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第三話「マイリージャ全焼事件」

マイリージャ大森林に住まう竜エルピーダ。

現在も生きている竜の中では若い部類に入るらしい。かつてはテライア王国に

住み続けていたが、国が領地ごと消滅したことで連邦に迎え入れられた。

国主はすべての事情を理解しており、不敬なことはしないように口を

酸っぱくして全員に知らせていたはずだ。このような事が起こったのは

国主を追い出したことで好き勝手始めた政治家や貴族たちの暴走のせいだ。


「人どころか動物もいないように感じる…」

「エルピーダの衰弱が大森林にも影響を及ぼしている。彼の竜の力が

及ばない安全圏へ動物や微精霊たちは避難したのだろう。あの女性は

特別マナに敏感では無いようだしな。あれが、エルピーダが振り絞った

最後の力なのかもしれない」


寿命が刻一刻と消えようとしている。キースは最悪を考えているようだ。

エルピーダの消滅はこの大森林に消滅も意味する。この森の消失は国にも

大打撃を与えるはずだ。幾ら我欲が強い貴族たちとて、それぐらいは

分かるはず。だが彼らはキースたちの推測以上に我欲に溺れているらしい。

大森林の最奥にやって来た。


「貴方が、エルピーダ…?」


体を丸めている深い緑色の竜。それがエルピーダである。目を開き、

声を出す。


「亡国の姫よ、あの妊婦は貴方のところに来たのだろう」


エルピーダは女性のことを気にしていた。彼女のことは心配いらない、

胎児もすくすく成長していると説明するとエルピーダは安心したようだ。

そして別のことを告げた。どうやらこの竜はアルメルの正体を知っている

らしい。同時にキースがどのような立場なのか。


「姫よ、そして混血の男よ。竜は消滅しない。人が死して再び新たな生を

得るように、我ら竜も消えやしない。私の加護は消えぬ」

「竜はマナに帰る、か。老衰が原因では無さそうだな。お前の神体を何者かが

破壊してしまったことが原因か」


キースはエルピーダの奥に佇む瓦礫に目を向けた。国軍がエルピーダを

討伐しようとしているという話、その最初の一手としてエルピーダを大幅に

弱体化するべく祠を破壊したのだろう。あの妊婦が祈りを捧げた時には

祠があったと言っていたので、ほんの一週間前の出来事ということだ。


「悲しむことは無い。ただ気をつけよ、姫。国の滅亡に一枚噛んでいた

敵は既に貴殿の生存を知っている。混血の男よ、主君の代わりに己の手を

血で染める大罪人よ。犯すならば、優しき罪を―」


エルピーダの体が半透明になっていく。同時にアルメルが咳き込む。

黒い煙が森の中を漂う。キースはアルメルに姿勢を低くして口元を

隠すように言った。見えたのは赤い炎だ。


「魔法による炎では無いな…」


キースの瞳が輝きを帯びる。魔眼:透視。森の出入り口を塞ぎ、火を放つのは

連邦軍の一団。その中に気になる人物を見かけた。一人、女性だ。彼女は

連邦軍らしからぬ服装。軍服ではない令嬢のような姿だ。どこかの貴族の娘か。

その時はそう思っていた。薄っすら感じたのは、高い魔力。


「―お前たち!」


炎が森を焼き尽くさんとしている。その最中、一人の女性が二人を呼ぶ。

ミルクティーベージュの髪の麗人だ。


「こっちへ来るんだ!すぐ近くが私たちの敷地。そこに連邦軍が手を出すことは

しないだろうからね」

「この辺に土地があるのは、おそらくアシュレイ家。連邦の侯爵家だ」

「最近、ちょっとゴタゴタがある家だよね。とりあえず、彼女を頼ろう」


麗人の案内に従い、焼き尽くされる森を脱出する二人。チョロチョロと森を

抜けていく存在を察知しつつも女は気にせず森を全焼させる。竜の神体もろとも

森をすべて消滅させる。女の独自の計画にとってこの森は邪魔なのだ。

邪魔になるであろう障害は森から逃げ延びている。


「逃がさないわよ、お姫様」



マイリージャ大森林が焼き尽くされたという大事件について、整合性が

とれているような、しかし頭の回る人間からすれば違和感のある事情を

説明された。竜の討伐のため、その神体となってしまった大森林をやむを得ず

全て焼き払うことになった、と。

二人がやって来たのは侯爵、アシュレイ家の邸宅。大きな屋敷はアシュレイ家が

貴族の一つであると改めて納得する判断材料となっている。


「紹介が遅れたね。私はミランダ・アシュレイ、よろしく頼む。良ければ

君たちの名前も聞かせてくれないか」

「アルメル・マクスウェル。こっちはキース・プリムローズ。私たちは

お願いされてエルピーダを救出しに来ていたんだ」


ミランダは納得したような表情を見せる。彼女も連邦軍の動きを不穏に

感じて、大森林に足を運んでいたらしい。そしてアルメルたちを発見。

さらに大森林が焼き払われているところだった。


「ミランダ。お前は元々連邦軍の軍人だったと言ったな」


そう、ミランダは元軍人。連邦軍に属していた。彼女ならば軍人に顔見知り、

面識はなくても存在自体を知っているという相手がいるかもしれない。


「赤毛の女性を知っているか。真っ赤な口紅に、気になったのは右耳の大きな

金のイヤリング…背丈はお前と同じぐらいか。軍服は着ていなかったが…」

「心当たりは無いな。だがね、キース。連邦軍の業務に、その最前線に

貴族も政治家も立ち入らないのが常識だ。危険が伴うからね。そうなると…

黒い噂は本当かもしれない」


軍の中に流れる噂があったらしい。ミランダが軍を抜ける頃に真実味を

帯びてきた噂。当時は国主が追いやられてすぐの事だった。外部から

新たな軍の指揮官を招き入れた、と。

その女性は極寒の気候である国メトディウス皇国からやって来たらしい。

彼女の存在に不信感を抱くと同時に、その不信感は女性だけでなく連邦軍

全体に感じられたミランダは軍を抜けたのだ。アルメルは深く思案する

ミランダの姿を見て、何かを感じ取った。天啓のようなものを感じ取った。

彼女は何かある気がする。彼女の存在は欠かせないのではないか、と。



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