【詩】革靴とパーフェクトデイズ
平日の昼間から磯丸水産で飲んでるやつ
全員最低だと思う
俺もだけど
よっぱらいが湯呑を落として割った
2つもテーブルが離れてる俺にまでお茶がかかる
やっぱり高い靴は履けないなと思った
10万とか20万の靴を汚されたら、きっと喧嘩になってしまう
安い靴を大事に磨こうと思っている
そういう生き方をしたいと思っている
でもやっぱり昼から、磯丸水産で白ワイン頼んでるやつ
いっぺんくたばればいいと思う
パーフェクトデイズという映画を観た
東京でトイレ清掃員として働く平山という男の日常を描く、淡々とした映画だ
何もパーフェクトではなかった
人と関わったとき、彼の完璧には亀裂が入っていたではないか
ホームレスの踊りを見て、彼は同族を見つけた喜びに浸っていたではないか
貧乏な彼の世界と、裕福な彼女の世界は別なはずがない
世界はいつだって地続きだろう
同じ消費税、同じ物価高が降り注ぐ
違うのはせいぜい所得税くらい
せいぜい幸せの物差しが違うだけだ
俺は買えるものなら、
ジョンロブの靴を何足も買いたい
だがそれでも、汚されたら嫌な気持ちになるだろう
――また買えばいいさ、君に怪我がなくてよかった
なんて、
たとえどれだけ金持ちになっても言えないだろう
いや、
そういう意味では、
結論はとうに出ている
俺はけっきょく、幸せになれない
相対評価にさらされ続け、負け続けた
そして、幸せが何なのかわからなくなった
勝てないのに、勝ちを欲しがった
月並みのことも出来ないのに、月並みが欲しかった
今はただ、革靴を育てている
道で拾った植物を平山が大切に育てているのと同じように
メルカリで拾った誰かが捨てた革靴を大切に育てている
映画のキャッチコピーは
「こんなふうに生きていけたなら」だった