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幼なじみに告白したい!  作者: 向井数人
第一章
11/42

第11話 つかの間の平日

 その後、二人はいつもより少しのんびりとしたペースで自転車を漕ぎ、四十分程かけて、高校へとたどり着いた。そして、

「それじゃあね、優人」

「ああ」

 二人はそう言って、優人の所属している二年B組の教室の前で別れた。そして、優人が教室に入ると。

「おはよう優人。今日もまた、随分と早い登校だな」

 森川宏樹がそう言って、話しかけてきた。

「おはよう宏樹、まあ、色々あってな」

「どうせ、渡辺さんに起こされたとか、そんな所だろ」

「……お前はエスパーなのか」

 優人は、少し驚いた様子でそう言った。すると、

「いや、冗談だったんだが。なんだ優人、ついに渡辺さんに、起こしてもらえる様にまでなったのか。そこまで尽くしてくれる相手がいるなんて、本当、お前は幸せ者だな」

「そんなんじゃねえって……というか、俺は少し仮眠をとるから、ホームルーム前になったら起こしてくれ」

「へいへい。本当お前、誤魔化すのが下手だな」

「うるさい」

 そう言って優人は、机の上に腕を組んでから頭を預け、そのまま寝たふりをして時間を潰す事にした。いつもなら、適当に宏樹と雑談をして過ごしているが。今だと永遠に、朝日との仲をからかわれそうだから止めておいた。



 その後は、ホームルームを終えた後、午前中の授業を済ませ、迎えた昼休み。優人はいつもの様に昼ご飯を、宏樹と二人で適当に雑談をしながら食べる事にした。しかし、

「何だ優人、今日も渡辺さんに弁当を作ってもらったのか?」

 何となく、優人は予想してたが。当然の様に宏樹にそう質問された。

 昨日も優人は、朝日に弁当を作ってもらっていて、宏樹もその事を知っていたが。

「多分、作ってくれるのは今日だけだろう」

 と言っていたので、意外ではあった様だ。なので、

「ああ。何でも、久しぶりに弁当を作ったら、思いのほか楽しくて。俺の分もついでに作ってくれるんだとよ」

 優人がそう説明すると。

「ふーん、ついでね」

 宏樹がそう言い返した。

「何か言いたい事があるのか?」

「別に。それより、早く食おうぜ」

「ああ」

 そう返事をし、優人は弁当を空けた。朝日が作った弁当は二段重ねで。

上の段には、ウインナーや空揚げに卵焼きなど、男子学生が好きそうなモノが積めてあり、それだけではバランスが悪いからと、プチトマト二つとレタスが、弁当の端に添えられていた。

「本当に美味そうだな。とても、ついでに作ったモノだとは思えないな」

 宏樹がそう言うと。

「まあ、あいつは料理が好きだし、ついでとはいえ作るといったら、一切手をぬかないからな。昨日のもそうだけど、何だかんだ言って、アイツの手料理を食えるのは嬉しいよ」

 優人はそう答えた。

「何だ、今回はやけに素直だな」

「こんなに美味しいモノを恵んでくれてるんだ。ちゃんと感謝しないと罰が当たるだろ」

「そう思うんなら、俺じゃなくて渡辺さんにしっかり礼を言っとけよ」

「分かってるよ」

 優人はそう言って、もう一段ある下の箱を開けた。そのには、食べ盛りの男子高校生の腹を満たせる様、箱一杯に白米が敷き詰めてあったが。

 ご飯の上には、味付けのりで四文字。

「だいすき」

 と、そう刻んであった。

「……」

 それを観た優人が、あまりの事に固まっていると。

「何だ、弁当の礼だけじゃなくて告白の返事も必要そうだな」

 宏樹はそんな事を言ったが。

「幼なじみとして好きって事だろ。今更そんな事、言われなくても分かってるよ」

「やっぱり全然素直じゃねえは、お前」

 宏樹は呆れた口調でそう言った。

 その後は弁当を食べ終え、のんびりとした昼休憩を過ごした後。

 春の陽気と、美味い弁当をしっかり食べた事によって襲ってくる心地よい眠気に耐えながら、午後の授業を受け。

 いつもの様に、掃除と帰りのホームルームを終えて、放課後を迎えた。すると、

「失礼しまーす! 優人はまだ居る?」

 そう言って、教室の後ろのドアから例の如く、渡辺朝日が顔を覗かせた。なので、

「ほら優人、嫁が迎えに来たぞ」

「だから嫁じゃねえって。じゃあな、宏樹」

 宏樹にそう言って、優人は学生鞄を持ち朝日の元へ向かった。そして、

「何だ朝日、今日も一緒に帰るのか?」

 優人はそう聞いたが。

「ごめん優人、今週の残りは真面目に部活に出る事にしたから、一緒には帰れないよ」

「ああ、そうなのか。ならいつもの様に勝手に部室に行けばよかったのに。いちいち俺に会いに来るのも面倒だろ?」

「そんな事はないよ、優人と話すのは楽しいし。それに、他に用があったし」

「もしかして、これの事か」

 優人はそう言うと、空になった弁当箱を包んだ風呂敷を、鞄の中から取り出した。すると、

「うん、それだよ……その、全部残さず食べてくれた?」

 朝日は、少し不安そうな表情でそう言った。なので、

「ああ、米粒一つ残さずに食ったぞ。それと、とても美味しかったよ」

 優人がそう言うと。

「そう、ありがとう。そう言ってもらえると凄く嬉しいな!」

 朝日は、満面の笑みでそう言った。そして、

「そんな嬉しい事を言ってくれる優人には、明日からも毎日、お弁当を届けてあげるから楽しみにしててね」

「ああ。正直、平日一番の楽しみになりそうだ」

「もう、おだてても何も出ないよ。でも、嬉しいから明日は、優人の好きなミニハンバーグを入れてあげる」

 朝日は満更でもないのか、そんな事を言った。

「そうか、それは嬉しいな。なら俺はお礼に、ゴールデンウィーク中に、また何かお前の我儘を聞いてやるよ」

「え、本当! それなら」

「ただし、恋人ごっこ以外のな」

「何でよ!」

 朝日が間髪入れずそう言った。しかし、

「考えてもみろ。前回は母さんの乱入があったから未遂で済んだものの、俺だって健全な男だ。今度同じ様な状況になったら、本当にどこまで行くか分からないぞ」

 優人は、内容はぼかしつつも少し脅す様な口調でそう言った。こういう言い方をすれば、朝日も少しは冷静になって考え直してくれるだろうと、優人は考えていたのだが。

「別に、優人ならいいよ」

 朝日は、少し声を小さくしてそんな事を言った。

「……なあ、朝日」

「……なに、優人?」

 朝日はそう言って、少し潤んだ瞳で優人の事を観上げてきた。そんな彼女に対して、優人はゆっくりと、右手を朝日の頭の方に近づけて行った。そして、

「……てい」

「あたっ!」

 優人は朝日の額に、あまり痛みのないように命一杯力を緩めてデコピンをした。そして、

「あんまり馬鹿な事言ってないで、そろそろ部室に行けよ。幾ら緩い部活だからって、遅れるはよくないぞ」

「……優人の意気地なし」

「何の事か分からないな。それと、恋人ごっこ以外の我儘は聞いてやるから、適当に考えといてくれ」

「……分かった。それじゃあ、これ以上遅くなるのも悪いから、私は部室に行くね」

「ああ、またな」

「うん、また明日」

 朝日はそう言って、優人に背を向けると。そのまま廊下の奥の方へと早足で移動し始めたが。

「あ、そうだ、朝日」

「? 優人、まだ何か用」

 そう言って、朝日は振り返って来た。それを観て優人は、一瞬言うべきか悩んだが。

「えっと、その何だ。お前のご飯に乗っけてたメッセージ、ああいうの嫌じゃないし、正直嬉しいんだが。宏樹にも観られるから、出来れば控えてくれ」

 優人は、少し遠慮した口調でそう言った。すると、

「あ、そうなんだ。ごめんね、さすがにあんなストレートな言葉だと恥かしいよね」

「ああ」

 優人が返事をすると、朝日は笑みを浮かべ。

「分かった。それじゃあ明日からは、もう少し控えめな言葉を書くよ。優人が嬉しいんなら止める訳にはいかないし。あんまり恥ずかしく思われない言葉を考えとくね!」

「あ、いや。俺は別に止めてくれても……」

「それじゃあ優人、また明日!」

 それ以上、優人の言葉を聞くことなく、朝日は廊下を去っていった。自分に都合の悪い言葉を聞かない様にするのは、朝日の得意分野だった。

「……帰るか」

 優人はそう言って、軽く自分の教室に目を向けてみると。

「いやあ、久しぶりに見たぜ。お前たちの夫婦漫才」

「……何黙って観てるんだ」

 優人は、意地の悪い笑みを浮かべて立っていた、宏樹にそう言ったが。

「いや、俺はただ、普通に帰ろうとしてただけだぜ。そしたら、お前らが久しぶりに夫婦漫才してたから、面白半分で観てたんだが。あれは相変わらず独り身にはキツイな。あんなの見せつけられたら、俺もそういう相手が欲しくなるぜ」 

「なら作ればいいだろ、お前は普通にモテるんだから。その気になれば彼女の一人くらい、明日にでも出来るだろ」

 優人はそう言ったが。

「いやあ、そりゃあ相手を選ばないんなら作れるだろうけど。適当に選んでも、お前らほどラブラブにはなれねえよ。どうせ付き合うんなら、俺もお前たちくらいの相性がいい相手が欲しいぜ」

「そんなに容姿に恵まれてるのに、贅沢な奴だな」

「あんなに仲のいい幼なじみがいる、お前には言われたくないな。それより」

 宏樹はそう言うと、言葉を一度きり。

「恋人ごっこか。随分と楽しそうな事をしてるんだな、お前たち。具体的にどんな事をしたのか、詳しく教えてくれないか?」

「……ノーコメントで」

 優人はそう言ったが。

「まあいいじゃねえか。どうせこの後は暇なんだし、昨日みたいにどっか店に寄って、惚気話を聞かせてくれよ」

 宏樹はそう言うと、優人に肩を組んできたが。

「ええい、絡むな鬱陶しい。と言うか、お前は少し前まで、そういうのはもう聞き飽きたって言ってただろ」

「それは去年の話だ。今年はお前たちのクラスが離れて、あんまりそういうのを見れそうにないからな。それに、恋人ごっこなんて面白そうな話題、聞かない手はないだろ」

「別に聞かなくても、お前の人生には何の影響もないから心配するな」

「そんな事ねえよ。もしかしたら、今後俺に彼女が出来た時に、何かの参考になるかもしれないだろ?」

「ならねえよ!」

 そんな風に、珍しく積極的に絡んで来る宏樹を何とか振りほどいて、この日の放課後は終わった。



 それ以降の平日も、いつも通り平和だが、いつもより少しだけ、朝日との距離が近い平日を過ごしていき。

 待ちに待ったゴールデンウィークが少しずつ、しかし確実に近づいてきた。

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