目撃証言2『加瀬風美の目撃証言』
時は戻り、数分前の事である。
風美は、自分より少し遠い高校に向かっている文雄と帰る時間を合わせる為、歩いて教室に歩いて向かっていた。
(フッフッフッー! なんて優しい私! 兄想いココにありだね!)
風美は、心の中で自画自賛している間に、教室へと到着した。
ドアが開いていたので、そのまま教室の中へ入ると、そこには胸は控えめだが、金髪のお団子の髪型の少女が立っていた。
(あれは……元木さんだよね? 確かクラス内美人ランキング1位の……元気が取り柄な子……)
彼女の名前は、元木 良子三田中学2年生の活発な女の子で、得意科目が体育、正義感が強く、困っている者を助け、人の笑顔が好きな心優しい女の子、落ち込んでる生徒が居れば励ますなど他の生徒や教師からも好かれており、少し天然なところがある。
風美は、声を掛けようと近付こうとした。
「ここなら誰もいないよ! プリッペ!」
(プリッペ? 犬でも連れ込んだのかな?)
良子は、カバンを開けるとそこからマスコットのような妖精のような生き物が飛び出した。
『ふー! 苦しかったッペー』
「ごめんねプリッペ、大丈夫だった?」
「はわ……」
「? 誰かいるの?」
良子は、風美の小さな声に気付いて、後ろを振り返る。
風美は、良子に見られる前に、近くにあった教卓の下へと隠れた。
「誰もいない、気のせいかな?」
『どうしたッペ?』
「うんうん! 何でもない!」
良子は、昨日このプリッペと呼ばれる妖精を見つけていた。
プリッペは、ボロボロの姿でアスファルトの上で気を失っていたのであった。
心配した良子は、放置する事が出来ず、家に連れて帰り、お風呂で洗って上げて、綺麗な毛布で包んで休ませて上げた。
しかし、次の日になっても目を覚まさず、家に置いていく訳にもいかず、学校の鞄に丁寧に入れていた。
しかし、部活を終えた後、友人と一緒に家に帰っている途中で目を覚まし、鞄から飛び出て自身をプリッペと名乗った。
幸い、プリッペの姿は友人にも見えておらず、学校近くで目を覚ました為、友人には忘れ物をしたと言ってすぐに教室に戻り、現在に至るのであった。
しかし、良子とプリッペの会話を目撃していた風美には、プリッペの声どころか姿も見えていなかった。
その為、ただ空に向かって話し掛けている良子の姿しか映っていなかった。
当然、そんな光景を目撃した風美が考える事は一つだけであった。
(知らなかった……元木さんがイマジナリーフレンドと会話する人だったなんて……)
夕方の教室に一人の少女が、空に向かって楽しそうに話し掛けるとなると大体の人が、イマジナリーフレンドと話していると考える。
『僕はドキドキの国から来たんだッペ!』
「へえ、そうなんだ! よろしくね!」
(友達に恵まれて、人気者の元木さんがどうして……とても明るくて良い子なのに……いや、寧ろそういう人程、心休まる時が必要なのかもしれない……クラス内美人ランキング1位である重圧が圧し掛かっているのだろう……私だってクラス内美人ランキング7位といういつ順位が二桁になるのかという重圧がある……そんな彼女だからこそイマジナリーフレンドは必要なのかもしれない……)
風美はただ一人で、勝手に納得していた。
そんな勝手な同情をされている事を知らず、良子はプリッペの話を聞いていた。
『今ドキドキの国は、秘密結社ディプレッションという組織に侵略されたんだッペ!』
「そんな! どうしてそんなことを!」
(? 何? 喧嘩?)
『奴等は僕らのドキドキの国からドキドキの源であるドキドキの実を奪って、世界を鬱だらけにして支配しようしているッペ!』
「世界を鬱だらけに! 大変! 何とかしなくちゃ!」
(なんでイマジナリーフレンドと暗い話してるの!? そんなのWHOに任せればいいのに……)
不穏な話をしているのであろうと、想像しながら風美は少し戸惑う。
『それで僕はこの日本にやってきてドキドキの戦士となる少女を探しに来たんだっペ! そして、僕が見える君ならドキドキの戦士の素質があるッペ!』
「私が……世界の為に……ドキドキの戦士に……」
(ドキドキの戦士? え? 何……? イマジナリーフレンドと何の話してるの?)
風美は、聞きなれない単語が出てきて、困惑する。
しかし、プリッペと良子にとっては至って真面目は話であった。
『そうだッペ! 元木良子! 君はドキドキの戦士となって秘密結社ディプレッションと戦って欲しいんだッペ! そしてドキドキの実を取り戻して欲しいんだッペ!!』
「……分かったよ……プリッペ……これは私に課せられた使命なんだね……」
(? え? どういうこと? イマジナリーフレンドじゃないの? ドキドキの戦士? 使命? ……あ、もしかしてこれって……)
風美は、良子の一人会話を聞いて察した。
「分かった! 私! ドキドキの戦士になる!」
『ありがとうッペ!』
(ニチアサ美少女戦士系厨二病だ……)
風美は、ある意味では正しく勘付いた。
(そうか、ニチアサ美少女戦士系か〜、元木さん子供っぽいところあるからなあ……私も小学生の6年まで憧れてたよ……兄さんの闇的な厨二病と私の光的な厨二病で、会話自体フィーリングが合ってたから治るのに時間が掛かったけど……途中で二人共苦笑するようになって止めたなあ)
風美は、懐かしむように思い出しながら良子を微笑ましそうに見る。
「貴方、まさかドキドキの戦士なるつもり……」
すると、ドアの方から綺麗な長い髪を靡かせながら、鋭い目付きのスレンダーな少女が、妖精と共に現れた。
当然、風美には、その妖精の姿が見えていない。
「貴方は……西蓮寺さん?」
(うわ! 西蓮寺霧雨会長だ! 凄い綺麗! ヤバい! 隠れているけどこんな近くで見れるなんて! 声凛々し!)
彼女の名前は西蓮寺 霧雨、三田中学3年生の生徒会長であり、品行方正、容姿端麗、正義感も高い、誰もが憧れる学校一の美人と呼ばれる、クラス内7位を必死で守るような風美では、逆立しても対等になれない存在である。
風美は、興奮しながら二人の様子を見ていた。
(どうして西連寺会長が……まさか! ドキドキの戦士になるのって聞いていたし……そんなバカな事は言っていないで勉学に励みなさいとでも言うつもり! ダメ! ダメですよそれは!! いくら生徒会長でも言って良い事と悪い事が!)
まだ、霧雨が何も言っていないにも関わらず、風美は責めるように霧雨の言動を心の中で止めようとした。
「まさか……西連寺さんもドキドキの戦士なの!!」
(元木さんも元木さんで何を言っているの! そんなの西連寺会長がノってくれる訳……)
元木の言葉は、風美には霧雨を無理矢理自分の空間に巻き込もうとしているように見え、焦り出していた。
「言っておくけど……貴方に務まる程、ドキドキの戦士は甘いものではないわ」
(ノってくれたああああ!!)
風美にはプリッペの姿が見えていない為、霧雨の近くに浮いている妖精に気付けず、態々良子に付き合って上げている霧雨の姿にしか見えていなかった。
『霧雨ちゃん、あまり厳しい事言っちゃダメだよップ〜』
「貴方は黙ってなさい!!」
霧雨は、妖精に対して睨みながら黙らせる。
(誰も何も言ってませんが!?)
しかし、風美には霧雨が突然怒り出したように見え、ツッコミを入れてしまう。
「西蓮寺さん……それはどういう……」
「! ……」
霧雨は、何処か心配そうにさながら、良子から目を背ける。
(西蓮寺会長……まさか……)
風美は、何かに気付いたように涙を浮かべる。
(妖精さんが見える設定で話してくれているんですか……さっきの言葉は自身にも妖精がいる設定で元木さんが考える状況推測した上で発したのですか……あくまで元木さんの夢を壊さないように……)
風美は、感動のあまり目元から一筋の涙が溢れる。
「とにかく、貴方にドキドキの戦士は向いていないわ……分かったなら全て忘れていつもの日常に戻りなさい」
(!! なんて上手い誘導だ! 相手の厨二病自体を否定せず、敢えて同じ土俵に立ち、その上で意味深な冷たい表情と戦士の厳しさを伝えた上での否定! これなら流石の元木さんも……)
「西連寺さん、ありがとう……でも私! やっぱりドキドキの戦士になる!」
(元木さんんん~)
風美は、悔しそうにしながら頭を抱える。
『良子! ありがとうッペ!!』
『こう言っているし! 認めて上げようップ!』
「はあ、分かったわ……なら勝手にしなさい」
(ああ……西連寺会長が諦めてしまった……元木さんのニチアサ美少女戦士系厨二病の意思の方が強かったか……)
少し悔しい気持ちを噛み締めながら、風美は教卓で蹲る事しか出来なかった。
『じゃあ契約だっペ! 他の人に見られないようにお家でするっぺ!』
「うん! よろしくね! プリッペ!」
そして良子は、プリッペと契約する為、そのまま帰宅した。
やっと、誰も居なくなった教室を見ると、風美は教卓の中から出て来た。
「はあ、とんでもない光景を目撃してしまった……」
風美は、少し疲れた様子で自身の机の中を確認した。
中には、リコーダーが入っており、吹口部分を確かめる為、ケースから取り出して匂う。
「うん、誰も舐めてない……いつもチェックしている口臭の匂いも私のだ」
風美は、リコーダーをケースに入れて、鞄の中に放り込んだ。
「さて帰るか、今何時だろ?」
スマホの時計を確認すると、時間は17時55分を回っていた。
「まあメッセージ来てないし、兄さんもまだ来てないかもだからゆっくり帰ろ」
そして、風美はゆっくり歩いて、校門まで向かった。
校門から出るとそこには汗だくで息の荒い文雄が立っていた。
「はあはあはあ……風美〜……お前も今〜」
風美は、反射的に、防犯ブザーの紐を指を掛ける。
「いや待て待て! 何をする気だ!」
「いや、変態みたいな声の掛け方だったからつい」
風美は、苦笑しながら紐から指を抜く。
文雄も、その間に息を整えてから尋ねる。
「お前もこの時間?」
「今来たって事は兄さんも?」
お互いに見合いながら、溜息を吐く。
「まあ、話は家に帰ってからだな」
「そうね」
その会話を最後に、二人は家に着くまで、敢えて一切の会話をせずに帰路へ着く。




