最終笑 最後の日、彼と
「あ、慎ちゃん!」
引越す日。俺は誰かに声をかけられた。
「明日香ちゃん?」
俺を慎ちゃんと呼ぶのは明日香ちゃんしかいない。
「どうしたの?」
「お別れ言い来たんだけど……はい、これ!」
明日香ちゃんに可愛らしい紙袋を渡された。
「え、何これ」
「プレゼント!」
「ありがとう。開けていい?」
「うん。あ、でも、手紙は後だよ!」
「うん」
ドキドキしながら開けてみる。中身は片割れのハートのキーホルダーだった。
も、もしかして……。
「え、これ……」
「そ、その……もう一つは、その、あ、あたしじゃないよ、持ってるの」
「あ、そうなんだ……」
「詳しくは手紙に書いてあるから」
すぐに手紙を開けたくなったけど、やめといた。
「あー、慎之介の彼女がいるぅ!」
「お姉ちゃん!」
声はして、振り向くと、ちょうどお別れを言いに来てくれたサッカー少年団のチームメイトが笑っていた。
「うるせー! 彼女じゃない!」
彼女という言葉に胸の高鳴りを感じながら、言葉を返す。それから明日香ちゃんに向き直った。
「ごめん、うるさくて。あ、そうだ、うち来る? 何も無いけどね」
「……ううん、いい。じゃあ、帰るね」
「あ、そう……」
ちょっとがっかり。もう、帰っちゃうのか。
少しうなだれてみると、明日香ちゃんはにっと笑った。
「ねえ、あたしに最後に言う事のない?」
どういう意味か一瞬分からなかったけど、すぐに察知し、顔が火照っていくのがわかった。
「え、えっと……」
ごくんと唾を飲む。ここは、言うべきだよね。
「ま、前から好きでした」
一生懸命、明日香ちゃんから目を逸らさずに言う。耳まで真っ赤になるのが分かった。
それから明日香ちゃんは、俺の耳元で言った。
「あたしも好きでした」
「え、それって」
明日香ちゃんの頬がほんのり赤く染まる。それから明日香ちゃんは小さく手を振った。
俺は嬉しくなって、笑った。
すると、明日香ちゃんもにっと笑い、その場を去って行った。
去ったのを確認して、俺は手紙を開けた。
『慎ちゃんへ。
あたしは貴方が好きでした。多分、秋くらいから。
あの時の告白は本当はすっごく嬉しかった。でも、みんながいる前じゃちょっと、恥ずかしくなってあんなことを言ってごめんなさい。ちゃんと、自分の言葉で言ってほしかった。
多分、慎ちゃんともう会えなくなるけど、もし、会えたら今度はデートして下さい。
それから、プレゼントだけど、遅くなってごめんね。ハートの片割れはあたしが持っています。もし、また会えるとき、あたしにそのキーホルダーを見せてね。
それでは、最後に、絶対にこの一年間の日々を忘れないでね。あたしの事もだけど、光樹も隼人も澪も理紗ちゃんのこととかも忘れないでほしいです。(上田さんもね)
また会えるといいな。では、バイバイ。』
手紙を読んで、涙が溢れそうになった。何で早く告白しなかったんだろうという後悔、これから会えなくなるという実感。寂しさ。そして、明日香ちゃんも俺のことを思ってくれていた嬉しさ。
色んな想いが沸いてきて、俺は服の袖で目をごしごしこすった。
「慎之介ー、行くわよ!」
母さんの声。俺はポケットに手紙を突っ込んだ。
そして、キーホルダーをもう一度取り出し、鞄に取り付けた。
「今行くー」
俺は駆け出し、車に乗り込んだ。
皆に手を振ってお別れを言う。
そして、小さく口で呟いた。
みんなみんなありがとう。そして、大好きです、明日香ちゃん。絶対に忘れません。
“特別な関係”終了しました。
みなさま、今まで、長くありがとうございました。
最終章までかけて本当に嬉しく思います。
では、これからも自分こと“夜明け”をどうぞよろしくお願いします。