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SOMA  作者: 味塩温
2/2

死ぬより怖い事はない

今回の登場人物

兎械来海

天真爛漫な少女。友人は多いが、親友と言えるのは久遠月詩だけ。折宮昂輝をライバル視している。


折宮昂輝

名門・折宮本家の一人息子。口の悪さが災いしてか友人はあまり居ない。兎械来海を鬱陶しく思っている。


久遠月詩

優柔不断な少女。控えめな性格だが、兎械来海の明るさに引っ張られる形でそこそこ交友関係は広い。


柊司郎

柊班の班長。「話が通じる相手は全員友人」という独自の理論を持ち、本人曰く友人は非常に多い。

辞めろって言ってんだよ。

その軽い調子の言葉に反して、表情の裏に潜む強い拒絶は、兎械と折宮を竦ませるのに十分だった。二人の間に気まずい空気が漂い、久遠は思わず視線を泳がせる。

そんな久遠に、突然質問が投げかけられる。


「久遠月詩」


柊は資料を指先で軽く叩きながら、静かに言葉を続ける


「資料によると、このメンバーは訓練学校時代に模擬戦や実習で少なくない回数組まれていたはず、合っているか?」

「は、はい!」


思わず声が裏返りそうになる久遠。

柊は意地悪な笑みを浮かべながら、片手で顔を支える仕草を見せた。


「つまり、否が応でも連携が必要だったシーンはいくらでもあったはずだ。その時を思い出してみて。君から見て二人の連携は上手くいってたかな?」

「あ……えと……そこそこ……」


久遠は二人を庇うようにしどろもどろになりながら答えを返したが、その曖昧な答えに信憑性があるとはとても思えなかった。

柊は小さく鼻で笑うと、二人に視線を向けた。


「まあ、そうだろうね。片や、プライドだけが一人前のお坊ちゃん。片や、SOMAに入れたのが奇跡な落ちこぼれ」

「テメェ……!」


怒りを露わにする折宮。その隣で、兎械は歯を食いしばりながら俯いている。


「まあまあそう怒らない怒らない」


柊は肩をすくめて、飄々とした口調で続ける。


「今から俺は君たち二人にSOMA(ここ)に居られる選択肢を与えようってんだから」


「ふざけんな!そんなのこっちから願い下げだ!」


折宮が声を荒げるが、その言葉を遮るように兎械が前に出た。


「なんでもいいです!SOMAで働けるなら私はなんでもします!」


瞳には決意が宿る。柊は彼女をじっと見つめ、面白そうに片眉を上げた。


「俺まだ何も言ってないよ?本当にいいの?」

「はい!」


即答する兎械。そのまっすぐな返事に、折宮は口を挟むのをためらい、口を閉じる。

柊は薄く笑いながら、資料を軽く叩いて言った。


「死ぬより辛いかもよ?」

「死ぬより辛い事なんてありません!」


兎械の答えは迷いのないものだった。その言葉に、柊は少し驚いたような目をし、次の瞬間には興味深そうに笑みを深めた。


「……へぇ、キマってんなぁ」

そのまま折宮に視線を向けると、今度は皮肉げな笑みを浮かべながら言葉を続けた。


「それとも、後がないから威勢よくなってるだけかな?まあ、そこのエリート気取りよりは気に入ったよ」


折宮の額に血管が浮き上がり、握りしめた拳が小刻みに震える。


「俺もやってやるよクソシラガ!」


その言葉を聞いた瞬間、柊の飄々とした笑みが一瞬で消え、微妙に視線をそらす。


「……それ気にしてるんだから言わないでよ」


小声でぽつりと呟き、肩を落とす柊。本気で落ち込んでいるようなその姿に、折宮は謝りこそしないがどこか申し訳なさげな雰囲気が漂う。


「なんていう冗談はさておき、三人とも実力を見ておこうかね。こう、二人には試しておいて悪いけど自分の目で確かめないと信じられないタチでさ」


柊は軽い仕草で立ち上がると、三人に「ついてこい」とジェスチャーをする。

訓練棟の中ではなく、そのまま建物を出た四人は近くの裏山へと足を運んだ。


「おい、ここで何するんだ。まさか登山でもする気じゃないだろうな」


疑問と苛立ちをぶつける折宮に、柊は振り返り答える。


「登山したいの?やめときなよ。基礎トレなんて意味が無い——とは言わないけど、もう土台ができてる君らには本格的な訓練の方が色々と効率が良いからね。それよりも——」


その言葉と同時に、地面が震え始める。わずかな揺れが次第に強まり、土が渦を巻くように集まっていく。

瞬く間にそれは人の形を成し、やがて精緻な細部まで作り上げられた人の姿を模した土塊となった。

その威圧感は、ただの土塊とは思えない。まるで生命が宿ったかのような気迫が周囲を包み込む


「実戦形式の方が楽しいだろ?」


柊は口元に薄い笑みを浮かべ、三人に挑むような視線を投げた。

その威圧感に圧倒され、震えていた兎械が突然口を開く。


「か……」

「か?」


柊が目を細めて問い返す。


「カッコいい!私もアレやりたい!」


場が一瞬静まり返る。


「……はぁ?」


呆れたように折宮が眉間にシワを寄せる。久遠は苦笑を浮かべつつ、兎械の純粋な反応を見つめる。


「お、分かってるじゃん!」


柊は得意げなドヤ顔を見せ、胸を張る。


「それで、あの土人形と実戦形式で戦うのがアンタの言ってた死ぬより辛い訓練ってやつか」

「うん、今日の勤務時間中はこれに勝つまで一切休憩無しのローテーションぶっ続け。とりあえずタイマン想定かな」

「随分楽な訓練で助かるよ、節穴野郎」


そう言うと、一歩前に出て土人形を見据えた。


「俺が最初に行く、それで良いか久遠」


久遠は一瞬戸惑いながらも、小さく頷いた。


「ちょ!私が先にやる!っていうか私にも許可取れ!」


兎械が声を張り上げるが、折宮はまるで聞いていないかのように、人形をじっと見据えた。


「こんにゃろ私の話を聞けっ痛たたたっ!」


折宮へ歩を進めようとすると突然、耳を強く引かれる。


「落ち着け」


柊は兎械の耳を掴んでしっかりと制止した。そのまま軽く笑いながら言葉を続ける。


「せっかく一番槍を行ってくれたんだ。まずは観戦しときな。いい勉強になるはずだ」


土人形を睨みつける折宮。


「ぶっ壊してやるよ」


その視線に反応したのか、土人形の目が不自然に動き始めた。それはまるで、目の前の相手の実力を推し量っているかのようだった。

死ぬより辛い訓練——その正体は柊の作り出した土人形との実戦形式だった。所詮土人形、と余裕を見せる折宮昂輝の勝負の行方は。

そしてもう一人の問題児、兎械来海はどう立ち向かうのか。

次回「本格的訓練指導開始」

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