第6話 朝日の気持ち
山下家で色々と濃い一日を過ごした次の日の、日曜日の昼過ぎ。
渡辺朝日は一人、とある喫茶店に来ていた。とはいえ、まだ注文はしておらず。
朝日は、待ち合わせの約束をしている友人を、スマホを眺めながら待っていた。
そして、約束した時間の、丁度十分前になった時。
「お待たせ朝日、少し待たせてしまったかしら」
一人の女性が、朝日に話しかけて来た。
「ううん、そんな事ないよ、私も着いたのは少し前だし。それより、折角の休みなのに、急に呼び出してごめんね」
朝日が、少し申し訳なさそうにそう言うと。
「別にいいわよ。今日は割と暇だったから、いい時間潰しにさせてもらうわ」
そう言って彼女、朝日の親友であり、彼女が密かに憧れを抱いている少女。
綺麗な黒色のロングヘアに、女性としては高めの、160㎝越えの長身。体も細身で胸も大きい抜群のスタイルを誇り、まだ高校生とは思えない程に、綺麗に整った大和撫子という言葉がぴったりな、整った顔立ちの美少女。
藤宮鈴華が、朝日の前の席に腰掛けた。
その後、二人は自分のメニューを決めてから注文を済ませ、料理が届くのを待って居た。すると、
「それで、相談というのは何かしら。まあ朝日の事だから、何となく予想はついてるけど」
そう言って、鈴華が話を切り出した。なので、
「多分、鈴華ちゃんの予想通りだと思うんだけど。優人の事だよ」
「やっぱりね」
朝日の言葉を聞いて、鈴華は特に驚いた様子もなくそう答えた。そして、
「それで、何があったの? もしかして、ついに念願かなって、愛しの彼に告白されたのかしら?」
鈴華は、少しからかう様な口調でそう言ったが。
「それだったら、どれだけよかったか」
朝日は、ため息をつきながらそう言った。そして、
「助けて鈴華ちゃん。このままだと私、一生優人と付き合えないよ!」
朝日は鈴華に、必死な声でそう言った。なので、
「落ち着きなさい朝日。取りあえず、何があったのか教えてくれないかしら?」
少し狼狽えてる朝日に対して、鈴華は冷静にそう言った。そして、
「丁度、ランチも来たみたいだし、食べながら聞かせてもらうわ」
彼女がそう言うと、女性定員が二人の席の前に現れ。鈴華が注文したサンドイッチセットを並べ、席を離れた。
因みに、朝日が注文したオムライスセットは、まだ作ってる途中なのか、来る気配はなかった。
「うん、実は」
そう言って、朝日は昨日の出来事を、包み隠さずに話し始めた。優人の家に行って、一緒に昼ご飯を食べたり、雑談したり、恋人ごっこをして過ごし。そして、
「恋人を作るつもりはない」
と、優人が言った事も。さり気なく言われた一言なので、優人自身は、もう言った事すら覚えていないかもしれないが。朝日はその一言がひどく気になっていて、今日こうして、鈴華を呼び出したのだ。
そして、最後まで、食事をしながら黙って話を聞いていた鈴華は、全ての話を聞き終えて、冷静に言葉を紡いだ。
「正直な感想を言うと、永遠に惚気話を聞かされて、胸焼けするところだったのだけど。コーヒーがあって助かったわ」
「えっと、それはごめん」
そう言って朝日は、先程届いたばかりのオムライス定食には手を出さず。脇に置いてあったオレンジジュースに手を伸ばし、ストローでちびちびと吸い始めた。
「まあ、朝日の惚気話は聞き慣れてるからいいわ。今日のはいつも以上に、甘かったけどね」
そう言って、鈴華は言葉を切り。
「それで、貴方の悩みというのは。山下くんのことが好きすぎて、このままだと、いつか襲ってしまいそうで怖いというモノだったかしら」
「ぶほっつ!」
鈴華に真顔でそんな事を言われ、朝日は飲んでいたジュースを喉に詰まらせてせき込んだ。
「いきなり何を言い出すのよ、鈴華ちゃん!」
そして、口元をナフキンで拭きながら、朝日はそう言った。
「ごめんなさい、たっふり惚気話を聞かされたから、せめてものお返しよ」
鈴華は、僅かに表情を綻ばせ、そう言った。
「でも、私の言った事もあながち間違っていないと思うわよ。貴方の方から膝枕を頼んで、その上キスまでせがむなんて、もはや欲望を隠せてないじゃない」
「……確かに昨日は、ちょっと暴走してた事は認めるこど。でもそれは、優人との恋人関係に少し浮かれてただけで、いつもはそんな事ないもん」
「そうかしら。朝日は割と普段から、彼に甘えまくっていると思うけど。それに、恋人関係と言っても、ただのごっこ遊びだけどね」
「……鈴華ちゃんの意地悪。もういい、この事は自分で何とかするから」
朝日は頬を膨らませ、そっぽを向いた。
「ごめんなさい、少しからかっただけよ。この後はからかわず、きちんと相談に乗ってあげるから、機嫌を直しない」
「……本当?」
「ええ、色々と話がそれたけど。要するに、山下くんが誰とも付き合わなうつもりはないと言ったから、彼に告白してもらいたい朝日としては、不安なのよね」
「そうだよ。というか優人は、私がこれだけアピールしてるんだから、そろそろ私の気持ちに答えて欲しいんだけど」
朝日は、不服そうにそう言った。
「そんなに不安なら、朝日の方から告白したらいいんだけど、そういう訳にはいかないのよね」
「うん。優人には、一度私の方から告白して、振られてるからね。今度は優人の方からしてもらわないと」
朝日はさらっと、爆弾発言をしたが。既に本人から聞いていた鈴華は、特に驚くこともなかった。
「その話も本当、よく分からないわ。好きだけど今は付き合えないから、自分が改めて告白するまで待っていて欲しいと、山下くんに言われたんでしょう? 幼なじみで、その上両思いなのだから、迷うことなくOKすればいいのに。山下くんは何を思って、そんな事を言ったのかしら?」
「まあ、理由は何となく分かってるけどね」
「でも、私には教えられないと」
鈴華がそう言うと。
「えっと、ごめんね鈴華ちゃん。これは私たち二人の問題だから、私の一存だけでじゃあ話せないな」
「そう、まあいいわ。十数年も幼なじみをやってたら、人に言えない、恥かしい話の一つや二つ出来るわよね」
鈴華がそう言うと。
「別にこれは、恥かしい話じゃないから。でも、私たちの間では大事な出来事かな」
朝日は、過去を懐かしむ様な。しかし、どこか悲しそうな不思議な表情をしていた。初めて朝日のそんな表情を観た鈴華は、一瞬言葉を失うが、直ぐに頭を切り替え。
「はいはい、貴方たちにとっては大切な出来事だという事は分かったわ。それより、話を戻しましょう。朝日が、山下くんに告白してもらえなさそうで困っているという事は分かったけど。貴方は今後どうしたの?」
鈴華がそう言うと、朝日は一瞬、黙ったが。
「それは、昨日優人と恋人ごっとをして思ったの。私やっぱり、優人の事が好きだから、今すぐにでも付き合いたいって」
「でも、自分から告白するつもりはないのでしょう?」
「うん。だから鈴華ちゃん、どうすれば優人が私に告白してくれるか、一緒に考えてよ」
朝日はそう言った。しかし、
「そんなの、私が知りたいわよ。朝日があれだけアピールをしていて。その上、山下くんは、朝日が自分に恋愛感情を持っていると分かっているのに。それでも告白するつもりがないんだから、これはもうお手上げ。神様にでも願って、彼が心変わりするのを願うしかないでしょう」
「そんなあ、見捨てないでよ。鈴華ちゃん」
朝日はそう言ったが。
「そうは言ってもね。私としては、山下くんが告白しない理由は、二人の過去の出来事にあると思っているのだけど。話してもらえないから、検証の仕様もないわ」
「それは、ごめん。でも、鈴華ちゃんの推測は多分正解だよ。優人は、あの事を気にしてるから、未だに私の好意に答えてくれないんだと思う」
「なら、その不安を取り除いてあげればいいんじゃないかしら?」
「そうなんだけど、それはちょっと難しいかな。これは、優人の気持ちの問題だから」
「そう、それならもっと頑張って彼にアピールして、そんな過去の出来事がどうでも思えるくらい、貴方にメロメロになってもらうしかないんじゃないの?」
鈴華は、少し投げやりな感じでにそう言ったが。
「やっぱり! 鈴華ちゃんもそう思う?」
それを聞いて、朝日は急にテンションを上げて、そう言った。
「……ええ、というかその様子だと、貴方の中で答えはもう出てたんじゃない」
それを観た朝日は、呆れた様子でそう言った。
「まあ、そうなんだけど。でも、優人の方から告白してくれるって言ってたのに、急かすような事をしていいのかなって、ちょっと不安で」
「……そうね、二人の事情は分からないから、あまり無責任は発言はしたくないのだけど。別にいいんじゃないの? 好きな人にアピールするなんて、誰だってしてるだろうし。そもそも貴方は、家でも学校でも彼にべったりなんだから、今更そんな事、気にしても遅いと思うわよ」
「え、そんな事ないよ。優人の家でなら、多少はいちゃつてるかもしれないけど。学校でしてるのは、ただの幼なじみのスキンシップだよ」
朝日はそんな風に言ったが。
「朝日の言うスキンシップは、貴方を犬に例えると、山下くんに全力で尻尾を振りながら、顔をべとべとになるくらい舐めまわしてるくらいに、激しいモノなのよ」
鈴華は冷静に、そんな事を言った。
「べ、別に、尻尾なんて振ってないよ。それに、優人の顔を舐めるなんてそんな大胆な事……ふへへ」
「はいはい、変な妄想はほどほどにね。それで、どうするの? これまで以上に頑張って、山下くんにアピールするの?」
鈴華がそう聞くと。
「うん、このまま過ごしても、優人と付き合える気がしないし、頑張ってアピールしてみるよ」
朝日はそう言った。こんなに早く言い切る辺り、朝日の中では既にそうつもりだったが、最後の一押しが欲しかったのだろう。
鈴華はその事に、何となく気付いはいたが。朝日の恋を去年一年間応援していた鈴華としては、この変化は望ましい事だったので、下手な事を言うのは止めた。なので、
「そう、いいんじゃないかしら。来週からは丁度ゴールデンウィークだし、アピールには絶好の機会でしょうからね」
そう言って、鈴華はさり気なく、朝日の背中を押した。
「うん、そうだね」
朝日はそう言ったが。少し考えて、
「でも、アピールするって言っても、具体的にはどうしたらいいのかな?」
そんな情けない事を言った。とは言え、あれだけアピールしても靡かない優人の心を動かす案がそうそう出て来ないのも、無理がないだろう。すると、
「そうね、ゴールデンウィーク中の予定は、後々考えるとして。私から一つ、先にアドバイスしておくわ」
「アドバイス?」
「ええ。今までの態度でも十分すぎるくらい、貴方たちはいちゃついているけど、それじゃあ山下くんを落とすには足りないわ。だから……」
そう言って、鈴華は朝日に一つ助言をした。




