目撃証言32『気色悪さ』
「という訳で……俺はずっと縛られて熱中症や日射病になりかけたんだ! 労わって!」
「無理! 臭いからサッサと風呂入れ!」
文雄は、風美に自分の不幸を語る事で、自分に優しくして欲しいと云わんばかりに甘える。
しかし、風美はイヤそうにしながら、鼻を摘まみながら風呂場に指さす。
「うう……うわああん!」
「あ、回覧板あるんだった! これと届けてからお風呂入って!」
「わああああああああ!!」
更には、回覧板を手に取って、文雄に仕事を頼む。
文雄は、泣きながら仕方なく、回覧板の次の人の名前を見る。
「デコウス……」
いつの間にか、加瀬家の隣に住んでいた。
「あのまま住む気なのかよ……」
泣きそうになりながら、再び文雄はデコウスのいる部屋へと向かった。
「嫌だなあ……さっき会ったからまた縛られるのかなあ……そして放置されるのかなあ……嫌だなあ」
震えながら、デコウス達の部屋のチャイムを鳴らす。
『ピンポーン』
そして、出て来たのは少女であった。
「!! お兄ちゃん……」
「ぐへへへへ、回覧板だおお」
文雄は、下卑た目で少女を舐め回すように眺めながら、回覧板を渡す。
「ヒイ!! はい……」
半泣きになりながら、少女は回覧板を受け取ろうとする。
「ひゃん!」
「キャアア!!」
しかし、少女が回覧板を受け取ろうとすると、文雄は顔を赤くしながら変な声を上げる。
「な……何ですか……」
「触れ合ったね……」
「え……うぇえええ!! あああああああ!!」
回覧板を受け取る時、少女の手は、文雄の手に少し当たったのであった。
少女は、顔を真っ青にしながら泣きじゃくり、そのまま部屋に急いで入って行った。
「ふう……今まで虐待を見ては見て見ぬふりをしていたけど……なかなか可愛いじゃないか……うへへへ」
文雄は、気持ちの悪い顔で笑いながら、自身の部屋に戻った。
「兄さん……」
「風美……」
「キモいよ……」
「てへ」
「流石だぜ……メンタル面の強さ……更に変態性の力……どれをとっても悪役でもなく主人公でもない、ヒロインをも殺し兼ねない厄介キャラ! ある意味尊敬できるよ」
風美に取って、文雄の気色悪さは、最早芸術の域であった。
「まあいいや……取り敢えず風呂に入ってよ、食事は私が作るから」
「おお! 頼むぜ!」
そして、風美は料理の用意をしながら小声で呟く。
「まあ……兄さんはああでなくちゃね……」