第34話 デート当日 ②
その後、二人は目的の電車に乗り込むと、中は割と空いていた事もあって、並んで椅子に座ると。
いつものように、他愛もない雑談をしながら、暫く電車に揺られていた。
そして、目的の駅に着くと、二人は電車から降りて、改札口を通り抜け、街中へ出た。すると、
「それで、優人。最初はどこに行くの?」
朝日は優人の眼をみて、そう質問をしてきた。優人は、今日の予定に関しては、何時にどの電車に乗ってどの駅に降りるのかということしか伝えていなかったので、朝日はこの後のスケジュールに関しては何も知らなかった。すると、
「まあそれは、着いてからのお楽しみってことにしてくれ」
優人がそう言うと、朝日は一瞬、何かを考えてから。
「優人が私のお願いを聞いてくれるんなら、それでもいいよ」
朝日はそんな言葉を口にした。
「……因みに、そのお願いって言うのは何なんだ?」
その言葉を聞いて、優人がそう質問すると。
「簡単なことだよ、それはね」
そう言うと、朝日は黙って、自分の左手を、優人に向けて差し出して来た。それを見た優人は、一瞬言葉を止めた後。
「誰かに観られて、学校で噂になっても知らないぞ」
そんな言葉を口にしたが。
「大丈夫だよ。今までだってよく、恋人だの夫婦だのって、散々言われて来たし……ただの幼なじみとして観られるよりはそう思ってくれた方が、私としては嬉しいから」
「……朝日」
「ただ優人は、そんな風にからかわれるのは、今でも嫌なのかな? もしそうなら、無理にとは言わない……」
そこまで聞くと、優人は黙って、朝日の手を握った。
「……優人」
「そんなことを思ってる人間が、こんなに人通りが多い所を、デート場所に選ぶわけないだろ……あんまり下らないことを話してて、プランが崩れるのも馬鹿らしいから早く行くぞ」
「うん……そうだね!」
朝日が笑顔でそう答えると、優人はゆっくりと、朝日はまだ知らない目的地に向かって歩き出し。
朝日もゆっくりと、優人に少し肩を寄せて、彼に合わせて歩み始めた。
「って、おい朝日! なにしれっと恋人繋ぎに変えてるんだよ」
「別にいいでしょ? なんて言うか、この方がよりデートっぽいし」
「……そうだけど。俺たちはまだ、付き合っては無いし」
「まあそうだね。でも、数十分前に、まだ付き合ってない幼なじみ相手に、キスしようとした男子が、どこかに居た気がするんだけど……私の気のせいだったかな?」
「……今日だけだぞ」
「そんなこと言って、優人だって嬉しい癖に……まあ、私もなんだけど」
「……ノーコメントで」
「そう。でも大丈夫、口には出さなくても、優人の気持ちは私には、きちんと伝わってるから」
「そうか。まあ普段はそうでも、今回ばかりは間違ってると思うぞ」
「そんなことないよ。好きな子と触れ合えてうれしいって、優人は思ってるよ」
「思ってねえよ」
「思ってる」
「思ってねえ」
「思ってる」
そんなことを言いながらも、しっかりと手を握ったまま、二人が歩いていると。
「……仲いいなあ、あのカップル」
「ああ、眼に毒だから、家でやってくれって感じだよ」
近くを歩いていた男二人組の男子が、嫉む様な、それでいてどこか羨ましそうな眼差しを向けて、そんな風に毒づいていたが。
幼なじみ二人は、つい数十分前に注意されたことを、すっかりと忘れていて。
相変わらずお互いのことしか、観えてないのだった。
そして、そんな話をしながらも、恋人繋ぎのまま、数分間歩き続けると。
大型のショッピングセンターに入り。そのままエレベーターに乗り込むと、最上階へと昇って行った。そして。
「ほら、着いたぞ」
優人はそう言うと、一つの大きな建物の手前で立ち止まった。
「ふーん、映画館なんだ」
すると朝日は、少し意外そうな様子でそう言った。
「なんだ、不安だったか?」
優人がそう聞くと。
「そんなことはないよ。ただ、素敵なデートプランを考えてくるなんて言ってから、どんな場所に行くのかなって、正直ちょっと期待してただけだから」
「そうか、悪かったな。面白みのない場所で……嫌だったら、別の所にするか?」
優人が、少し声を小さくしてそう言うと。
「ううん、別にいいよ。映画観に来るのも久しぶりだから、それはそれで面白そうだし。それに、ここを選んだのも、優人なりの考えがあるんでしょう?」
「まあ、そうだな」
優人がそう言うと。
「ならいいよ。今日のプランは全部、優人に任せるって決めてるから。それで、何を観るのかは、もう決めてるの?」
朝日がそう質問してきた。なので、
「いや、それは二人で話し合って、決めようと思ってる」
優人がそう答えた。なので、
「そうなんだ。なら、早く行って決めようよ。飲み物とかも、買っときたいから」
「そうだな」
そう言って、二人はそのまま、映画館へと入って行った。




