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類は友を呼ぶ

 ユアが完治して出発する前夜、俺は勇者野郎達に呼び出しをくらっていた。


「ユアが回復したら君を先に送り届けようと思う」


 送り届けるって魔王の城にか?

 鼻で笑った。


「お前等だけじゃまたあいつを危険な目に合わせるかもしれない」

「そんな事にはならないよう俺が護るから」

「信用できるか。あいつがお前らに付いて行く以上、俺も付いていく」


 何より勇者野郎とユアの仲が深まるのだけは阻止したい。


「いいんじゃない?この子、別に邪魔になるわけでもないし」


 王女が俺の味方をした。

 お前は生かしておいてやる。


「しかし先に送り届けた方がいいと思うが。ここから先は益々過酷になるだろうから」


 お前は黙れ。ただの一剣士風情が。

 二人の意見を聞いた勇者野郎は俺を見据えた。

 喧嘩売ってんのか?上等だ!

 俺は勇者野郎にガンを垂れた。


「ユアも彼には心を開いているし、一緒の方が安心するなら…。その代わり!付いて行けないと判断したら町に預けていくからな」


 お前、魔王を馬鹿にしてんのか?

 修羅場の数ならお前よりくぐってきてるわ。

 とは言えず、知らん顔を決め込んだのだった。



 旅が再開された。

 ユアは俺が修繕した服を着ていた。

 実はこの服、少しだけ改変されているのだ。

 そうあれはサマエルに修繕するよう脅しをかけた時だった。


「私が魔王様の為にこの服を魔王様好みに仕上げてみせましょう」


 不安しかない。

 俺は念の為、サマエルにどのように修繕したいのか紙に書き起こせと命じた。

 すると自信満々で持ってきたサマエルの修繕案に目を通した俺は…瞬時に燃やした。

 ベルトには可愛いドクロ、ブーツの底は勇者野郎と同じ背丈になるのではと思われるような厚みがあり、スカートは更に短く…ってどこの小悪魔だよ!!

 これで俺好みとかぬかすな。

 そもそもこいつの女性の基準はウチの女悪魔共だ。

 あいつらの恰好はとにかく露出が激しく悪い女感満載で、ユアとは正反対に位置する存在。

 サマエルは何が気に入らないのだと首を傾げていたが…完全に人選いや悪魔選を間違えた。

 俺は変な事をせずに普通に直せと命じた。

 …はずだった。

 …ユアの後ろの首元に服の色と同色の小さなドクロが見えるのだが。

 そんなにドクロが好きか。

 ならお前をドクロにしてやるわ!!



 サマエルのお仕置きは後日として、今は新たな問題に直面した。

 村の子供がいなくなるという事件が発生したのだ。

 勇者野郎と剣士野郎は魔物が原因だと言い切ったが俺の見解は違う。

 この周辺に魔物の気配はしない。

 それがむしろ違和感だった。

 これほど奥深い森の中に魔物が一体もいないなど有り得ない。

 誰かが故意に排除したとしか思えない。

 恐らく誘拐するのに邪魔だと判断されたのだろう。

 誘拐犯を必ず見つけて償わせてやる。



 笛の音を確認した翌日、俺達は事情を知っていそうな奴から話を聞いた。

 12人の子供の誘拐…。

 嫌な予感に胸が騒いだ。

 俺の予想が当たっていれば、この誘拐事件は今夜で終了するはずだ。

 犯人を捕まえるためにも最後の一人は俺になる必要がある。


「笛の音が効かなかった俺とユアで敵のアジトを探る」


 俺はユアを巻き込んでアジトに潜入する提案をした。

 うるさい男共は猛反対だったがユアを敢えて危険な場所に連れて行く提案をしたのには理由があった。

 笛の音が効かないユアが独断で動く危険があったからだ。

 俺が犯人に付いて行ったら恐らくこいつはこっそりと後を付けようとするだろう。

 どんくさいユアの事だ。

 尾行に気付かれる危険性…大いにあり。

 それなら大人しく俺の傍にいてくれた方が、俺が安心する。

 そんな事を考えての提案だったのだが…。


「これでどうでちゅか?」


 心臓を撃ち抜かれた。

 予想以上の打撃に俺は生命の危機を感じた。

 ユアは大きな耳にクリッとした大きな瞳を俺に向けてきた。

 籠に閉じ込めたい…。

 欲望が爆発した瞬間だった。

 しかし俺は直ぐに違う危機に直面した。

 勇者野郎まで魅入られている!

 直ぐにユアを隠すと俺は二人きりになれるよう部屋へと移動した。


 部屋に入るとユアが元の姿に戻りたいと言い出した。

 ユアを俺の腕の中に閉じ込めておける絶好の機会を逃しはしない。

 適当に理由を付けるとユアは小さな首を傾げながらも素直に従った。

 従順なユアが可愛すぎる…。

 俺の周り、癖のある奴等しかいないから。

 ご褒美に指で撫でてやるとユアは小さな手で俺の指を掴んだ。

 これ持って帰っていいかな。

 緩みそうになる顔を引き締めながら煩悩と戦いまくった。


 しばらく撫でているとユアが眠ってしまった。

 小さく丸まった姿が愛おしくて優しく抱き寄せた。


「お幸せそうで何よりです」


 顔を上げるとここにいるはずのない悪魔が覗き込んでいた。


「お前!何してるんだ!!」


 ユアがうんっと眉間に皺を寄せた。


「魔王様。お静かに」


 サマエルはしーっと自分の口に指を当てた。

 俺は自分の口を手で塞ぎながらサマエルを睨んだ。


「お前、城は?」

「メフィストに押し付けてきたので問題はありません」


 それ問題だらけだろう。


「私だってたまには息抜きしたいのです。上司はずっと帰らず楽しい日々を謳歌して、部下の私はずっと城にこもって仕事三昧…ブラックもいいところです」

「俺だって遊んでいるわけじゃない!」


 声を潜めてサマエルを怒鳴った。


「ネズミと楽しく戯れているようにしか見えませんが?ちなみにネズミはネズミ族にお返ししないと」

「ネズミじゃない!ユアだ!」

「なんと!?ユア様はネズミだったのですか!」


 こいつとは話にならない…。


「人魚の帽子を使ったんだ…」

「おお!あれですか。あれいいですよね。私も欲しいです」


 お前が手に入れたらろくなことに使わないだろ。

 例えばユアに変身して俺の寝室に潜り込むとか…有り得そうで怖すぎる!


「ところで本当に何しに来たんだ?ただ俺に会いに来たってわけじゃないんだろ?」


 こいつがわざわざ昼間に人間の地に来ること事態珍しい。

 余程の用事なのだろう。


「ええ。実は大事な物をお渡しするのを忘れておりまして…」

「大事な物…?」


 今、必要としている物はないと思うが…。


「これでございます」


 サマエルが両手を添えて俺に差し出した。


「以前、お叱りを受けたので改良してみました」


 そこにあったのは小穴がドクロの形をしたベルト…。

 本当に死にたいらしいな。

 俺は目を赤くさせると瞬時に火をつけて溶かした。サマエルと共に。

 「あっ…」ちょっと悦に浸る声を上げるサマエルに虫唾が走った。

 人材募集でもかけようかな…。



 そんな俺とサマエルのやり取りを知らないユアは起きて早々に部屋の異変に気が付いた。


「火事でちゅ!?」

「大丈夫。小火(ボヤ)だから」


 顔が半壊していたが、ドクロにするまでは無理だった。

 さすがは大悪魔といったところか。

 しかも次に会う時には元に戻っているだろうしな。


「ヴァルは怪我してないでちゅか?」


 ユアが小さな手で俺の指をペタペタと触った。

 あの変態の後だから一層可愛く見える。

 ユアになら溶かされてもいい…ん?


 この時気付いてしまった。

 俺もサマエルと同類だという事に…。





読んで頂きありがとうございます。

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