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読むのは空気か心情か

 山に入って早々、刺客に狙われた。

 遅かれ早かれ来るとは思っていたが…ご丁寧に魔法陣まで使って察知されないように忍んで来るとか手が込み過ぎだろう。

 俺が力を解放すれば直ぐに片付けられるが、奴らがどこに潜んでいるか分からない以上下手に力の解放は出来ない。

 刺客に正体を知られるのだけは避けたいからな。

 解放を最終手段としたい俺はユアの魔法を利用した捕縛方法を提案した。

 …のだが…。


「ご命令通り調べましたのでご報告をさせて頂きます」


 お前!今のこの状況を見ろよ!

 刺客達をユアの元におびき寄せるため走っているのだが…空気の読めない臣下が繋げてきやがった!


「追い付かれそうですね。手助けしましょうか?」


 暢気に俺の横を並走する次元の鏡にイラッとした。

 お前が手を出したら何のために走っているのか分からなくなるだろう!!

 怒鳴りたいところだが余計な体力を使えず睨んだ。

 力を解放していない今の状態は人間の子供と変わらない身体能力だからだ。

 こいつもそれを分かっていて敢えてちょっかいを出してきているから腹が立つ。


「魔王様が仰ったのですよ。調べたら直ぐに報告しろと」


 言った…言ったが…この得意顔を今すぐ掴みたい!

 力を解放していない今の俺は次元の鏡を消すことが出来ない。

 いっそのこと力を解放してこいつもろとも抹消するか?

 しかし力を解放すれば俺が魔王だと気付かれるだけでなく、一緒にいるユアが俺の弱点だと知られる危険がある。

 ユア > 俺のプライド。

 俺の中での優先順位が決まった。

 だから、不本意だが、これだけはやりたくなかったが…。


「俺が悪かった…」

「これはこれで癖になりそうですね」


 両手で自分を抱きかかえ身震いしている臣下に虫唾が走った。

 誰かこいつの性癖を何とかしてくれ。


「これ以上いじめると魔王様を泣かしてしまうかもしれませんから仕方がないので後で繋げなおしましょう…いや。泣かせるのも有りか?」

「失せろ」


 渾身の睨みを利かせるとサマエルは恍惚な表情を浮かべながら消えていった。

 その後は邪魔も入ることなく闇商人の捕獲に成功したが、残念ながら自爆したせいで闇商人の正体が何者なのかまでは調べる事は出来なかった。

 途中、力も解放したがユアにも刺客にも見られてはいないはず。




「それで興奮されてしまったのですね」


 毎度のことだが、お前、俺の話聞いてた?

 確かに俺も男だから想いを寄せている女性に体を触られればそれは…。


「図星ですね」


 顔を赤らめた俺の反応にサマエルが無表情で言った。


「大丈夫ですよ。察しておりますから」


 それなら話題に出すなよ。

 ジト目でサマエルを見た。


 問題が解決した夜、直ぐにサマエルに繋いだ。

 早く繋がないといつ繋いでくるか分からないこの悪魔に恐怖するのだけは避けたかったからだ。


「それにしても闇商人ですか…」


 サマエルの言わんとしていることは分かっている。

 俺達魔族と闇商人は昔から因縁のある相手でもある。

 グリフォンの卵を奪い返した時は既に他の商人に引き渡された後だったが、王女が言っていたように直接奪ったのは間違いなく闇商人だ。

 奴らは卵だけでなく魔獣の皮や牙なども売りさばき膨大な金を手に入れている。

 一体それだけの資金を何に使っているのか…。


 俺達も闇商人を捕らえようと動いた時もあったが、奴らは忽然と姿を消す。

 今回の事で分かったが恐らく魔法陣を使用していたのだろう。

 あれだけの魔力を有する人間はそうそういない。

 操られていた神官。魔法陣。闇商人に教会が関与している可能性は十分高い。


「それで?あの大変な時にわざわざ繋げてきたからにはさぞ素晴らしい報告が聞けるんだろうな」

「地下の魔法陣の形状と似たようなものが文献に残されていたので直ぐに分かりましたよ。ただ随分古い文献だったので調べるのが大変でした」

「そのわりには指示してから二日ほどしか経っていないように思うが?」

「それは私が優秀だからですよ。感謝して下さい」


 どうせ城の奴らに徹夜でやらせて優雅に茶でも飲んでたんだろ。

 たぶん犠牲になったのはメフィストあたりか。


「その文献には初代魔王様を剣に封じた魔法陣とありました」


 あ…あの魔剣か…。

 思い出して思わず顔を歪めた。


「そんなに嫌わないであげて下さいよ。あの方が今も存在しているから我々魔族も生存出来ているのですから」


 確かに初代魔王が封じられた魔剣の力が溢れているから魔王が倒されても魔物達が弱体化するだけで済んでいるのは事実だ。

 だが…あれはとにかく癖が強い…。

 幼少の頃、一度だけ当時の魔王だった父に連れられて会いに行ったのだが剣先で突きまわされるわ剣身で尻を叩かれるわ…死ぬかと思った。

 あの頃はただ父が魔剣に用事があるのかと思っていたが、俺を魔王にする事をすでに考えていたのだろう。

 気持ちが沈んだ俺の心を知ってか知らずかサマエルは話を続けた。


「それとパネルの件ですが…」


 顔を上げるとサマエルがテヘッとふざけた顔をした。


「分かりませんでした」


 イラッとした。

 今すぐこいつの首を掴みたい。

 指をボキボキと鳴らすとサマエルが俺に落ち着けと手を振った。


「パネルと関係があるかは分かりませんが、人間が攻撃する時に奇妙な言葉を発するようになったのは一万年前からです」


 ユアが魔法を発する時に唱える呪文を思い出した。


「一万年前の魔物の手記に『聖女が現れてから人間が攻撃をしてくる時に不思議な言葉を発するようになった』と記されていました」


 もしこれがパネルと関係しているなら管理しているのは女神?

 それとも聖女が持っていたものを人間が利用するようになった?

 母様は人間だったがパネルの事を聞いたことはない。

 俺も人間とのハーフだがユアのようにパネルが出現することはない。

 何か条件があるのか?

 こればかりは勇者野郎達を観察していくしかないか…。


「聖剣は北の地のどこにあるかわかるか?」

「確か雪の精霊ヨクルが管理する氷山だったと思いますが」

「その氷山にズメイを向わせろ」

「ええ!?私がやるのですか…?」

「むしろお前しか出来ないだろう」


 相手はドラゴン。

 他の奴なら即死させられる可能性がある。


「連れて行く前に燃やされちゃいますよ」

「骨は拾ってやる」

「スカートの制作も遅れますし」

「…お前、一生懸命作っているがユアには着させないぞ」


 こいつが作る物など怪しくてユアに着させられない。


「酷い!着たら絶対魔王様なんか鼻血吹くくらい気に入りそうなのに!!」

「そんなもん着させられるか!!」


 絶対露出の高い服だろ!


「思わず抱きしめたくなる仕様ですよ」


 隠すためにな。


「それユアに渡す前に…燃やすからな」

「ユア様の新境地を開く事になるかもしれないのに?」

「そんな変な新境地は開かんでいい」

「そう言いながら二人きりの時ならと思っているのではないですか?」


 一瞬言葉に詰まった。

 二人きりなら…いやいや!よくないだろ!

 ユアの想いも聞いてないのにそんなものを渡したら変人確定だろ!

 ニヤつくサマエルに咳払いをした。


「着せるかどうかは別にして折角だし仕上がったら一度見てやるよ」

「お任せください。このサマエル、必ずや魔王様のご期待に沿えるような仕上がりにしてみせます」


 綺麗な所作で挨拶すると消えていった。


 静かになった森に冷たい風が吹いた。

 独身男達のやり取りが虚しく感じるのは気のせいだろうか…。





読んで頂きありがとうございます。

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