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幼なじみに告白したい!  作者: 向井数人
第一章
22/42

第22話 最後の連休

 ゴールデンウィーク五日目の最後の休日。山下優人は自分の部屋に籠り、携帯ゲームに勤しんでいた。そして、

「ねえ優人、そこに置いてある、私のジュースを取って」

「はいはい」

 優人のベッドに仰向けに寝転んで、ライトノベルを読んでいた渡辺朝日にそう言われ、優人は床に置かれていたお盆の上にある、500ミリリットルのペットボトルを持ち、朝日に手渡した。

「ありがとう、優人」

 朝日はそう言うと、優人からそれを受け取るとベッドに座り、蓋を開けると一気に飲んだ。そして、

「うーん、美味しい! 昨日みたいに出かけるのも、それはそれで楽しいけど。やっぱり休みの日は、こうしてダラダラしながら過ごすのが一番だね」

 朝日は、炭酸の苦さに少し目を細めながらそんな事を言った。なので、

「それについては、全面的に同意するけど。でも、家に来てよかったのか?」

「え? なんで?」

 朝日がそう聞くと。

「だってお前、藤宮さんが言うには、今日は明日からの学校に備える為に、各々自由に過ごして、遊び疲れを取っておこうという話だっただろ。ならお前は、わざわざ俺の部屋に来なくても、自分の家で過ごしてた方が、よりリラックスできたんじゃないのか?」

 優人はそう言ったが。

「うーん、そんな事ないけどね。前にも言ったけど、この家は私にとっては、第二の実家みたいなものだから、家に居るのと気分的には、そんなに変わらないんだよね。それにね」

「それに、何だ?」

 優人がそう聞くと、朝日は悪戯っぽい笑みを浮かべ。

「自分の部屋に一人でいるよりも、こんな風に好きな人と話をしている方が、私的にはよりリラックスが出来るから」

 なんの恥ずかしげもなく、さらっとそんな事を言った。

「……そうかよ」

 そして、優人はそう返事をすると、朝日から視線を逸らした。

 優人は今まで、返答に困った時はこんな感じにごましてきており、こうすれば朝日は、これ以上は特に言及して来なかった。しかし、

「むー、優人の反応が冷たい。好きな子にこんな事を言われたんだよ。もっと喜んでよ」

 朝日はそう言うと、ペットボトルを枕元に置いてから、ベッドから飛び降りて。そのまま優人の正面から、彼の胸元に顔を埋めるように抱きついて来た。

「おい朝日! なにやってんだ、離れろ!」

 しかし、いきなり好きな人にそんな事をされて、優人は冷静にいられる訳もなく。少し声を荒らげてそう言った。しかし、

「えー、なんで? お互いに好き同士なんだから、これくらいいいでしょ?」

 朝日は顔を上げると、優人の目を見てそう言った。

「確かにそうだけど、俺たちはまだ付き合って無いんだから。こういうのは、付き合ってからにしてくれ」

 それに対して、優人はそう反論した。だが、

「えー、別にいいでしょ。今年中には、どうせ付き合う事になるんだから。実際に付き合った時の、予行練習って事で」

 朝日も譲らず、そう言って再び優人の胸に顔を埋め、優人の腰に回していた腕に力を込めた。口には出していないが、この場は何があっても動かないという強い意志を、優人は感じ取った。なので、

「……仕方ないな。でも、この体制じゃあ動きづらいし何も出来ないから、せめて別の格好にしてくれ」

 優人はそう言って妥協案を出した。すると、

「もう、優人は我儘だね。でも、それなら一つ、やってみたいのがあるんだけど」

「……嫌な予感しかしないが、一応聞いてやろう。どんなのだ?」

「うん。それはね……」

 その後、優人は朝日のやりたい体制を聞き。嫌々ながらもその恰好になった。そして、



「やっぱりこの体制だと、読書がしやすくていいね」

「お前はそうだろうな」

「優人も、ゲームをしたらいいのに。両手は開いてるんだから、出来ない事はないでしょう?」

「悪いけど、色んな意味で出来ないな」

「ふーん、そうなんだ」

 朝日はそう言いながら、優人により体を預けてきた。

 優人は現在、壁に寄りかかって、両足を広げて床に座っていて。

 その足の間に、朝日も足を延ばして座り。優人に背中を預け、優人を椅子代わりにしたまま、のんびりとライトノベルを読んでいた。

 一方、優人はというと。好きな人の体温を全身で感じていて、嬉しさと緊張感で頭が一杯になり。

 両手が空いているモノの、朝日の体を触るわけにもいかず。とはいえ、朝日の言うようにゲームを出来る集中力すら残っておらず。

 結果として、その場で本物の椅子になったかの様に固まっていた。

「ねえ優人、なにもしないんなら、私の事を抱きしめてよ」

「お前は俺を殺す気か」

「なんで!? 優人死んじゃうの? まだ私に告白してないのに死んじゃダメだよ!」

「……馬鹿、冗談だ。死なねえよ」

 朝日があまりにも真面目に受け止めたので、優人は多少冷静になってそう言った。

 ただ、もし今、朝日を抱き締めでもしたら、死なないまでも、色んな感情が限界を迎えて、そのまま気絶する自信はあったので、大変な事になる事に変わりはなかったが。

 まだ誰とも付き合った事もない優人には、この姿勢はかなり刺激が強く。体は全く動かず、言葉を返すのがやっとだった。すると、

「冗談なんだ、びっくりした。もう、驚かさないでよ」

 朝日は安堵した様子でそう言った。

「悪いって」

「……本当に悪いと思ってる?」

「思ってるよ」

「そう。なら罰として、もっと私とイチャイチャしてよ」

「それは駄目だ」

「なんでよ! 優人の意地悪」

 朝日は頬を膨らませて、そう言ったが。

「なあ朝日、今日のお前はちょっと、暴走しすぎじゃないか? しつこい様だけど、俺たちはまだ付き合ってないんだから。そういうのは、実際に付き合ってからにしないか」

 優人がそう言うと、朝日は少しの時間黙った。そして、

「うん、そうだね。ごめんね、優人は昨日、今のままの関係で居て欲しいって言ってたのに。私少し舞い上がってたみたい」

 朝日はそう言ったが。

「いや、悪いのは俺の方だ。これだけ待たせて、それでもまだ告白しないなんて、どれだけヘタレなんだって話だよな」

 優人も、朝日に続いて謝った。すると、

「ふふ、それは私も思ってるけど、いいよ。今年中には告白するって約束してくれたから、許してあげる。だから早く自信を付けて、私に告白してね」

「ああ……なあ朝日、一つ質問があるんだけど、いいか?」

「うん、なに? あ、もしかして、理想の告白のシチュエーションとか、そういうの?」

「いや、悪いけど、そんなロマンチックな話じゃないんだけど、いいか?」

「うん、いいよ。初デートに行きたい所でも、付き合ってからのお互いの呼び方でも、何でも聞いてよ」

「……分かった、それじゃあ聞くけどな」

「うん!」

「……自信って、どうやったら付けれると思う?」

「…………えー、そこからなの? というか、それをよりによって、私に聞くの?」

「すまん、自分でも情けないとは思ってるんだ。でも、一晩考えても、中々いい案は浮かばなかったし。こういうのは朝日に聞くのが一番だと思ったんだ。引きこもりから今みたいに成長したお前なら、なにかいい考えがあると思ったから」

 優人がそう言うと。

「引きこもりの話は、あんまり出さないでよ。もう克服したとはいえ、そんなに話題にしたくないから」

「……そうだよな、すまん」

「……まあ、優人には全部知られてるから、言う程気にはならないけどね。でも、自信を付ける方法か……やっぱり、自分磨きしかないんじゃないかな?」

「自分磨き?」

「うん。私の場合は、引っ込み思案で無口だった自分を変えたくて、色んな人と話をするようにしたし。お洒落だって、優人に少しでも可愛く観てもらえる様に頑張ったよ。そのおかげで、今の私は、人と話すのにそんなに苦手意識は無いし。優人の事もメロメロに出来てるから、結構自信を持ってるよ」

 朝日はそう言うと、どんなもんだと言いたげに胸を張った……ただ、それはとても綺麗な平坦なモノだったとは、朝日のプライドの為にも、優人は言わないでおいた。そして、

「やっぱりそうだよな……」

「優人、自信がないの?」

「自分で言った手前、意地でもやり遂げるつもりだけど……今まで自分を変えようなんて思った事は無いからな。正直、かなり不安だ」

「……うん、分るよ、優人の気持ち。頑張るのって凄く大変だし、しんどいの。だから私が少し、力をあげるね」

 朝日はそう言うと、静かに立ち上がり、ゆっくりと優人の方を振り向いた。そして、

「ねえ優人、目を閉じて」

「え? 朝日」

「今から優人に、私の精一杯のエールを上げるから。優人は黙って、それを受け取って欲しいな」

「……ああ、分かった」

 優人はそう返事をすると、ゆっくりと瞳を閉じた。

 すると、朝日が背を屈め、少しずつ、体が近づいてくる感覚があった。そして……

「……えい!」

「ふぁ?」

 突然顔に触れられた感覚に、優人が驚いて目を開くと、朝日が笑顔を浮かべて、優人の頬を両手で引っ張っていた。

「ふふ、キスされると思った? 残念でした。それはさすがに、付き合うまでお預けだよ」

「こりぇのどほがヘールなんだ」

 上手く言葉が出せないまま、優人がそう聞くと。

「うーん、分からないかな? 私の笑顔、それが優人に送る、私からのエールだよ」

「へがお?」

「うん。頑張ってるとどうしても壁にぶつかって、諦めたい、これ以上続けたくないって思う日が来るの。でも、私はその時、成長した私を観て喜んでくれる優人の事を思って、挫けずに頑張れたの。だから優人は、辛くて挫けそうな時は、私の事を思ってくれると、きっと頑張れると思うし、私も嬉しいから、なんて。って、ナルシストっぽいかな、私」

「……へや。はりがとうはさひ、ほまえのほとばのほかげで、はんばれるきがするほ」

「もう、なに言ってるか分からないよ。でも、元気が出たんならよかったよ。頑張ってね優人。私はずっと待ってるから」

「ああ、ありがとな、朝日」

 朝日が手を離したので、優人はきちんと、礼を行った。すると、

「どういたしまして。それと優人、私はちょっとやりたい事が出来たから、今日はもう帰るね」

 朝日は唐突に、そんな事を言い出した。

「そうか、分かった。それじゃあな、朝日」

「うん、バイバイ優人」

 朝日はそう言うと、優人に背を向け、ドアへと向かった。そして、ドアノブを捻り、ドアを開けると、

「あ、そうだ優人」

「ん? どうかしたか朝日」

「今は無理だけど、付き合ったらキスも、それ以上も事も、優人の好きなだけしてあげるから!」

「なっ!?」

「私が言いたいのはそれだけ! じゃあね優人……告白、待ってるから」

 朝日はそう言い残し、颯爽と部屋を出て行った。

「その言い方はズルいだろ……まあでも、こんなんでも俺は男だ。上手く乗せられていると分かっていても、あんな事を言われたら、頑張るしかないよな」

 部屋に残った優人は一人、改めてそう決意するのだった。

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