない! 己の無力さを痛感しろ!』


煽り散らす仮面男に、恵斗の怒りは爆発した。


「許さない……許さなあああああああああい!!」

『何! バカな!』

「恵斗……魔力が……」

「ぶぶぶぶっぱああああああ!」


そして、怒りと同時に恵斗の魔力が溢れ出た。

そして、魔力が解放された影響により、風圧が発生し、文雄は風圧に押されて尻餅を付く。


「な……何だこれ……」

『我を呼び覚ましたのは貴様か……転生したとはいえ簡単に我を御せるとは思うなよ』


文雄は、顔を上げて前を見ると、隠れていた柱が少し壊されていた。

文雄は、柱に隠れていたお陰で風圧の直撃を避ける事が出来た事と風圧に抵抗する事なく、仰け反る事が出来た為、尻がジンジンと痛むだけで済んだ。


「あっ……あ……あっ」


あまりの出来事に、一時的に放心状態になる文雄ではあったが、すぐに我に返りその場を離れ始める。


「これは……夢か? そうだ夢だ! 昨日あんなのを見たせいで悪い夢を見てるんだ!」


そんな事を考えながら、頬を抓る。


「目覚めない……ベタな方法じゃダメなのか?」


そして、色々考えながら歩いていると自販機を見つける。


「そうだ、炭酸系の飲みもんでも飲めば頭が冴えるかもな……」


そして、財布から500円を出して、コイン投入口に入れようとしたが、流石に動揺していたせいか、自販機の下に落とした。


「あ、やば!」


仕方なさそうに、500円を取り出そうとして這いつくばりながら自販機の下に手を伸ばして、取ろうとする。


「う〜ん……チクショー……! 取れねぇ! なんか手の甲になんか当たる!」


イライラしながら、皮膚に触れるものが気になり始めた。


「あああ! 何だよ! 紙!? あ! そうか! これ使えば……」


文雄は、思い付いたように自販機に貼られているであろう紙を勝手に剥がす。


「これを少し曲げて……」


紙を円状にして、500円玉を取るよう為、紙を刷るように擦るようにして取り出した。


「よし! 取れた……? 何だこの紙? 札?」


文雄が剥がした紙は、紋様が描かれたお札の様なものであった。


「? まあいいか……あれ? 空が……」


文雄が、空を見ると先程まで赤くなっていた空が、いつもの色に戻っていた。


『糞! どういう事だ!』

「??」


文雄は、先程の仮面の男の悲鳴の様な声を聞いて、首を傾げる。


「何だ? 何かあったのか?」


何となく気になり、札を鞄に入れて、先程の来た道を引き返す。


「なんだ……ラグナがいきなり……消えた……」

「どうやら結界が解けたようだ……」

『有り得ない! 結界札が剥がされない限り! 結界は消えないはずだ! それに例え剥がされたとしても再び私の魔力で貼り直せばさっきのラグナも現れて……』

「そんな事……させると思うか?」

「五十嵐さん! 大丈夫なのか!」

「問題ない、もう回復した」

『くっ!』

(結界札……これか!)


文雄は、自身の鞄に入れた札を見て驚愕する。

文雄は、自覚なく相手の優位を奪っていた。


「形勢逆転だな……確かに今の恵斗には覚醒してもあれだけの数のラグナを倒し切る事は難しかっただろう……だが今は違う!」

「お前一人だ! 覚悟しろ!」

『……一時撤退する……覚えていろ!』

「待て! 逃げるな!」


恵斗は、追い掛けるが、仮面男は亜空間へと消えた。

文雄は、最早信じる他なかった。

目の前には、ボロボロになった凛と恵斗、上半身を喰われた松井、そして、背景が戻っても、壊れたままの柱、今一度夢かと思い頬を抓っても覚めない夢。

それ等全ての事柄が、文雄に今起こった事全てが現実であると確信させていた。


「えええ……嘘〜」


釈然としない状態ではあったが、自身の世界が、今後どうなるか流石に気になってしまい、文雄は話を盗み聞きする。


「五十嵐さん、君が前世で俺の騎士だったのは昨日聞いたから知っているけど……どうしてここまでして俺を守ろうとするんだ? きっとそれだけじゃないんだろ?」

「……」


凛は少し黙った後、語り始めた。


「私は……恵斗……貴方に救われたんだ」

「俺が……五十嵐さんを?」

(あーはいはい訳あり系ね、分かります、ハーレムではよくありますよね、はい)


文雄は、よくあるハーレム展開に、うんざりする。


「私は前世、恵斗……いやラザエル様に仕える前は、暗殺者一族の一人だった」

「暗殺者……五十嵐さんが……」

「ああ、名前はクロだった……その時からナギとは一緒でラザエル様の国の要人を暗殺した事もある、そして私はある任務に着き、そこで君と会い敗北した」

「俺が……五十嵐さんに……とてもじゃないけど信じられない……今じゃ手も足も出ないのに……」

「記憶を失っているからな……だがそれで私は郷から追い出されることとなり行き場を失っていた」

「それで拾ったのが……」

「そう、前世の恵斗、ラザエル様だ」


凛の話を聞いて、恵斗は少し気まずくなる。


「そっ、そうだったんだな……その……いつも守ってくれて……五十嵐さんがいなければ俺は普通の暮らしすらままならなかった訳だ」


しんみりとした雰囲気になりながら、二人はいつの間にか手を握り合っていた。

しかし、二人の顔が赤くなると、すぐに手を放した。


「ほっ! 保健室行こうか!」

「そ! そうだな!」


二人が、保健室に行くのを見届けて、文雄は嫉妬する。


「チッ! ウゼッ! 五十嵐さんとイチャイチャしやがって……奥山の奴、後ろから刺してやろうかな……」


文雄は、怒りの余り、鞄から鋏を取り出そうとした。


「……」


しかし、すぐに風美の顔が浮かぶと、鞄からハサミを取り出すのを止めた。


「チッ! 命拾いしたな!」


そして、負け惜しみを言いなながら自身の教室に向い始める。

しかし、ある事を思い出した。


「あ、松井死んでるんだった……っていいか、俺あいつ嫌いだし、あいつの人生とか興味もない……人死の件は……奥山もしくは五十嵐さんが何とかしてくれるだろ……うん! 関係ないかんけいない!」


そんな冷たい言葉を残して、松井の死体を放置して、血に濡れない様にその場を後にした。

異変が終わった後、文雄は、自分の席にしれっと座り、遅刻を誤魔化した。

遅刻を知っている松井は死に、警備の人も気絶していた為、文雄の行動をよく覚えていなかった。

しかし、死者と柱の損傷という問題発生の為、終業式は、各教室にて簡単な行われ、夏休みへと移行するのであった。

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