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幼なじみに告白したい!  作者: 向井数人
第一章
18/42

第18話 蛇と彼女

(どうしてこうなった)

 優人は心の中でそう叫んだ。二人は現在、まだ訪れてない爬虫類コーナーに向けて、手を繋いで歩いていた。

 しかも、普通に手を繋いでいるだけでなく、お互いの指と指をを絡めた、いわゆる恋人繋ぎだった。

 こうなった理由は単純で。朝日が優人に、爬虫類コーナーには一緒に行くけど、怖いから手を繋いでいて欲しいと言ったからだ。

 それを聞いて、優人は少し悩んだが。

「それくらいなら、別にいいぞ」

 と、心よく了解したのだが。その言葉を聞いた瞬間、朝日がその場で優人の左手を握り、あろうことかそのまま指を絡めて来たのだった。

 ただ、突然の事に優人は驚いて、思わず手を離そうとしたのだが。

「ふふ、優人と手を繋いでるとやっぱり落ち着くね。これなら苦手な蛇を観る事も、挫けずに頑張れそうだよ」

 朝日に、少し照れくさそうに微笑みながらそんな事を言われては、優人は何も言い返す事が出来ず。そのまま二人は黙って歩き始めた。

 そして、そのまま暫く無言の時間が続いていると。

「ねえ、優人」

「……何だ?」

「こうしてると、昔の私たちを思い出さない? 小学校の頃は、こうして二人で手を繋いで、家に帰ってたよね」

「そう言えばそうだったな。というか、そんな昔の事、よく覚えてるな」

「昔って、せいぜい数年前の話でしょ。それに、忘れる訳ないよ。私たちの大切な思い出だから」

そんな事を言っていると、二人は目的地である、爬虫類コーナーの前までやって来た。そして、

「覚悟はいいか、朝日」

 優人がそう聞くと。

「うん。正直少し怖いけど、優人と一緒なら頑張れそうだよ」

「今更だけど、そんなに怖いんなら、来なくてもよかったんだぞ」

「そういう訳にはいかないよ。ここで逃げたら、負けたみたいで嫌だし」

「何に負けるんだよ」

「何って、そうだね……自分自身の心の弱さかな」

「なんだそりゃ」

 朝日の房二病の様な発言を聞いて、優人が呆れた様に言うと。

「もう、そんな事はどうでもいいでしょ。とりあえず、早く行こうよ」

「そうだな」

 そう言って、二人はいよいよ、ゲテモノひしめく爬虫類コーナーに入った。

「いきなり蛇は居ないよね」

 ただ、爬虫類のコーナーに入って直ぐに、朝日は不安そうな声を上げ、優人の握る手を強めてきた。なので、

「まあ、いきなりは居ないだろ、多分。爬虫類コーナー入ったら、いきなり巨大な蛇が居ましたとか、心臓に悪すぎるからな」

「それもそうよね……」

 そうは言っても、朝日は警戒心を緩めず、身を屈めゆっくりとした足取りで、コーナーを進んで行った。そして、一番近くにあった巨大な柵で囲われている、その中を観てみると。

「あれは、ワニだな」

「そうだね」

 最初に居たのは、水辺で呑気に寝ているワニだった。ただ、動物の説明欄には、メガネカイマンと書いてあり、名前だけ見たら、なんの動物か分からないが、何てことない、普通のワニの様だった。そして、

「爬虫類だけど、ワニは平気なんだな」

 優人がそう言うと。

「うん。だってワニって普通に可愛いでしょ」

「そうなのか?」

 優人はピンとこないが、朝日基準では、ワニは可愛いにカテゴリされるらしい。ただ、

「さて、そろそろ次に行くか。あんまりのんびりしてたら、蛇が観れなくなるからな」

「全部のコーナーを観るっていう目標はこれで果たしたから、観なくてもいいんだけどね」

「何言ってんだ。折角だから、全部の動物を観ようぜ」

 優人はそう言って、繋いだままの朝日の手を引いて再び歩き出した。

「何か妙に積極的だけど、優人は蛇は苦手じゃないの?」

 朝日がそう聞くと。

「そりゃあ俺だって苦手だよ。特に、野生の蛇なんかは一生会いたくないからな。でも、動物園の蛇だと、ちゃんとガラスで仕切られてるから、噛まれる心配もないからな。朝日ほどビビる事はないよ」

「例え襲われないと分かってても、蛇は見た目が生理的に受け付けないから、きついんだけどね」

「そんなこと言ってて、いざ本物を前にした時に大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ、いきなり出て来られたら無理だけど。事前に居る事が分かれば、多分耐えられるから」

 そんな話をしながら、二人は更に、爬虫類コーナーを散策した。

 そして、カメレオンや亀、イグアナなどの生き物を観て来たが。肝心の蛇は、まだお目にかかれていなかった。もしかして、前にここ訪れてから大分時間が経っているので、今はもう居ないのかもしれないと、二人が思い始めた時。

「あれ、あそこに居るのって、鈴華ちゃんだよね」

「そうだな」

 朝日の観ている方を優人が向くと。そこには、綺麗な姿勢で立ち、ガラスに挟まれた向こう側に居る何かを一心に観つめてる、藤宮鈴華の姿がった。そして、

「鈴華ちゃん! 何を観てるの」

 朝日はそう言うと、優人の手を離し、鈴華の居る方へとかけて行った。そして、鈴華と一少し言葉を交わし。ガラスの向こうに居る何かを観た瞬間、朝日の動きが止まった。

 そして、朝日はガラスから素早く目を離すと。再び優人の居る所へ、全速力で戻ってきた。そして……

「ぐほっつ」

 そのまま、優人の正面へ全力のタックルを決め、その勢いのまま自分の両手を優人の腰に回し、思いっきり抱きしめてきた。

「おい、どうした朝日」

 優人が、そう声を掛けると。

「ここに来た時に話は聞いていたから、多分駄目だろうとは思っていたのだけど。朝日は余程、この子たちが苦手な様ね」

 いつの間にか、二人の元へ来ていた鈴華が、優人を観ながら言った。

「朝日のこの反応といい、藤宮さんの言い方といい。もしかして、あそこのガラス張りの中に居るのは」

「そう、貴方の予想している通り、蛇よ。より正確には、ビルマニシキヘビという、最大で六メートルにまで育つ、超巨大な蛇なのだけど。まあ、あんな大きな蛇をいきなり目の前で観たら、今みたいな状態になるのも仕方ないわね」

「……それはまあ何というか、どんまい朝日。泣きたかったら、好きなだけ泣いていいぞ」

「ぐす……私もう高校生だもん。泣くわけないもん」

「そんなに鼻をすすりながら言われても、全く説得力がないぞ。ほら、よしよし」

 優人はそう言って、朝日の頭を優しく撫でた。そして、

「でも、藤宮さんが蛇を観ていたなんて、正直意外ですね。もしかして、蛇が好きなんですか?」

 優人がそう聞くと。

「ええ、そうね。私は犬とか猫みたいな可愛い動物よりも、蛇とかトカゲみたいな爬虫類の方が好きね。ただ、この事は誰に言っても、全然理解してもらえないけどね」

「……すみません、俺もその考えは理解できないです」

「……ぐす、私も。ていうか、あんなのが可愛く見えるなんて、鈴華ちゃん絶対可笑しいよ」

「あら、失礼ね。人にはそれぞれ好みがあるのよ。例え、相手の好みが少数派だったとしても、それを頭から否定するのはよくないわよ」

 鈴華はそう言ったが。

「とはいえ、今の朝日をこれ以上虐めるのは、さすがに可哀想ね。私はもう少し、あの子たちを観察してるから。山下くんは、朝日の面倒をよろしくね」

「……ええ、分かりました。残り時間、命一杯楽しんで下さい」

「ええ、そうさせてもらうわ」

 そう言って、鈴華は元居たガラス張りの前に戻って、蛇の観察を続け。

 優人はその間、朝日の気分が落ち着くまで、彼女の頭を撫で続けた。

 ゴールデンウィーク三日目の動物園。各々の好きな動物を知れたり、朝日と久しぶりに手を繋いで歩いたりと、色々と面白い事はあったものの。

 最後は何とも言えない、残念な結果となった。  

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