第30話 待ち時間
彼女が読書を再開したのを観て、優人は暇な時間が訪れた。とはいえ、数十分も何もせずに過ごす訳にもいかないので、優人は本棚に並んでいる本を観ながら、暇を潰す事にした。
彼自身、普段から漫画やライトノベルをよく読んでいて、本を読むことは好きだったので、こうして本のタイトルを見て回るだけでも、優人はそれなにり楽しめるタイプの人間なのだが。
この店舗には、某有名な英語七文字の全国チェーン店とは違い、どんなジャンルの本でも幅広く取り扱っているという事はなく。
彼の目に着くのは、国語の教科書に載っていそうな有名なタイトルの純文学や、いかにも頭のいいおじいさんが集めてそうな、小難しそうな歴史書や専門書が多数を占めていて、優人の趣味とはズレている内容のモノが大半だった。
ただ一応、漫画やライトノベルを置いているスペースもあり、優人はそのコーナーへと訪れたが。
そこに置いてあったのは、日本人なら誰でも知っている様なジャップ系の長編漫画や。
多少アニメの知識があれば、実際に観たことはなくても、タイトルくらいは聞いたことがある様な、少し前に流行った、有名なライトノベルばかりで。
小遣いの殆どを、漫画やアニメに詰め込み。
週刊少年漫画雑誌の発売日には、登下校の途中にあるコンビニで立ち読みをし。
毎シーズン十本前後のアニメを、最後まで欠かさずに観終わる優人からすれば、タイトルを見ただけで、どの様な内容だったか、物語の最初から最後まで、大雑把に説明できるくらいには、しっかり読み込んだ作品ばかりで。
幾ら暇だとはいえ、今更改めて見直そうとは思えなかった。
寧ろ、メジャータイトルの作品は、漫画、ラノベ、アニメ問わず、殆ど目を通している優人からすれば、マイナーだけど、実は愛好家が多い、隠れた名作である作品を探すのが、本屋に訪れた際に、優人がよくやっている、一番の楽しみ方だが。
この店には、そういった楽しみ方を見出すのは、かなり厳しそうだった。
なので、優人は仕方なく、スマホで適当なネットニュースを観ながら、過ごす事にした。
そして、暫く間立ったまま、スマホの画面を指でタップしながら眺めていると。
「……あの」
「え?」
唐突に、店の奥かの方から声を掛けられ、優人が顔を上げて、レジの方を見てみると。
レジの後ろで、先ほどまで読書をしていた女性が。本を机の上に置き、優人の方を観ていた。そして、
「……その、立ったまま待つのも大変でしょうから。もしよかったら、そこに座って待って居て下さい」
と、店の隅に置いてあった、折り畳み式のパイプ椅子を、遠慮がちに指さしながらそう言った。
「……そうですね。それなら、そうさせて貰います」
優人はそう言うと、再び店の奥まで歩いて行き。
パイプ椅子を組み立て、彼女とは多少距離を置いた場所に、椅子を置き。
ゆっくりと、その椅子に腰かけた。すると、
「えっと……お茶か何か、飲みますか?」
彼女は遠慮がちに、そう聞いてきた。しかし、
「いえ、遠慮なく」
「……そうですか、分かりました。では、もう少しお待ちください」
彼女はそう言うと、再び本を手に取り、読書を再開した。それを観て、優人も再度、スマホで時間を潰そうと、ポケットに手を入れようとしたが。
「……あの」
また声を掛けられて、優人が顔を上げると。本から視線を上げてた少女が、優人の事を観ていた。そして、
「えっと……その……」
彼女は、まだ優人に言いたい事があるのか。そんな風に彼女は、何かを口にしようとしては、言いづらい事なのか、中々口には出せずにした。しかし、
「……ん!」
と、何かを決意したかの様に、彼女はそう言うと、表情を引き締めた。そして、
「あの!」
「え、あ、はい。何でしょう」
「……千咲さん、古川店長とは、どういったご関係なのですか?」
彼女はそう質問をした。なので、
「えっと……いきなりどうしたんですか?」
優人は少し困った様子で、そう聞き返した。すると、
「あ、すみません。ただ、こんな風に、店長を訪ねてきた人は初めてだったので。どんな要件なのか、少し気になってしまって……あ、勿論、言いづらい事なら、無理に言わなくてもいいですよ!」
彼女は自分の気持ちを伝えた後、慌てた様子でそう付け加えた。なので、
「ああ、そういう事ですが。別に隠すような事ではないので、知りたいのでしたら、お話ししますよ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「ええ、実は……」
そして優人は、昨日おこった出来事と、自分がここを訪れる事になった理由を、簡潔に話した。すると、
「……そうなんですか。昨日そんなことがあったんですね」
「ええ。因みに店長は、この事を貴方には話してなかったんですか?」
優人がそう聞くと。
「……はい。ただ、もしかしたら近い内に、私と同い年くらいの人が店に来るかもしれないと言ってましたが、お客様の事だったんですね」
彼女は優人の事を観て、そう答えた。なので、
「多分、自分の事でしょうね……因みに、同い年くらいって話ですが、おいくつなんですか?」
優人はもう少し踏み込んで、そう質問をした。すると、
「あ、えっと……今年で、高校1年生になりました」
彼女は少し戸惑いつつも、そう答えた。なので、
「そうなんですね。因みに俺は高校2年生だから、貴方の一つ歳上ですね」
「……ええ、そうなりますね」
そこまで話して、二人の会話は途切れた。
優人は普段からあまり口数が多くなく。女子との会話も、母親と幼なじみの渡辺朝日を除けば、偶に会う藤宮鈴華と少し、世間話をする程度なので。
女子とはどういった会話をすればいいのか、正直、優人にはよく分からなかった。
ただ、店員の女子の方も、会話はあまり得意そうではなく。優人に話しかける時はいつも、緊張しているのか、深呼吸を挟んでから、話しかけて来てきていて。
実際に話している時も、あまり異性とは話慣れてないのか、少し頬を赤くしながら話していた。
それなのになぜ、わざわざ話しかけてくれたのかと言うと。それは単に、大切なお客様に退屈な思いをさせてはならないという、店員魂の様なモノが働いたのだろう。
とはいえ、どんな理由であれ、歳下の、しかも可愛い女の子に話しかけられて、思春期待っただ中の男子である優人が、嬉しくない筈もなく。
同じ人見知り同士、優人が妙な親近感を覚えた事も重なり。
優人はもう少し、この店員と話してみたいと思った。
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