目撃証言11『喫茶店での会話②』
そして、ラノベ的展開の話の間、ニチアサ的展開の話も進んでいた。
霧雨は、神妙な面持ちで理由を説明する。
「あの子は元木さんがドキドキの戦士になる前に私と一緒にドキドキの戦士として戦っていたの」
「!! そう……だったんだね……でもどうしても……」
(良くあるパターンで失恋かな?)
「失恋したのよ……あの子……」
(やっぱり、流石私! ニチアサ知識は廃れてない!)
話を聞いているだけにもか関わらず、風美は、ニチアサの知識が通用して、得意げになる。
「失恋……それは……辛いですね……」
「そうね……それなのに私は……」
(おや? 雲行きが……)
不穏な空気が流れる中、良子と風美は、息を呑む。
「あの子の苦しみに気付いてあげられなかった! 二週間も一緒に戦ってきたのに!」
(いやいくら西蓮寺会長でもたった二週間でそこまで察するのは難しいと思いますよ!)
期間から見れば、そこまで時間の経過が少ない事に、風美は、心の中でツッコミを入れる。
「そんな! 西蓮寺さんは悪くないよ!」
(そうそう、元木さん、よく……)
「誰にだって間違いはあるよ!」
(ちょ、おま! バカなの! そうじゃないでしょ! 何のフォローにもなってないよ! 天然!? 天然なの!?)
良子の予想外な回答に、風美は慌てる。
「そうね……誰にだって間違いはある、それは私にだって……」
(ほら落ち込んだぁ〜、大丈夫かなあ、この二人……)
頭を抱えて、風美は二人を心配そうにする。
「今なら分かる……私もブラックナイトマスク様の事を……」
(それは見てれば分か……)
「え! そうなの!」
(……らない人もいた)
風美は、良子の鈍感さに自身の言葉を否定せざる負えなかった。
「あの子は家庭教師の先生が好きだったみたいで……でも家庭教師の方は他に恋人が出来たみたいで、その二人がキスしているところを最近目撃してしまったみたいで……」
(キッツ!! 何そのディープなシーン! 拷問じゃん!)
風美は、物凄く気不味い気分になり、聞かない様にしたかったが、耳を押さえれなかった。
(ダメだ、メチャクチャ気になる)
風美は、自身の誘惑に勝つ事が出来なかった。
「敵にその心の隙を突かれてダークドキドキの戦士に堕されて、思えばその時に私が先に好きになったのにって言ってたのはこの事だったのね……好きな人が出来てから分かるだなんて……あの時に戻りたい」
(WSSですね、分かります)
霧雨は、苦しそうにしながら絞り出した言葉を、風美はジャンル系で例える。
「多分、私は怖かったの……また貴方の気持ちを理解出来ず失うのではないのかって思うと……」
震える霧雨の手を良子は握る。
「大丈夫だよ、私は霧雨さんの敵にはならないよ……絶対に……」
「元木さん……」
「霧雨さん! 私の事! 良子って呼んで!」
「……元……いえ! 良子! ありがとう!」
「ううん! 良いよ! だってもう友達でしょ!」
「そうね!」
微笑ましい雰囲気に包まれている中、風美はある事に気付いた。
(あわ、あわわわわわ……確か元木さんは兄さんの元バイト先のクリーニング屋の新人お兄さんに惚れている、そして西蓮寺会長はブラックナイトマスクに惚れている……そして新人お兄さんとブラックナイトマスクは同一人物……ヤバイ! 修羅場の中の修羅場! まさかの三角関係だ! しかも何の因果か、今度は西蓮寺会長がWSS枠に!!)
風美だけが、内心穏やかではなかった。
「出てきて良いよ、プリッペ」
「メリッブもごめんなさいね」
『ペッー』
『プッー』
「ごめんね、二人だけで話したかったから」
「メリッブ、心配掛けたわね、もう大丈夫よ」
『元気になってよかったップ!』
『前の戦いはごめんップ! 任せっきりで!』
「ううん! プリッペは王子様でメリッブはその婚約者でしょ! 奴等の狙いは貴方達なんだから隠れてなきゃ!」
「もしもの時はサポートをお願い、頼りにはしているんだから」
二人は優しく、プリッペとメリッブを撫でる。
『ありがとうッぺ!』
『ありがとうップ!』
「そういえば前の子にも同じドキドキの国の子がいたの?」
「ええ、ポッリルって子よ、今はダークドキドキの戦士のコンパクトに封印されているから解放してあげないと……ここからは私の家で話しましょう、いつまでもここにいるのも他のお客さんに迷惑でしょうし」
「そうだね! じゃあ行こう!」
二人は、何も問題がない様な表情で店を出て行った。
「「はあ」」
文雄と風美は、それぞれの意味で溜息を吐いた。
「で? バイトは決まったの? もう1時間は居るわよね? モーニングセットもコーヒーも終わっているみたいだし」
「「あ!!」」
バイトを決めながら食べるはずが、ラノベ的展開とニチアサ的展開の話を聞きながら食べ終わってしまっていた。
当然、バイトの話などしておらず、今後どうするかも決まっていない。
「「っく、あ、あいす……」」
「そんな安い商品でまた1時間粘るつもり?」
「「うっ」」
気まずそうな二人に、美奈子は溜息を吐き、カウンターに視線を移す。
「お母さん! ちょっと良い?」
「ん〜? ど〜したの〜?」
すると、カウンターからフワフワした髪を靡かせ、Fカップの胸を上下に揺らす、ゆるふわっとした女性が出て来た。
琴尾婦和子35歳、琴尾美奈子の実母である。
この喫茶店の天女と呼ばれる存在になるレベルの美貌を持っている。
「あら〜、フー君にフーちゃんじぁな〜い、いらっしゃ〜い〜」
「はっ、はい」
「相変わらずですね〜……兄さんキモイよ?」
「馬鹿野郎、人妻系ゆるふわだぞ」
「文雄さん、自重して下さい」
「も〜フー君は〜」
気持ち悪い事を言う文雄に一言言ってから、美奈子は話を続ける。
「お母さん、文雄さんをこの喫茶店で日払い労働させても良い?」
「ええ〜ミーちゃんまさか〜!」
「何を勘違いしてるか知らないけど、違うよ?」
「え〜そ〜なの〜?」
「いいからどうなの?」
「お〜け〜よ〜」
「だって、良かったね」
「え、嬉しい、バイトで婦和子さんに会えるなんて! 美奈子、お父さんって言って良いんだぜ!」
「あらあら〜」
「「お前もう喋るな」」
何を言っても怒る事のない、婦和子の代わりに風美と美奈子が文雄を自重させる。
「じゃあ文雄さん、夜までの皿洗いをお願いします、今から」
「え? 今?」
美奈子の突然の言葉に、文雄は困惑する。
「だって明日は私と風美と文雄さんでプールに行くんでしょ? なら今から稼がないと予定が崩れるじゃない」
「そんな! 今日はゆっくり……」
「ガンバ」
風美は、文雄の肩を叩いてそのまま店を去る。
「そんな……」
「お金は、丁度だね……文雄さんは今から働くなら賄いとして扱うよ? コーヒー無料券も新しいの3枚追加で渡すし」
「やらせて下さい」
文雄は、その日労働に励む事を決意した。
「あ! ルキちゃん!! 久しぶりに来てくれたのね〜」
「うわ! お前! カウンターに居たはずじゃあ! おい店員! コイツを何とか……」
「やだピアスしてるじゃない! 痛いの痛いの飛んでいけ〜」
「やめろオオオオオ!!」
そして、いつの間にか婦和子は、久しぶりに会った流鬼奈を可愛がっていた。
「本当に相変わらずだ」
「ある意味でうちの看板だよ……まだいける」
二人は、婦和子を生暖かい目で見る。
そして、文雄は20時に仕事が終わり、給料を貰った。