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その日、芹沢は酔っ払っていた。
それはもうベロンベロンに。
というのも、急遽開催された職場の飲み会でバカ騒ぎを起こす普段ろくに仕事をしない上司共に無理やり飲まされた、というのもあるが…主にストレスが爆発したからだ。
押し付けられた(断りきれなかった自分が悪いとは分かりつつも)残業を1人終えようやく帰れる!あのクソ上司共面倒な仕事押し付けて帰りやがっていつか痛い目合わす!!なんて心の中で威勢よく啖呵を切っていれば…
噂をすれば影。
どんなタイミングだよ、という所で上司から電話がきた。
こんな時間に何の用だと内心ビクつきながらも電話に出れば上司の酔っ払った声で飲み会に呼び出された。
断りたくても、嫌なことを『嫌』だとハッキリ口に出せない自分が恨めしいっ!
何より、ここで向かわなければ後日何を言われるかと不安だった。以前にどうしても外せない用事があり断った時は暫くノリが悪いだの、社会人としての付き合いがどうの、昔はどうのこうの、これだから若者は~…とグチグチグチグチ煩く言われ、仕舞いにはアレこれと無駄な仕事を押し付けられたのだ。
今も丁度押し付けられた仕事を終えたばかりだが、これ以上増やされるのも面倒だし嫌だ。
後のことを考えれば心底!面倒くさいし疲れているが行っておいた方がまだ上司の機嫌もいいだろう。
結局行くにしても行かないにしても面倒なことは変わりないしなぁ…という諦めで、大きな溜め息とともに店へ向かった。
無理やり呼び出されて向かえば既に出来上がった野郎共が屯しており。自分を呼び出した上司なぞはグースカといびきをかいて寝こけているではないか。
本当に自分はなんのために呼ばれたのかと呆れつつ、どうせ上司の奢りだからとイライラを酒にぶつけていれば疲労もあり一気に酔いが回ってしまったのである。
何とか店を出るまでは正気を保ってはいた、筈。
酔いが回った頭でも何とか上司共にタクシーを呼び出し車に押し込めおさらばした後は、気が抜けたのかその後の記憶はあやふやだ。フラフラとどこかを一人で歩いていた気はする。恐らく家に帰ろうと歩いていたのだろう。
普段は通らないであろう人の居ない暗い道をたった1人。
誰かに途中で声をかけられた気もするし、寧ろ酔っ払いだと避けられていた気もする。色んな感情が酒と共に頭の中をグルグル回っていて何が何だか分からない。
フラフラ…
トボトボ…
ふと、視線を上げれば月が空に1つ、2つ、3つ、4つ…大小様々な沢山の月が空に浮かんでいた。
…あー、これは酔ってるな。
と自分で自分に呆れた気がする。
少し酔いの冷めた目を擦り、右へ左へ視線を移す。
…はて?ここは何処だろう?
いつの間にか知らない道を歩いていた。
酔い過ぎて自分が今どこを歩いているのかさっぱり分からなかった。標識でもないかと改めて右へ左へ視線を巡らせるも、何方も闇に染った暗い塀が続いているだけだった。前も後ろにも街頭すらなく、月明かりだけが道を照らしている。
…なんだか不気味な道だった。
耳が痛いほど静まり返ったその場所で1人ぽつんっと立ちすくむ自分。空にはいつの間にか6つに増えた月。
街灯もない薄暗い道で…なんだか無性に楽しくなってきた。
まだ残っている酒のせいだろう。未知の場所で未知の探検!もっぱら冒険譚が好きな芹沢はワクワクが止まらなかった。
この道の先には何が待っているのだろう?!
ワクワク!
ドキドキ!
依然、フラフラとした足取りは変わら無いものの芹沢は鼻歌交じりにその道を進み出した。




