episode3 二面性
蜜柑と俺は足早にクラスに向かい、予鈴ギリギリに着いた。まだ何も始まっていないのに少し汗をかいたのに、蜜柑は汗ひとつ疲れた様子も見せない。
(流石はトップアイドルのセンター。日頃からダンスレッスンや体力作りをしているだけはあるな)
っと心で思いながら蜜柑には伝えない。
伝えたら蜜柑は「上から目線で言って〜!!超大変なんだよ!!」っと小突いて来るに違いない。それはそれで可愛いけど、俺は伝えたくないと思った。
ーーーキンコンカンコーンーーー
予鈴が鳴った。
蜜柑の席は1番後ろの真ん中の席。
俺の席は窓際の1番後ろから1つ前の席。
「おはよ!愛〜!予鈴ギリギリに赤城さんと入ってくるなんて〜もしや何かあったか?」とニヤニヤ顔で言ってくるのは、俺の後ろの席の《山田涼》中学1年の頃からの付き合いだ。性格は……軽いヤツで良いヤツ、かな。
「別に何も無いよ。あっても涼、お前だけには絶対言わない!これだけは断言する!」
何故ここまで言うかというと、こいつは前にやらかした事があるからだ。それはまた追々話すとして。
ーーーガラガラガラーーー
扉が開く音と一緒に先生が入ってきた。
「はい皆、朝の挨拶するから起立〜!」
ーーーガラガラガラーーー
「礼!…着席!」
ーーーガラガラガラーーー
「さて、3年生になった皆、春休み気分が抜けてない奴はいないよね〜!最後の中学校生活、受験、部活、やりたい事をトコトンやって謳歌しなさい!何か分からない事や、受験したい高校の資料等、全力でサポートするからね!」
・・・
「 「 「さっすが狩野ちゃん先生!! 頼りになる〜!!
3年目も宜しく〜!!」 」 」
流石狩野ちゃん先生、俺らの気の緩みをビシッと正しつつ安心感もくれる。
「休んでる者もいないし、ちゃちゃっとホームルームを終わらせて始業式の為講堂に行くわよ。」
狩野ちゃん先生の話を右耳から左耳へ流しつつ、ホームルームが終わるのを待つ。途中て在校生代表の挨拶を務める蜜柑が教室を抜けて講堂に向かい、いよいよ俺らも講堂へ向かう。
講堂内、小中一貫校だからこそのこの広さと生徒達で埋め尽くされた時の圧巻は凄い。少し息が詰まる思いをしていると「在校生の挨拶が現役アイドルかつ、我らがクラスのヒロイン!赤城さん〜!目の保養だよなぁ〜」と浮かれている山田から話し掛けられるが「まぁ国民的アイドルのセンターだからなぁ」と適当に返す。
とコソコソと山田と話していると、いよいよ蜜柑の挨拶が始まった。
(……あぁ、ホントにアイツは舞台立った途端、と言うかスイッチが入ると纏っている雰囲気が変わるな。
普段は誰でも取っ付きやすい雰囲気なのに、今は見た人の目を奪い、唾を飲み込む音すら立てたらダメと思ってしまうくらいオーラを感じる。)
そんな事を考えていたらあっという間に在校生代表の挨拶は終わった。
蜜柑が頭を下げ、頭を上げて数秒たった時に在校生達は気づいた。今、終わったのだと。
程なくして解散になり、教室へ戻る時に俺は抜け出して蜜柑の元に駆ける。『最高だった!やっぱりお前は凄いな』と伝えたいからだ。「なに〜上から目線でぇ〜!」とツッコまれる迄想像しながら駆ける。
「蜜柑!!」
「ん?愛??教室に戻らないの?」
「最高だった!やっぱりお前凄いな」
「いきなりなに〜?しかも上から目線でぇ〜!…でも嬉しい!」と笑顔を露にした。
俺も笑を零し2人で笑い合う。