目撃証言3『報告会』
家の鍵を開けて、炊けているご飯を装い、風美がお味噌汁を作っている間に、文雄は冷蔵庫に入っていた野菜切り、魚を焼いて、机に置いた。
「「いただきます」」
二人は、食事をとりながら、互いに目撃した事を報告する。
「なるほど、いつもの事ながら、またとんでもない目撃をしたものだ」
「まあ兄さんが保育園時代に目撃した不倫現場に比べれば大したことないけど……やっぱり私と兄さんだけで共有するだけで留めよう……」
「そうだな……どうして他人に言いたくなるのかは分からないが、俺達以外に共有しようとすれば不幸を生む……保育園時代のミスはもうしないようにする……だからせめて俺達で共有する事で人に言いたくなる性を抑えようじゃないか……」
「そうだね兄さん……どうして人に言いたくなるのか分からないけど兄さんに言えば少しはマシになるし……そうしよう……」
二人は、自身が目撃した秘密を共有した後、食事を続ける。
そして、食事を終えると、交代でお風呂に入り、その後お茶を飲みながら一息吐く。
「「ふー」」
文雄は、伸びをしながら再び話し始める。
「それにしても……兄妹揃って厨二病を目撃するとは……因果だねえ」
「しかも男の兄さんはラノベ系、女の私はニチアサ美少女戦士系って、患ってた頃の自分を見せられた気分だよね……とはいえ、その人達にも人気者故の苦労があるんじゃない?」
「そうか、五十嵐さんは疲れてたのかあー、それで奥山も気を遣って乗ってたのかなあ、いや、あれは本気の目だった、俺には分かる、何もないからこそ魅せられた現実逃避と疲れ故に魅せられた現実逃避……皮肉なものだ」
二人は、同級生に対して、同情的感情を抱いた。
二人はお茶を啜り、しばらく物思いに耽っていた。
「さて、話は終わろう、……で? どうする? 明日終業式だしもう寝る?」
文雄の提案に対して、風美は怪訝な表情を浮かべる。
「兄さん本気で言ってる? 外のあれで眠れると思う?」
『ギャハハハハハハ!!』
『マジかよウケる!!』
ベランダの方から、品のない笑い声と雑談が大きく響いていた。
「チッ、不良共が……うっせえなあ」
「警察に言ってもちょっと注意するだけで後は放置だもんねー、嫌になっちゃうよ」
二人は、溜息を吐きながら愚痴る。
「まあそういう訳で兄さん、明日終われば夏休みだし夏らしい事を先んじてみようよ!」
「夏らしいと言えば? 花火はアイツ等と鉢合わせるから無理だぞ」
「チッチッチッ、分かってないねえ、兄さんは……やるならこれでしょ」
風美は、近くにあったゲームソフトを手に取った。
「おまえ……それホラーゲーム……嫌だ……」
「だからだよ〜さあ一人用だから兄さんがプレイしてえ〜私見てるから〜さて、兄さんの悲鳴と外の不良の笑い声、どっちがデカいかな?」
「あわわわわわわわわ」
文雄は、悲鳴を上げながら、ホラーゲームをプレイする。
しかも、風美が暗い方が、雰囲気が出ると言って電気を切った状態での操作と画面自体が暗いという仕様が、文雄を更なる恐怖へと誘った。
「ひひいあい!!」
「プクククク……」
文雄の悲鳴に、風美は笑い声を抑える。
『キイイイイイ』
「ヒギャアアア!」
「あははは! ほら兄さん頑張って! 後ろから来てるよ!」
「へ?」
『どごがらばいっだ゛あ゛あ!!』
「ヒイイイイイ!!」
そして、文雄は、初めのステージで20回はゲームオーバーになった頃には、既に頭を押さえ、蹲りながら震えていた。
「ぷはははははは!! 兄さんんんはははははは!」
風美の笑い声を聞きながら、文雄は涙目で訴える。
「もう寝る!」
「はいはい……くふふふふ、布団敷いてあげるから機嫌直して……ぷふふふ」
笑いながらも、二人分の布団を敷くと文雄は一目散に布団を被って震えた。
「プクククク」
風美は、寝るまで終始笑っていた。
7月20日AM2時00分頃
風美は誰かに揺らされて起こされた。
「ううう、兄さん何?」
起こしたのは、文雄であった。
眠そうに目を掻きながら、話を聞く。
「トイレ……付いてきて……」
文雄は、声を振るわせながら、風美に付き添いを頼む。
「え……ああ……うん……はい」
ホラーゲームをやらせ過ぎたせいで、文雄は一人でトイレに行けなくなっていた。
さすがに責任を感じた風美は、自分より2歳年上の兄の手を引きながらトイレへと連れて行った。
文雄は、涙ぐみながらトイレに入ろうとしながら風美を見る。
「どっかいかないでね」
「……うん」
風美は、そんな情けない兄の姿を見て、流石に悲しくなってしまった。
「いるよな……いるよな?」
「うん……いるよ」
泣きそうな声で、何度も何度も声を掛ける文雄の声に適当に返事をしながらドアに靠れながら眠そうにする。
深夜の時間に、何度も同じ返答を繰り返していると、余計に眠気が襲ってくる。
「うん……いる……」
言葉数が少なくなっていき、ドアに靠れたまま徐々に地面へ落ちていき、風美は眠ってしまった。
「おい! 開かないぞ!! おい! 風美!」
何度もドアを叩くが、風美は熟睡してしまっていた。
「あげでぐれえええええ!!」
泣きじゃくりながら何度も声を掛けたが、やがて文雄も泣き疲れて眠った。
7月20日AM8時15分
ようやく風美は目が覚めた。
「うぇ! あれ……わだじ何で?」
口元の涎を腕で拭い、状況を確認する。
風美は、自身がトイレに靠れながら寝ていた事に気付いた。
「そうか、私兄さんのトイレに……あ!」
風美は、寝床を確認すると文雄の姿はなかった。
そして、視線はトイレへと移り、恐る恐る開けてみると目を晴らした文雄が、涎を垂らしながら寝ていた。
「兄さん! 起きて! 兄さん!」
「うぇ!」
風美に、揺さぶられて目を覚ます。
「いまなんじ?」
風美は、その言葉を聞いてギョッとしながら、近くの時計を見ると、既に8時20分を回っていた。
「な!!」
「? おいどう……な!」
文雄も、風美の視線を見て変な声が出る。
「「ヤバい! 遅刻する!!」」
そして、二人は慌てて服を着替えた。