第15話 朝の戯れ
次の日の月曜日、まだゴールデンウィーク中という事もあり、昨日遅くまでネットの動画を観て、少し夜更かしをした山下優人は。
十一時を過ぎて、もう直ぐ昼になるという時間になって、ようやく目を覚ました。そして、
「今日は駅まで、朝日と一緒に行くんだったな。まだ時間はあるとはいえ、早めに用意しとくか」
優人はそう言うと、昨日の内に準備しておいた、出かける時用のいつもより少しお洒落な服に着替え、一階に降りた。すると、
「あ、おはよう優人。今日は起きるのが遅かったね。もしかして昨日、夜更かしでもしてたの?」
そこには当然の様に、渡辺朝日が居て。朝日はテレビの前にある、ソファーに腰かけており。
優人が、平日の内に録画しておいたアニメの内の一作品を、チョコをつまみつつ、コップに注いだ炭酸飲料を飲みながら、のんびり観ていた。
「前から思ってたけど。お前はもしかして、この家が実家だと勘違いしてるんじゃないか?」
「ん? どうして?」
朝日がそう聞くと。
「だってお前、多分この家では、他の誰よりも寛いでるぞ。いくら幼なじみとはいえ、普通、他所の家に行ったら、少しは遠慮すると思うんだけど」
優人がそう言うと。
「……考えてみればそうだよね。でも、家と学校以外だと、ここに居る時間が一番長いから。そう考えると、この家は私にとっては、第二の実家だと言ってもいいのかもしれないね」
「よくねえよ。と言うか、母さんにはそんな事言うなよ。絶対ろくな事にはならないからな」
「分かってるよ。そんな事を言ったら、いつもみたいに早く嫁に来なさいよって言われそうだよね……私は嫌じゃないけど」
「……そう言えば、母さんは居ないのか?」
朝日の言葉はあえてスルーし、優人はそう言った。
「うん、今は出かけてるよ。私が来た時に、十二時前には昼ご飯を買って帰って来るから、それまで留守番しててねって頼まれたの」
「そうか。悪いな、迷惑かけて」
「別にいいよ。留守番って言っても、こうしてアニメを観ながら、お菓子を食べたり、ジュースを飲んだりして、まったり過ごしてただけだから」
「……認めたくないけど、そこまで馴染まれると、朝日が第二の実家って言うのも分かる気がするな。というか、結構食ったり飲んだりしてるけど、昼ご飯はちゃんと入るのか?」
「うん、大丈夫だよ。おやつは別腹だから」
朝日はそう言うと、チョコをもう一つつまみ、口の中に放り込んだ。
「便利な胃袋をしてるんだな、お前は」
優人はそう言いながら、ソファーで寛いでいる朝日の隣に座った。
「太らないって意味では、確かにそうだね。ただその分、背もあんまり伸びないから、良い事ばかりでもないけどね」
朝日は、苦笑いを浮かべながら言った。しかし、
「別に良いんじゃないか? 確かに他の女子と比べると、多少は小柄かもしれないけど。女子の背の低いは、男子の場合とは違って、そんなにコンプレックスにはならないと思うぞ。寧ろ背が低い方が、可愛くてより魅力的に観えるって事も、普通にあると思うけどな」
優人はそう言ってフォローした。すると、
「ふーん、そうなんだ。ねえ、優人もそう思う」
「何がだ?」
「だから、私は背が低い方が可愛く見える?」
「……まあ、一般的な男子の目から観て、小柄で明るくて元気な女子は、魅力的に映ると思うぞ」
優人はそう言ったが。
「他の男子の意見なんてどうでもいいよ。優人がどう思うのかを教えてよ」
優人の答えが気に入らなかったのか、朝日はそう言った。なので、
「……そうだな。お前は今くらいの身長が、似合ってると思うぞ。何て言うか、子動物みたいで可愛いからな」
優人はそう言うと、自分の右手を朝日の頭上に持って行き。その手で優しく、朝日の頭を撫で始めた。
「むう、またそうやって誤魔化す。でも優人が良いんなら、それでいいや」
「そうだな。背なんて頑張って伸ばせるものじゃないし、朝日は今のままでいいと思うぞ」
「そうだね。それに今くらいの身長の方が、優人にとっても都合がいいでしょ?」
「ん? 何がだ」
「頭を撫でるのにだよ。今は二人とも座ってるから、優人はちょっと無理してるけど。立ってやる分には、今くらいの身長差が丁度いいでしょ?」
「それもそうだな。俺が筋肉痛にならない為にも、是非とも今の高さをキープしてくれよ」
「ちょっと無理して、頭を撫でただけで筋肉痛になるんなら、さすがに優人が貧弱すぎるけどね。それに身長なんて、自分の意思じゃコントロールできないから、どうなるかは分からないけどね」
朝日はそう言ったが。
「大丈夫だろ。お前は昔から、そんなに成長しない体質みたいだし。いきなり急成長するなんて事、奇跡でも起こらない限り無いと思うぞ」
「むー、それは自分でも思ってたけどさ。本人に正直に言う事ないじゃん、優人の意地悪」
「はは、悪いって」
「悪いと思ってるんなら、もっと頭を撫でてよ」
「撫でてるだろ」
「いつもよりやり方が雑だよ、もっと丁寧にしてよ」
「仕方ないだろ、この姿勢だとやりづらいんだよ」
「むー、優人の意地悪」
「何でだよ」
「……本当、仲がいいわよね、貴方たち」
「「え」」
突然、後ろから声がしたので振り返ってみると。優人の母が、買い物鞄を持ったまま、呆れた様子で二人を観ていた。
「あ、おばさん。お帰りなさない」
しかし、朝日はそんな場面を観られても、特に動揺する事もなくそう言った。前回、キスする寸前の所を観られた事に比べたら、これくらい何でもない様だ。
「ただいま。朝日ちゃん、留守番ありがとうね」
「いえ、これくらいお安い御用です。って優人、撫でるの止めないで」
「いや、母さん居るし。さすがにこれ以上続けるのは」
優人はそう言ったが。
「はいはい、邪魔して悪かったわね。私はあっちで昼ご飯の準備をしてるから、終わったら来なさい」
優人の母はそう言うと、そのまま二人には背を向けて、台所の方へと歩き始めた。
「だって優人、おばさんの許可も下りたし、もう少しお願いね」
「……しょうがないな。でも、昼ご飯が出来るまでだぞ。宏樹たちとの約束もあるから、あんまりのんびりしてる訳にもいかないからな」
「はーい」
その後、優人は約束通り。昼ご飯の準備が終わるまで、朝日の頭を撫で続けて。
珍しく昼前に起きてきた、優人の父も合わせて、四人で昼ご飯を食べた後。
森川宏樹と藤宮鈴華と待ち合わせの約束をしている、家から少し離れた場所にある駅に、二人して自転車で向かった。
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