第23話 二人の記憶
山下優人と渡辺朝日。二人はいわゆる幼なじみだった。
お互いに家が隣同士。そして、二人の両親も仲が良く、優人と朝日が同い年という事もあって、二人は親の顔が分かる頃には、お互いの事を知っていて、幼稚園に入学してからも、仲良く過ごしていた。
ただ、この頃の二人の性格は、今とは真逆であり。
今は口数が少なく、休日は部屋に籠って一日中ゲームやネットをして過ごしている優人だが。この頃は、明るく人見知りをしない性格をしていて、幼稚園では外に出て、男子たちとかけっこやかくれんぼをして過ごしていて。
反対に、今では明るく元気で、休日はよく、優人を連れまわして遊びに出かけている朝日に関しては。この頃はかなりの人見知りで口数が少なく、幼稚園では部屋に籠って、本を読んだりビデオを見て過ごしていたりと、かなり控えめな性格をしていた。
そんな風に、今とは性格が逆転している様な二人だが、仲がいいのは変わらず、昔から気心の知れた間柄で。
優人は休日に、朝日を外で遊ぶのに誘ったり、朝日を家族旅行に付き合わせたりと。今とは違い、かなり積極的に朝日と一緒に過ごすようにしていて。
朝日も朝日で、人見知りで仲のいい人があまり居ない中、優人にだけは懐いていて、彼と一緒にいると常に笑顔だったり、お気に入りの本やアニメを観るために、自分の部屋に招いたり、優人の両親に言われて、偶に彼の家に泊まったりと、今以上に二人の距離は近かった。
しかし、小学校に入学してから暫くして、そんな二人の関係に変化が訪れる。
「……優人くん、一緒に帰ろう?」
放課後、優人が同じクラスの男子たちと雑談をしていると、朝日が少し恥ずかしそうに、しかしほんの少し笑顔を浮かべながら控えめな口調で、そんな事を言ってきた。
「ん……ああ、いいけど。という訳で、俺はもう帰るわ。じゃあな皆」
優人はそう言うと、別れの挨拶を済ませ、自分の席から立ち上がった。すると、
「なあ優人、お前、山下さんと付き合ってんの?」
優人と一緒に雑談をしていた男子の内の一人が、唐突にそんな事を聞いてきた。
「は、何でだよ?」
それを聞いて、優人がそう言い返すと。
「いや、だって二人ともいつも一緒に帰ってるし。それに、渡辺さんが仲良くしてる男子って優人だけだから、そういう関係なんじゃないかなって思ってたんだ」
「あー、それは僕も思ってたんだ。渡辺さんは山下くんと一緒に居る時はいつも笑顔で嬉しそうだし、山下くんも渡辺さんには、とても優しく接しているからね。付き合って無いにしても、お互いに何か思う所があるんじゃないのかい?」
彼に続いてもう一人、眼鏡をかけた勤勉そうな男子が、優人に向けてそう言った。しかし、
「はあ……何言ってんだ、二人とも。俺と朝日とは、ただの幼なじみだよ。なあ、朝日」
優人は朝日に向かって、そう言ったが。
「え、それは……」
朝日はそう言って、下を向いて少し黙っていたが、ゆっくりと顔を上げて、照れくさそうに笑うと。
「えっと……優人くんは私の事、ただの幼なじみだとしか思ってないかも知れないけど、私は優人くんの事、とっても大好きだよ」
朝日はそう言って、満面の笑みを浮かべた。
「なっ、お前!」
それを聞いて、優人が一瞬言葉を失っていると。
「うおー、渡辺さんが優人に告白したぞ!」
「優人、返事をしてあげなよ!」
その言葉を聞いて、優人本人ではなく、周りにいた男子生徒たちが騒ぎ始め、放課後の穏やかだった雰囲気は、直ぐに騒がしい喧騒に包まれた。
「おい、お前たち、あんまり騒ぐなよ。二人とも困ってるだろ!」
そして、あまりの事態に最初に原因を作ったスポーツ少年風の男子が困惑した様子で、思わずそう言ったが、そんな事で少年たちの好奇心が収まる訳もなく、クラスに残っていた他の生徒たちにも、この喧騒は伝わり、ついには収集が付かなくなった。なので、
「っつ、帰るぞ! 朝日」
「え? 優人くん」
優人はそう言って、朝日の手を握ると、そのままランドセルを持って、急いで教室から出て行った。
「……」
「……優人くん、ごめんね」
学校を出て十数分、優人が朝日の手を握って歩いていると、朝日が唐突に口を開いた。
「私が優人くんに、大好きって言った事……優人くんは、私の事をただの幼なじみだとしか思ってないのに、突然こんな事を言われても、迷惑だよね」
朝日は俯きながら、そう口にした。しかし、
「……んな事はねえよ。お前は普通に可愛いんだから、もっと自分に自信を持てよ」
優人はそう言って、握っていた朝日の手を離すと、そのまま彼女の頭をゆっくりと撫でた。
「へ……優人くん?」
突然の出来事に、朝日は戸惑った様子でそう言った。なので、
「っと、悪い。こうしたら女の子は喜ぶって、アニメで観たんだけど。嫌だったか?」
優人はそう言って、朝日から手を離そうとした。しかし、朝日はゆっくりと両手を自分の頭に持って行き、優人の手を優しく掴むと。
「……ううん、そんな事ないよ。優人くんがこうしてくれると、何だか心臓がトクトクして、少し変な感じがするけど、優人くんに頭を撫でてもらえると気持ちいいし、何だか落ち着くの」
「……そうか。なら、もう少しこうしててやるよ」
「うん、ありがとう……ねえ、優人くん」
「何だ?」
「……私、優人くんの事が大好き! だから、これからもずっと一緒にいてね」
「……ああ、分かったよ」
そんなやり取りをして、優人はもう少し朝日の頭を撫でてあげてから、二人仲良く帰路に着いた。
こうして二人の仲は、短いながらに更に縮まった。しかし、二人は知らなかった。これがキッカケで、周りの目が確実に変わる事を。
そして、幼く純粋な好奇心や嫉妬心が、どれだけ恐ろしいかを。




