第38話 デート当日 終
「着いたぞ」
優人は、一つの建物の前で立ち止まりそう言った。すると、
「……ねえ、優人」
「なんだ?」
「随分高そうな店だけど、本当にここで合ってるの?」
朝日がそう言うのも無理はない。二人が訪れたのは、「わさび」と、達筆な字で書かれた看板が張られている、如何にも高そうな店で、朝日は、本当は別の場所なのではないかと思い、そう言ったのだが。
「いや、ここで合ってるよ。元々予約しておいたしな」
と言うと、優人は朝日の手を引き、そのまま店の中へと入って行った。
「いらっしゃいませ」
店内に入ると、着物を着た女性にそう言って出迎えられた。なので、
「すみません、今日の19時に予約しておいた、山下ですけど」
優人がそう言うと。
「ええ、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
と言って、彼女は二人を、店の奥の部屋へと、案内し始めた。
「それでは、ごゆっくりお待ちください」
その後、二人は和室の部屋へと案内され。二人が席に着いたのを見た後、女将はそう言って襖を閉め、部屋を後にした。すると、
「夕食を食べに行くんだろうなとは思ってたけど、こんな所だとは思わなかったな」
朝日は、少し苦笑いを浮かべながらそう言った。なので、
「意外だったか?」
優人がそう聞くと。
「今日だけで、随分その言葉を聞いたからね。それに優人の事だから、ラーメン屋とか、よくてファミレスとかだと思ってたから」
「まあ、それも考えたけど、折角のデートなんだから、少しくらいかっこ付けたかったんだよ」
優人がそう言うと。
「まあ、私としては嬉しいし、優人がそれでいいと思ったんなら、私もいいけど。うーん、お金、大丈夫かな」
朝日が、少し心配そうな口調でそう言うと。
「いや、ここの店での料金は、全額俺が払うから、その心配はしなくていいぞ」
優人は朝日に向かってそう言った。しかし、
「え、それは優人に悪いよ。今まで割り勘だったのに」
と、朝日は言ったが。
「いいって、ちゃんと二人分の料金は用意してきたし。それに、多分近い内にバイトをしようとは思ってるから、多分まとまったお金が入って来る様になると思う」
優人がそう言うと。
「そういえば、この前もアルバイトを探してたみたいだけど、良さそうなのはあった?」
朝日はそう聞いた。なので、
「うーん、バイトの求人自体は、結構あるけど、どれも微妙なんだよな」
優人は正直に、現状を話した。すると、
「そうなんだ……もしよかったら、私の友達になにかいいアルバイトがないか、聞いてみようか? うちの学校はバイト禁止じゃないから、何かしら有益な情報を持ってる子も、居るかもしれないよ」
朝日はそんな事を言ったが。
「いや、今は大丈夫だ。いつまでもお前に頼ってばかりだと、前に勧めないだろうし、もう少し、自分で探ってみるよ」
「そう、分かった。でも、どうしても必要になったら、いつでも相談していいからね」
「ああ……ありがとな、朝日」
「ふふ、どういたしまして」
そんな話をしていると、料理が完成したのか。
襖が開き、女将さんと、もう一人の着物を着た女性が、お盆に料理を乗せて、部屋に入って来た。
そして、素早く料理をテーブルの上に並べると、足早に出て行った。なので、
「それじゃあ、食うか」
「うん、そうだね」
そう言って二人は、普段は絶対に口にする機会はないだろう高級料理を、口に運び始めた。
その後、料理を食べ終えた二人は、デザートを口に運びながら、まったりとした時間を過ごしていた。
「ありがとう、優人」
すると、朝日は唐突にそんなことを言った。
「何のことだ?」
優人がそう言うと。
「今日のデートだよ。まあ個人的には、突っ込みたいところもあったけど、初めてのデートプランにしては、頑張ったほうじゃないかな?」
朝日はそう言った。
「そうか、因みに100点満点で言うと、何点だった?」
「うん、えっと……そうだね、70点くらいかな」
「それは、何というか、悪くはないけど、反応に困る点数だな」
優人はそう言ったが。
「素直に喜んでいいと思うよ。私的には、結構辛口目で評価したつもりだし。それに、デートはこれっきりじゃないんでしょう?」
「まあ、そうだな。予定が合えば、今後も誘おうかなとは思ってるよ」
優人がそう言うと。
「それなら、今後頑張って、点数を上げていけばいいよ。いきなりいい点数を上げて、優人にこれくらいでいいかって満足されても嫌だから、今後も頑張ってね」
「ああ、任せとけ」
優人はそう言った。そして、
「それじゃあ、そろそろ帰るか」
「うん、そうだね」
優人がそう言うと、朝日は続いて返事をし、二人して、席を立った。すると、
「でも優人、本当にここの夕食代は、おごりでいいの? 自分の分くらい、払ってもいいよ」
朝日はそう言ったが。
「大丈夫だ、ゲームソフトを2本、買ったくらいの出費だから。高いけど、絶対に払えないって額じゃないよ」
優人は改めて、朝日にそう言った。
「そう、優人がそう言うんなら、それでいいよ。でも、今度誘ってくれる時は、ここまで無理しなくていいからね。学生なのにあんまり無理したら、自分のために使うお金がなくなっちゃうし、デートはお金よりも、いかに二人が楽しめるかが重要だと、私は思うから」
「ああ、分かった。ありがとな、朝日」
「どういたしまして」
その言葉を最後に、今度こそ二人は部屋を出て、会計をしに向かった。




