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ポストシェルター  作者: 福出
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ポストシェルター

 百年前、この地球と呼ばれる惑星に、人間という生き物は居なくなってしまった、らしい。


 私が泣き虫の子どもの時に、いつだったか黒い影のような姿の村長が話してくれた。


 その村長はゴーストと呼ばれる種族で、でもぷかぷか浮いているわけではなく、脚が生えている。それなのにゴーストとは何事だと四歳の私は憤っていた記憶はあるけど、今はもうそんなものだとしか思わなくなった。


 でも、そんな話はどうでもいいと、私は私の身長ほどしかない赤いポストから、何枚かの手紙を取り出していく。今の時代、脳内電波通信や、スーパースマートフォンでビデオ会話でもしてればいいのに、わざわざ手紙を出す必要がどこにある。いや、ない(反語)。


 とは思うけど、これを取り出して、皆のところへ配るのが私の仕事なのだ。十四歳の私がご飯を食べてお家で眠るための大切なお仕事。動かせる身体あればだれでもできるけど、私が任されたお仕事。村長から「あなたしかできない」と頼まれたお仕事。


 全ての手紙の住所をノートにメモをして、愛用の黒と白の鞄に入れる。コンクリートジャングル(百年前とは意味が違って、コンクリートに植物が生い茂った場所のこと)のポストはここが最後で、私はノートに取ったメモを見て、配達ルートを考える。よし、これでいこう。


 そして、私は灰色の羽を取り出して、それを背中に取り付ける。ぱたぱたと可愛らしく上下運動を繰り返すそれに身を任せると、次第に身体は宙を浮く。そして、私は空を飛ぶ。


 そう、私達は空を飛べるのだ。この羽さえ付ければスライムでも、獣人でも誰でも空を飛べる。そんな魔法みたいな羽の名前はキメラの翼と言って、文字通りキメラという動物の羽を参考に研究者が作ったらしい。


 ……ちなみに、レトロゲームが好きな友人(エルフ)が、あるゲームにその固有名所と同じアイテムがあると言っていたけど、関係があるかどうかは知らない。「この物語はフィクションであり……」そんな台詞を様々な娯楽作品の最後に残したとされる人間は、全員地球から去ってしまった。


 私という人間を残して。


 そう私は、哺乳類というカテゴリーの中で、唯一ヒューマンと呼ばれる存在なのだ。


 別に、そのことに対してえっへんと誇らしい気持ちにもならないし、悲しい気持ちにもならない。ただたくさんの動物やモンスターに囲まれた暮らしの中で、「あ、そうだんだ」と納得だけはしている。


『人類と呼ばれる種族が違う星へ旅立って、百年が経った。』


 新学期に配られた歴史の教科書にはそう書かれてあったけど、本当だろうか。どちらにせよ、その宇宙旅行におかえりを言えないまま百年以上が経って、私は今もひとりぼっちだ。


 冷たい春の風を感じながら、私はくしゃみをする。まだ春の空は冷たくて、もう少し厚着をして来ればよかったかなと少し後悔をした。灰色のパーカーは良くても、いくら動きやすいからと言って半袖のズボンは失敗だ。


 空は曇り空で、携帯用のウェザーステーションによれば、風も少し増してきている。もう少し風が強くなれば、空を飛んでの配達も出来なくなる。だから、なるべく早く手紙を届けてしまわなければならない。森の中を歩いて配りに行くのも手間だし。


 まずは、大きな樹木の家に住むリスさんの家に。その後は、私が通う学校へ何かの書類を。


 そして、私は翼の速度調整を緩めて、少しスピードを上げた。


https://www.youtube.com/watch?v=kYwB-kZyNU4

稲葉曇『ポストシェルター』Vo. 弦巻マキ

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