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名前の分からない感情

 俺は今、不機嫌だ。

 勇者野郎がユアに色目を使っているからだ。

 ユアもユアだ。

 なんでこんな野郎の愛称を呼んでんだよ。

 俺は許してねえぞ。

 ユアの一挙手一投足にイライラする。

 理由の分からないストレスを魔物達にぶつけているとユアのレベルがみるみる上がっていった。


 レベルが上がる方法について色々試して分かったことがあった。

 まずユアと俺が同じ場所で戦闘していないとレベルが上がらないということ。

 離れた場所で試してみたがユアのパネルには変化が見られなかった。

 次にユアが戦闘体勢に入っていること。

 武器を構えて少しでも相手に攻撃を加えないと戦闘をしているとみなされず『倒した』と判断されないようだ。

 様々な実験をしながら進んでいると騒がしい街に到着した。



 面倒だ。非常に面倒だ。何が面倒って、ユアが強いと言われている魔物を退治しに行くと意気込んでいるからだ。

 ユア自身も魔物を倒そうと考えているわけではなく、恐らくどこかに移動させようと考えているのだろう…風呂のために。

 しかし気になるのは強い魔物だ。

 人間達が苦戦する魔物の居場所は大体把握している。

 何故ならそういう魔物達が本気を出すと世界に多大なる影響を及ぼしてしまうからだ。

 例えばドラゴンや幻獣、上位悪魔などがそれにあたる。

 だが強い奴のほとんどが高い知能を有しており、話の分かる奴らが多い…悪魔達は厄介な奴の方が多いけどな。

 俺の記憶が正しければこの辺りにそれらしい魔物はいない。

 だとすると俺が把握していない奴が陣取っているということか?

 これは俺としても気になるところだ。

 ユアと目的は違うが確認する必要がありそうだな。



 山に到着するとほとんど魔物の気配を感じない。

 前を歩く二人が先に来た冒険者達が駆逐したのではないかと話していた。

 その冒険者共、見つけたら一人残らず駆逐してやる。


 山をしばらく登ると洞窟に辿り着いた。

 洞窟からは強い魔物の気配を感じた。

 予想通り俺の知らない魔物がここを拠点にしているようだ。

 話しの分かる奴ならいいのだが…。

 一抹の不安を抱き洞窟に足を踏み入れた。


 洞窟に入ると直ぐに俺の袖が引かれた。

 何事かと袖を見ると震えながら強く握りしめている拳が見えた。

 拳の先には挙動不審に周囲を見渡すユアがいた。

 え?もしかしてこの何もないただの洞窟が怖いのか?

 有り得ないだろ。

 しかしユアの体は終始震えっぱなしだ。

 袖から伝わる温もりに頼られるのも悪くないかなと少し気分が高揚した。

 しかも前を歩くあいつがチラチラとこちらを気にしている姿が滑稽で優越感に浸れたのも気分が良かった。


 開けた場所に出ると魔物の気配が濃くなった。

 いる。

 周囲を警戒すると鋭い爪が振り下ろされた。

 避ける体制を取ろうとして焦った。

 ユアは魔物に気付いておらず壊れた管をまだ眺めていたからだ。

 届け!

 手を伸ばしてユアの背中を掴み勢いよく後ろに引くと、爪はユアの目の前をかすめた。

 ようやく魔物の存在に気付いたユアは戦闘態勢に入った。

 相手ははぐれグリフォンか。

 しかも我を忘れて襲ってきている。

 これは一度冷静にさせる必要がありそうだ。

 核を握るか?

 だが怒りの理由が分からない以上、目を覚ましてもまた襲ってくる可能性がある。

 どうする?


『人間共!私の子供を返せ!!』


 グリフォンの怒りの声が頭に響いてきた。

 子供?もしかしてあれか!?

 ローレンベルクに向かう途中で制裁を加えた商人が持っていた卵。

 あれはもしかしてこのグリフォンの卵か!?

 だとすれば解決するかもしれない。

 俺はグリフォンの核を握ろうと構えた。

 すると「嫌ーーーーー!!」とユアの叫び声が洞窟内に響いた。

 今度は何だ!?

 振り返るとユアに巨大な蜘蛛の大群が迫っていた。

 俺は咄嗟に標的をグリフォンから蜘蛛共に変えた。

 核を掴まれた蜘蛛は俺の存在に気付くと一目散に逃げ出した。

 ハラハラさせるなよ。

 謀反を起こされてもここまで心臓に悪い戦いはなかった。

 しかも雑魚相手に。


 胸を撫で下ろしているとユアがグリフォンを倒すなと言ってきた。

 何かあるのかと見守っていると雷を強化してグリフォンを気絶させた。

 グリフォンならこの程度の雷では死なないだろう。

 だが他の奴等は納得出来ずヒステリックに怒り出した。

 まあそうなるよな。

 だが次のユアの言葉に目を見開いた。


「この魔物の声が聞こえたんです」


 グリフォンは確かに訴えてはいたが我を忘れて言語を変換していなかった。

 だから人間には咆哮にしか聞こえなかったはずだ。

 それが聞こえた?

 こいつ本当に人間なのか?

 いや、ここまで一緒にいてこいつは間違いなく人間だ。

 ユア。一体お前は何者なんだ?

 驚く俺を余所にグリフォンとユア達は今後について話し合っていた。

 結局こいつらでは解決策が見つからずグリフォンは落胆した。

 他の奴らが町に戻る為背を向けたのを見計らい、俺はグリフォンの耳元で囁いた。


「お前の卵はグリフォンの群れに預けている」


 案の定グリフォンは喜びを爆発させ、貴重なグリフォンの羽までプレゼントしてくれた。

 けれどユアにグリフォンの羽について説明してやると喜ぶどころか困惑していた。

 そして何故か命名したのだが…。


「じゃあこれをグリフォンの羽と呼ぼう!」


 俺、そう言ったよね?

 今度は俺の方が困惑した。

 本当によくわからない女だ。



 お風呂に入れないショックで二日気絶していたユアが目覚めてようやく次の目的地に向かうことになった。

 向かうのはシュレバナール。

 砂漠か。確か罠を仕掛けて獲物を待つ魔物が多かったな。

 俺は横目でユアの様子を窺った。

 他の三人も不安そうにユアを見ている。

 今までの行動を見ているとこいつはかなりどんくさい。

 俺のさりげないフォローのお陰で何度も命を救われていることをこいつは知らない。

 そんな事を考えていると勇者野郎が余計な一言を発した。


「何かあれば俺が守るから」


 はあ!?こいつが今まで無事だったのは俺のお陰だぞ!

 何もしていないお前が偉そうに言うんじゃねえ!


 さらに俺のイライラは続く。

 馬車に乗り込んだ勇者野郎がユアの隣に座りやがった。

 明らかに前に座る王女が睨んでいる。

 ユアに負けず劣らず鈍感の勇者野郎にさすがのユアも予想外だったのか居心地悪そうに縮こまっていた。


 馬車が動き出してしばらくするとガタリと揺れた拍子に俺の右肩に重みを感じた。

 顔を横に向けるといい匂いのするユアの頭部が見えた。

 居眠りしているユアに思わず頬が緩みそうになっていると勇者野郎がこちらを覗き込んできた。


「重いだろ。俺の方に寄りかからせてあげるよ」


 ユアに触れようとする勇者を睨んだ。


「触るな。起きるだろ」

「前から気になっていたけど、君は俺の事が嫌いなのか?」


 俺の物言いが気に入らない勇者はムッとしていた。

 俺とお前は相反する存在。

 分かり合えるわけがない。


「嫌いに決まってるだろ。こいつに馴れ馴れしくしやがって」

「俺が誰と仲良くしようが君には関係ないと思うが?」

「関係大ありだ。こいつは俺のモノだ」

「彼女は彼女であって誰のものでもない!」


 さすがの勇者も堪忍袋の緒が切れたのか語気を強めた。

 一触即発の空気を打ち破ったのは他でもないユアだった。

 事情を知らないユアは到着するまで終始首を傾げていた。



 砂漠を歩き始めると勇者野郎がユアにマントをかけてあげていた。

 なに笑ってんだよ。

 嬉しそうに笑うユアにモヤモヤとした嫌な感情が沸き上がった。

 だが確かに勇者野郎は俺と違い女の扱いに慣れている。

 そこは認めざるを得ない。

 ユアもこういう男が好きなのか?

 だがユアは勇者よりも大人になった俺の方に興味があるらしい。

 ユアの言葉に心が躍った。

 ユアが望むならペンダントの魔力を放出するか?

 バカか俺は。そんなことをしたら怯えさせるだけだろう。

 何を浮かれているんだ。

 そもそも人間の動向を探るためにこの女を利用しているだけなのにこいつが好きな人間に興味持つとか…正気か!?

 冷静になれ俺!


 雑念を振り払うため首を振っていると「キャア!!」ユアの悲鳴が聞こえて振り返ると…やっぱり嵌ってんじゃねえか!!

 巨大な蟻地獄にまんまと引っかかるユアに冷静になる暇もない。

 ズルズルと泣きながら引きずり込まれていくユアの先の魔物の核を握り締めると魔物は驚き退散していった。


 魔物が去った事で砂の動きも止まり、無事引き上げられたユアに安堵したのだが。


「私って不味そうかな…?」


 どちらかと言えば美味そうだが?

 何故かショックを受けているユアにもしかして食べられたかったのか?と首を傾げずにはいられなかった。





読んで頂きありがとうございます。

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