未来が見える少年と、死にかけ少女
いまプロット作っているもので、読んで下さった方に何かしたら感想を頂けると幸いです。
三角型の屋根の同じような家が等間隔に建て並ぶ住宅街。
セーラー服を着た二人組の中学生。
家の前の道路を箒で掃除しているおばさん。
スマホを見ながら歩くスーツを着たサラリーマン。
子供を後ろに乗せたママチャリを漕ぐママさん。
いつも通る道で、いつも会う人達だ。会うだけで、挨拶も交わしたことは一回も無い。
ご近所付き合いは大切なんだろうけど、仲良くするのは飽くまで隣の家の人と真正面にある家の人だけで十分だ。
「ふあ〜」
春の陽気がとても気持ちよく、春らしい暖かな風が、せっかく目が覚めてきた意識に眠気を誘ってくる。
寝そうになっている意識をギリギリで保つ。
こうも、昼寝に最適な日々が続くと、学校なんて行かずに、気持ちいい日を全身で浴びれる縁側で一日中寝てたいな。
まあ、学校に行くけど。
住宅街を抜けると、大通りにでてくる。
大通りにでてくると、朝の通勤ラッシュで車の通行も頻繁になり、人の通りも多くなってきている。
少し歩くと、前の方が全く見えないぐらいの人集りができていた。多分、赤信号待ちだと思う。信号が見えないから分からないけど。
この時間帯は、通勤の人がやけに多いから、こうなるのも必然と言える。
それを分かってのことか、ここだけ青信号の時間が他のに比べて長い。
今、信号待ちしている全員が渡れるぐらいの時間はあると思う。
「いたっ!」
頭に鈍器で殴られたような鈍い痛みが襲ってくる。手で頭を抑え、つい声にだしてしまうぐらい痛い。
少し経つと、治まってきた。
別に偏頭痛持ちとかではない。じゃあ、何かと言うと───"予知"だ。
いきなり、そんなことを言われても信じられないだろうけど、俺、八雲楓は二つ不思議な力が使えるんだ。
その一つが、確定した未来が見える"予知"と言う力だ。
ただ、この力は自由自在に使えるという訳ではなく、唐突に頭に頭痛が走って、動画のワンシーンみたいに流れこんでくるんだ。
この力は厄介なことに、見てしまった未来は必ず現実で起こってしまう。
しかも、人が死んだり、重症を負うような危ない目にあう未来しか見せてこない。
今、痛みと一緒に見えた未来は、
"女の子が車に轢かれて死ぬ"と言うものだ。
そして、もう一つ厄介なことに、予知で見た未来は俺がいる場所で必ず起きる、しかも、見た時間から短時間でだ。
だから、この交差点で今から起きるんだ。
ああ、本当に忌々しい、どうせ起きるなら、せめて俺の居ないところで起きてくれればいいのに。
さっきまでの眠気が嘘のように無くなり、身体が震え始めて、額から嫌な汗がでてくる。
予知で見えたのは、一人だけだ。だから、この人集りが居なくなってから起きるんだろう。つまり、後から来るって言いたいが、一度だけ同じような"予知"を見たことがある。
その時も、一人だけが死ぬ未来だったけど、一人だけではなく大勢の人が死んでしまった。
だから、今回のも一人だけじゃないかもしれない。そうなったら、俺にはどうしようもない。
自分だけ助かる道を選ぶのが妥当だろう。どうせ、守りきれないんだから。一人助けたぐらいで何も変わりはしない。
──────んな、わけあるか。
俺は拳を強く握って、身体の震えを止める。
信号が青に変わったのか、人集りが動きだす。
一人でも多く、助けるんだ。これは、俺が起こしてしまったものだから。
動きだす人集り中、俺は"予知"で見えた女の子を探す。
亜麻色の髪で、黒と白の制服を着た女の子。多分、俺と同じ高校の制服だ。それなら、嫌という程見ているから見つけれるはずだ。
────何処だ、何処にいる。
目を限界まで見開き、人集りを隈無く見回す。
右、左、前、後ろと、動き回る度に止まり、見回す。
いない……。本当に、この人集りが居なくなってから、起きることなのか。だけど、そうなると、俺が居なくなるのと同じだ。
予知で見てきた未来はどれも、俺の周りで起きてきた。今回もそうじゃないのか?
いや、考えている暇はない。探すんだ。
もうすぐ全員渡りきってしまう。信号も人型の緑色の光がピコピコ、と点滅し始めている。
さすがにこのままだと危ないから、俺は横断歩道を渡りきる。
結局、いなかった。
本当に、俺が居ない所で起きる未来が見えるのか。
この手で、救うことはできないのか。それが唯一俺が懺悔できることだって言うのに。
最後に、後ろを見て諦めよう。それで居なかったら、もう俺にはどうしようもない。
俺は後ろを見た時、目を見開き、口を開けて驚愕した。
何かを落としたらしく、赤信号なのに、横断歩道に膝を着けて座る女の子。
落とした物は拾えたらしく、ほっとした様子で立ち上がる。運がいいのか、車が一切通る気配がない。
亜麻色の髪、黒と白の制服。ああ、あの子だ。
俺は見つけれたことに安堵し、足に思いっきり力を入れて女子高生に向かって全力疾走する。
さっきまで何も通らなかった道路に空気を読まない軽トラックが走ってきていた。あれも、予知で見た車だ。
今なら、間に合うかもしれない。いや、間に合わせるんだ! 絶対に!!
軽トラックは止まる素振りは一切見せず、怒涛の勢いで女子高生に迫ってきている。
女子高生は、それに気づいて、足が竦んだのか、立ち止まってしまっている。
お願いだ!動いてくれ! 頼む!!!
俺と女の子までの距離は飛びつけば届く距離までに縮まっていた。だけど、軽トラックの方も女の子の直ぐ側まで接近していた。
まにあええええぇぇぇええ!!!!!
「…………ハアハア、間に合った」
間一髪と、俺は女の子に抱きつくことができて、庇いながら押し倒すことができた。
ドンッッッッ!!!ガシャャャャン!!!
軽トラックは物凄い音を立てて、電柱とガードレールに突っ込んで止まった。音からして、かなりのスピードがでてたんだと実感する。
もし、あれに轢かれていたら…………。
想像するだけで、顔から血の気が引いた。
俺は息を整えてから、立ち上がる。女の子の方は、何が起きたのか分かってなさそうな顔をして放心していた。
まあ、無理もない。すぐそこまで"死の恐怖"が迫っていたんだから。
俺は女の子を放置して、その場を立ち去ろうとする。
もう、助けたんだ、これ以上、関わる理由がない。
冷たいと思うかもしれないけど、彼女は俺のせいで危ない目に遭ったんだ。どんな顔をして声をかければいいか分からない。
「あ、ちょっと!!」
何か声が聞こえたけど、俺は無視して、事故が起きて車の通行が止まっているうちに、俺は走って行った。