2
初めは良かった。
酔いが覚めるにつれて、芹沢は何かがおかしいことに気付き始めた。歩き始めてどれくらい時間が経ったかは分からない。けれど、どんなに進んでも分岐すら出てこない道にだんだん不安になってきた。
余りにも景色の変わらない道に、今更だがスマホで場所と時間を確認してみようとしたが…ウンともスンともしなかった。
どうやらいつの間にか充電が切れていたらしい。
こりゃ困った…と、取り敢えず足を進めるが遂に疲れて座り込んでしまった。
その時、ふと…そういえば寒くないな?と思った。
今は12月だ。最近ではすっかり気温が下がり寒風吹き荒れ、炬燵と蜜柑が恋しい季節である。
…なのに、寒くない。
暑くもないが寒くもない。
風もないし、
犬猫の鳴き声や、
民家から微かに漏れる人の声や、
車の音も、
虫の声すら…
何も聞こえない。
嫌な予感に…
恐る恐る、また月を見上げた。
月はいつの間にか10に増えていた。
ほんのり青かったり、赤かったり、緑だったり…
見たことある色も見たことの無い色も。
模様も形も沢山あった。
知らない空だった。
何より、星がない。
雲もない綺麗な空なのに、見えるのは空いっぱいを埋め尽くす月だけ。
私はまだ酔ってるのか?
ここは何処だ?
この道はなんだ?
なんで寒くない?
私はいつの間にか寝てしまっていて、これはもしかして夢なのだろうか?夢でないとおかしい事だろうけど…何故だろう?頭のどこかでこれは『現実』だと囁いている。
ゾワリッ…
その時、視線を感じた気がした。
しかし右も左も以前高い塀しかない。前も後ろも、ただ先の見えない灰色の道が真っ直ぐに続いているだけ。
人の気配も、動物の気配すら何も無い。
なのに、沢山の視線に囲まれている気がした。
怖くなって咄嗟に前へと走り出した。
どんなに走っても、誰にも会えず。
どんなに走っても、視線は増え続けてゆく。
だんだん息が切れて、遂には疲れて転んでしまった。
じわりと痛みが体に広がり、やはり夢ではないと気付かされた。
あまりの恐怖にそのまま蹲り動けない。
ガタガタ震える体を必死に抱き締めても恐さは増えるだけ。だんだん明かりが増してゆく…
また月が増えたのだろうか?
もう怖くて空も見れない。
その時、目がくらむような光が当たりを包み込み、あまりの恐ろしさと眩しさに何時しか意識を手放していた。