目撃証言19『目撃証言:ヴィラン化』
文雄は、皆が離れたのを確認してから更衣室に入った。
「はあ……やっと鞄を取れた……皆待ってるし急……これって……札? あ! そうだ! 俺鞄に入れたまま……うーん……ま! ここで捨ててもいいか!」
文雄は、処分し忘れていた札を片手に自販機へ向おうと更衣室を出た瞬間だった。
「どけえ!!」
「うげええ!」
プールから避難する客の一人に押し退けられた。
そして、持っていた札を放し、後ろの壁に後頭部を思いっきりぶつけて気絶した。
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「皆様! 確認が終わるまで! ここで待機していてください!」
「マジかよ……」
「大丈夫なの??」
プールに来ていた客は、不安そうにしながら入り口前で点検の終了を待つ。
「まさかこんな事になるなんてねえ……元木さん、西連寺会長、えっと……矢見さん?」
「え! そっそうだね!」
「きっと大丈夫よ……もう不安な事なんて何もない……」
「そうね……」
(うん……元木さんはもっと嘘を上手くなろうか!)
質問への回答が、絶望的に下手な良子を、風美は心配する。
「そ! そう言えばお兄さん大丈夫かな!」
「兄さんは今頃ジュースでも買ってるんじゃない?」
「さっき逃げてるって言ってなかったっけ!!」
「大丈夫でしょ……」
「この妹さん……お兄さんに冷たすぎない?」
「私のこれは信頼関係からなる回答だよ」
「……そう……仲が良いのね」
黒子は、少し羨ましそうにしながら風美を見る。
「どうかしました?」
「いえ……何でもないですわ……」
風美は、先程まで気にしていなかったが、黒子の姿はふわふわとした髪型と上品な服に包まれていた。
(もしかしてどこかのお嬢様なのだろうか? 大変そうだなあ……貧乏で良かった……)
そんな事を考えていると、ある事に気付いた。
「あれ? みっちゃん?」
「美奈子さんがどうか……あれ? さっきまでいましたよね?」
「本当だ! いない!」
「うーん……みんなここに居て、私探してくる」
「一人で大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!」
風美は、三人を置いて美奈子を探しに行く。
「どこだろう? みっちゃん……おーい!」
どことなく、美奈子が居そうな場所を探していると、どこからか声がする。
『琴尾美奈子よ……貴様には才能がある……あの時友人と共に助けに入ろうとしなかったのは貴様の興味がドキドキの戦士ではなく、悪の組織……ディプレッションにあったからなのだろう?』
「え? みっちゃん?」
何となく嫌な予感がした風美は、声のする方をこっそり覗く。
すると、おどろおどろしい骸骨のような化物が、ものおおじしない美奈子が話を聞いていた。
『我等の組織に来い、琴尾美奈子よ……貴様を悪の幹部として向かい入れよう……貴様はあの才能の無い友人と違い見込みがある……』
「うーん……」
「あ……あああ……」
唖然とする風美であったが、気付いたように美奈子が風美に目線を合わせる。
そして、ニタっと嗤った後、こう答えた。
「分かりました、悪の幹部になります、これからよろしくお願いします」
『ふふふふふ……期待しているぞ……琴尾美奈子よ』
そして、おどろおどろしい骸骨は消えた。
風美は、震えながら物陰に隠れる。
(まさか……私が今日目撃したのって……みっちゃん自身のヴィラン覚醒秘話!! 確かに今流行ってるけど! どうして彼は、彼女は悪に堕ちたのか……的な奴が! でも……ええええ! まさか、兄さんが言っていたように二人以外話せばとんでもない事になるってこういう! うわああ! やらかしたああ!!)
「風美!」
「っひ!!」
「文雄さん以外は、しー! だよ?」
「うんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうんうん!!」
風美は、文雄以外にこのことを秘密にする事を誓った。