目撃証言15『妖精襲われる』
風美と美奈子は、状況を把握する為に廊下を歩いていた。
すると、風美が美奈子を突然引っ張る。
「?? どうしたの?」
「何だろう……体が勝手に動いた」
風美の行動に違和感を覚えて、進もうとした方向を見る。
『グルルル』
進もうとした先には、ラグナが数匹徘徊していた。
「……なるほどねえ……」
「どうしたの?」
「見えてないの?」
何処か納得した表情をする美奈子に、風美は首を傾げて質問すると、逆に不思議そうな表情をされる。
なんと、ラグナの姿が、美奈子には見えていた。
「行くよ」
「え? 戻ってるけど……」
「いいの」
美奈子は、ラグナに気付かれないように風美を誘導しながら道を引き返す。
そして、美奈子と同じ方向へと向かっていると、更衣室の近くに来た。
「今度は迷わずに進んでるね……どうしたの?」
「ちょっとね……あ! ここで止まって」
「うん……私も何だか体が動かない……」
美奈子の言葉がなくても、風美の危機反射能力が働いていた。
「流石風美……目撃体質極まれりだね……」
その時、目の前に文雄が隠れるように、様子を伺っている姿があった。
「え? 何? 兄さん?」
そして、文雄の視線の先を見ると、異様な光景を目にした。
「!! 恵斗! お前……」
「っぐ!! ああ……まに……あった……」
「何考えてんだ!! そいつを使えば……」
「分かっている! でも……はあはあ……このまま俺だけ何もしないなんて……お前等が自分の命を賭けて戦っているのに……俺だけ何も賭けないなんて……そんなバカな事出来る訳ないだろ……」
「おまえ……」
「恵斗……」
そこには、文雄が言っていたであろう、ラノベ展開の戦闘が起こっていた。
「えええ」
「? あれは?」
美奈子は、興味深そうに戦闘を見る。
その時、更衣室から妖精のような生き物が、欠けた水晶玉を持ち上げる様に浮いて移動していた。
『これを使えばピンクリップを助けられるッル! 急ぐッル!』
この妖精の名はポッリル、ダークネスドキドキの戦士となった、ダークネスアイシャドウの元契約妖精である。
契約者が闇落ちしてからは秘密結社ディプレッションに捕まっていた。
生まれがドキドキの国の研究主任の息子であり、非常に頭が切れ、魔力による発明が得意である。
牢屋も時間は掛かったが、何とか脱出する事に成功し、次の作戦を実行している。
「あれ何……」
「水晶だけが浮いてる……スゲエ」
「え? あの下のが見えていないの?」
「え? もしかして何か見えてる?」
「ああ……うん」
当然、風美にはポッリルの姿は見えていなかった。
しかし、美奈子には声も聞こえていれば、姿も見えているようであった。
「そうなんだあ……才能あるんだ……兄さん……多分戦いに夢中で気付いていないね……あれって……確か私が終業式に拾った半分割れた水晶だ……そうだ……疲れたから家帰った後、鞄の整理忘れてた……」
「アンタそんなの拾ってたの?」
「!! えっと……うん……売れるかなって……」
(実は投げて使った事は伏せておこう)
「……まあいいや……それよりついて行こう……あそこは文雄さん見てるし、他の人が対応しているみたいだし……」
美奈子は、何か違和感を感じた様に感じたが、敢えて黙っておくことにした。
「え! ああ、うんそうだね」
風美は、自身に才能がない事を理解している為、こういう場合は美奈子の指示に従うようにしていた。
「ごめんね、私も兄さんも才能がないからいつもみっちゃんにいつも任せきりで……」
自分では、動けずいつも美奈子の世話になっている事を遂謝罪してしまう。
しかし、美奈子は首を振る。
「風美、貴方と文雄さんの目撃体質は厄介なものじゃなくて才能だよ……前にも言ったけど……情報は力なんだよ、そういう意味ではちゃんと私の役に立っているよ……それに……こういう珍しくて楽しい事なんてなかなか味わえない!」
美奈子にとっては、文雄と風美の目撃体質の方が、唯一無二の才能であり、憧れる部分であった。
「みっちゃんは凄いな……何でも楽しむ事が出来るなんて」
風美は、そんな人生を楽しむ事の出来る、美奈子を尊敬していた。
「!! ストップ!」
「おっと! ごめんごめん忘れてた」
風美は、美奈子を引き寄せる。
そこは、先程来たラグナが徘徊する場所であったからだ。
すると、ポッリルの悲鳴が上がる。
『グルルル』
『うわああ! お前等なんだッル!!』
当然、ポッリルはそんなことはつゆ知らず、ラグナに襲われる羽目ななった。
「……あいつ等居た事を忘れてた、あーあ、こんな事になるとは……南無」
もう助からないと考えたのか、ポッリルに向けて合掌した。
「?? やっぱり何かいるの?」
「何か靄の掛かったような化物?」
「うーん……この結界が兄さんの目撃したものの絡みなら多分ラグナじゃない?」
「ラグナ? 何それ?」
「兄さん曰く、ラノベ的な展開を目撃したみたいで、敵の魔獣としてのポジションみたい……多分」
風美は、文雄から聞いた情報を美奈子と共有する。
そして今まさに、ポッリルはニチアサ系にも関わらず、ダブルブッキングしたラノベ系の魔獣に襲われている状態だ。
「……不味くね?」
「見えてないから現状分からないけど……不味いね……でも私とみっちゃんでどうにか出来るとも思えないけど……」
「「うーん」」
『グラアアア!』
『うわああああ!』
二人にはどうしようもない状況である為、頭を抱える。
二人が悩んでいる間に、ポッリルは噛みつかれる寸前であった。
その時、ラグナの動きが止まった。
『え?』
「怪我はないかい?」
『貴方は! ブラックナイトマスクッル!!』
そこにいたのは、ブラックナイトマスクであった。
「誰?」
「出た! ブラックナイトマスクもといクリーニング店の新人バイト!!」
「アイツか! 奥様の話ばっかり聞いているせいで、行列が進まないクリーニング店の異名が付いた原因!!」
風美の知らない間に、街に新たな異名が出来ていた。
『どうして君が此処にいるッル』
「僕の事はいい、ダークネスアイシャドウ、いや……ピンクリップを助けたいんだろ……」
ブラックナイトマスクは、トウを血振りすると、ラグナは一瞬にして細切れとなる。
そして、睨むようにポッリルに向かって叫ぶ。
「行くんだ! 早く!」
『!! 分かったッル! 感謝するッル!』
ブラックナイトマスクの言葉通り、ポッリルは、急いでダークネスアイシャドウの元へと向かう。
『本当にお前はお人好しだ……しかし、この化け物共を斬った時、何処か懐かしい感じがした……』
「そうか、お前は俺が生まれた時からずっと一緒にいた……少しでも何かに近づけたなら良かった」
『お前の弟に宿る何かも調べないとな……私に似た何かを感じる』
「分かっている、恵斗は俺が守る……お前の言う大きな力からな……他にもいるようだ、行くぞ」
『ああ、分かった』
意味深な会話をトウとすると、ブラックナイトマスクは、消えるようにその場から去った。
唖然としながら見ていた二人は、すぐに我れに返える。
「風美? 歩きながらでいいからアンタの目撃した事と文雄さんに聞いた事を私に説明して」
「御意」
(兄さんは、二人以外には目撃した事は話さないようにと言ってたけど、状況が状況だし……仕方ないよね……それにさっきからチョイチョイ話していたし)