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幼なじみに告白したい!  作者: 向井数人
第一章
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第3話 休日の二人②

「えっと、ご飯は結構残ってるし。冷蔵庫の中には、ハムに卵に玉ねぎに、それから……」

 台所に赴いた朝日は、そのまま炊飯器や冷蔵庫の中身をチェックし始めた。そして、

「そういえば優人、今日はおじさんとおばさんは居ないの?」

 朝日は、台所からそんな事を聞いてきた。

「母さんは買い物に出てるから、多分昼は外で食べて来るだろうし、夕方までは帰ってこないんじゃないか。父さんは、休日はいつも昼過ぎまで寝てるから、もう少ししたら降りてくると思うぞ」

 優人はそう答えた。

「そっか。それなら、おばさんの分は要らないから。私と優人とおじさんの、三人分でいいか」

「そうだな。それで、何を作るんだ」

「それは、出来るまでのお楽しみって事で。でも、優人の好物だから楽しみにしてて」

「了解」

 そう言われたので、優人はそれ以上は口を出さ挟まず、黙ってアニメに集中することにした。 



「優人、出来たよ」

 丁度、アニメが一話終わったころ。朝日がそう言ったので、優人はテレビの電源を落とし、朝日のいる台所のまで行った。

 すると、朝日は四人でも余裕をもって座れる大きさの、木製の机の上に、出来立ての炒飯を三人分、並べていた。そして、

「おじさんは、まだ起きて来ないね。それなら取りあえず、後で食べられる様にラップをかけてから、机の上に置いておくね」

 朝日はそう言って、一つの炒飯にラップ掛けをした。

「本当に悪いな、何から何まで」

「別にいいよ。さっきも言ったけど、私が好きでやってる事だから」

 朝日はそう言ったが、優人としては、さすがにここまで世話を焼いてもらって、何もお返しをしないのも悪いと思った。

 とはいえ、家事スキルも甲斐性も持ち合わせていない優人には、年頃の女の子の朝日が、何をしたら喜ぶのかは、よく分からなかった。なので、

「せめて洗いモノくらいは俺がやるよ、食器は水に付けといてくれたらいいから」

「そう、ありがとう。作るのは好きだけど、片付けはそんなに好きじゃないから助かるよ」

「ああ、それと」

 優人はそこで、一旦言葉を切り。

「さすがにそれだけじゃあ、俺の気が収まらないから。今日は何か一つ、お前の我儘を聞いてやるよ」

 優人がそう言うと、朝日が一瞬動きを止めた。そして、

「へー、そう……今の言葉、忘れないでよ」

 朝日は、少し意地の悪い笑みを浮かべてそんな事を言った。

「おい、あんまり変な事は言うなよ」

「変な事ってなによ?」

「いや、それは分からんが。まあ、常識的な範囲内で納めてくれよ」

「うーん、それはどうだろう?」

「おい」

「ふふ、冗談だって。私だってまだ何を言おうか、正直思いついてないし。まあ、それは後でゆっくり考えるから、取りあえず昼ご飯食べよう。折角、優人が好きな炒飯なんだから、冷める前に食べようよ」

「……ああ、そうだな」

 そう言って優人は、いつも座っている席に着き。朝日は優人の隣の席に着いた。そして、

「頂きます!」

「……頂きます」

 朝日がわざわざ手を合わせて言ったので、優人も真似をしてそう言った。そして早速、炒飯を食べようと、スプーンで一口分すくって、口元に運んだのだが。

「なあ、朝日」

「なに?」

「そんなに観られると、非常に食べ辛いんだけど」

 朝日は、自分のスプーンには手を付けず。黙ったまま笑顔で、右隣に座っている優人の手元を観ていた。

「私の事は気にしなくていいから」

 しかし、当の朝日は何でもない様にそう言った。こうなったら、朝日は意地でも言う事を聞かないのを、優人は長い付き合いの中で知っていたので。諦めて、少し恥ずかしさの様なモノを感じつつも、炒飯を口に入れた。

「どう? おいしい?」

 朝日は、少しだけ不安そうな表情をしてそう聞いてきた。なので、

「……ああ、旨いぞ」

 優人は、素直に思った事を口にした。小学生の頃から家事や料理の手伝いをしていた朝日の腕は、優人の母親と比べても見劣りしないくらいには成長しており。その上、優人の好みの味付けも熟知しているので、文句の付け所が無かった。

「そう、良かった」

 そう言った朝日はとても嬉しそうで、思わず優人は眼を逸らしす。そして、

「ほら、これで満足だろ。お前も冷めないうちに早く食えよ」

「あ、うん。そうだね頂きます」

 朝日は改めてそう言うと、ようやく自分の分の炒飯を食べ始めた。



「ご馳走様、我ながら美味しかったわ」

「そうか、良かったな」

 あれから暫くして、先に優人が炒飯を完食し。それから数分経って、朝日も食べ終えた。

 基本的に口数の多い朝日は、食事中も優人によく話しかけてきたので。食べるスピード事態は、女子にしては早い方だったが、よく手が止まっていたので、食べ終わるのが少し遅かった。そして、

「それじゃあ、俺は洗いモノをしとくから、朝日は先に俺の部屋に行っといてくれ」

「うん、了解」

 そう言うと、朝日は席から立ち上がり、再び台所に立つと、お盆を一つ取り出し。

 その上に、1.5リットルの炭酸飲料とコップ二つに、戸棚からお菓子を取り出して、それらをお盆の上に載せてから。

 落とさない様に、少し慎重な足取りでリビングを出て、階段を上って行った。

「もう自分の家みたいに馴染んでるな。まあ、昔の事を思えば、それも当然なのかもしなれないけどな」

 優人はそう呟いて、洗いモノを始めた。


 

 その後、洗いモノを終えた優人は、朝日の後を追って二階に上り、自分の部屋のドアを開いた。そして、中に入ると。

「あ、優人、洗いモノありがとう」

 そう言った朝日は、優人の部屋にある彼のベッドに仰向けで寝転がり。

 優人の私物の中の一つであるライトノベル一冊を、彼の部屋の本棚から取り出して読んでいた。

「食ってから直ぐに寝ると太るぞ」

 優人は、からかうような口調でそう言ったが。

「大丈夫、私は食べても太らない体質だから」

 朝日は、多くの女性を敵に回しそうな発言をした。しかし事実、朝日は代謝がいいのか、昔からそういった悩みとは無縁だった。

 しかし、その代償なのか。朝日はどれだけ健康的な生活をしても、背はあまり伸びないし、胸も成長しなかったので、いい事ばかりでもなかった。

 それでも毎晩、僅かな希望にかけて風呂上がりの牛乳を欠かさない辺り、朝日も人並みには苦労をしているのだった。

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